15:section of カグヤ 【海を超えて1】
今日は僕とジュナが、本格的に海外に旅立つ日だった。
最小限の荷物をブームスランの小さなトランクに入れ、僕は助手席に乗っていた。
ジュナは楽しそうにブームスランを走らせている。
「ツキシロ財閥の自家用飛行機で行けばいいのに……」
僕はつい不思議に思ったことを聞いた。
「せっかくだから、ブームスランも連れていきたい!」
ジュナが目線を前に向けたまま、首を左右に振る。
「僕とブームスラン、どっちが好き?」
「……同じぐらい?」
「ブームスランに嫉妬する日がくるなんて……」
「機械なんだから、嫉妬するのは違うよね。アハハ!」
前に僕が言ったセリフを真似して、ジュナがケラケラ笑った。
ブームスランを走らせて目指しているのは、海底トンネル。
それは海外間をつなぐ専用トンネルで、床自体が超加速で動いている。
そこに車を止めた状態で乗り、目的地まで運んでもらうのだ。
2103年は、車で海外まで行く方法が主流らしい。
ジュナが運転するブームスランは、緩やかな下り道を進んでいった。
海底トンネルに着いたのだった。
ブームスランを所定の位置で止めると、トンネルの床からロックバーが出現した。
それから音声アナウンスがあり、ブームスランの前後に壁が出現する。
車一台づつで仕切るらしい。
海底トンネルの床のスピードが徐々に増していく。
それに合わせて照明も暗くなり、辺りが薄っすらとした青い光に満ちた。
「久しぶりの海底トンネルだ! カグヤは初めてだよね?」
ジュナは、ハンドル横の空中ディスプレイを何やら操作していた。
すると、僕たちが座っているシートの背もたれが倒れ、可能な限りフラットになる。
「……初めてだけど分かる。スポーツカーで海底トンネルを通るのは、快適じゃないよね」
僕たちは倒れたシートにそれぞれ仰向けで横たわった。
スポーツカーなので、車の中でくつろぐには狭い。
本来なら海外旅行用のセーフティモデルカーがあり、広々とした作りのそれに乗って移動する。
だから長時間過ごす海底トンネルでは、オールフラットにして横たわりながら、いろいろな娯楽をして過ごすのが一般的だった。
「今回が1番長距離移動でしょ? 2時間弱ぐらい我慢してよぉ」
ブームスラン大好きなジュナが、可愛らしく小首をかしげた。
そして透明な薄いゴーグルを2つ取り出して、僕に1つ渡してきた。
「フフッ。せっかくだから、目的地に着くまでにVR映画を見ようよ」
ジュナが楽しそうに笑うと、ゴーグルを装着して上を向いた。
「すごいレトロだね」
僕もジュナの真似をする。
「2103年では最先端だよ! 未来では映画とか見ないの?」
「……見ないかな。欲しい情報は全て読み取って頭の中に流れてくる感じだから、映画を見たとしてもディスプレイ上じゃなくて脳内に展開されると思う」
「ふーん。やっぱり未来はつまんないね」
ジュナの不満そうな声がしたあと、VR映画が始まった。
『最後の刻〜あなたは誰といたいですか?〜』というタイトルが表示される。
そして〝これから地球に隕石が落ちてくるぞ!〟いう冒頭から始まった。
自分は主人公の目線になって、仮想空間で展開される物語を眺めていた。
隕石が落ちてくるまでの時間が、自分の視界の右端にタイマーとなってカウントされだす。
主人公には、最後にどうしても会いたい人『ノウン』がいるらしく、今は近くにいないその相手に連絡を取っていた。
でも上手く連絡が取れない。
そして地球最後の日に混乱している状況の中、さまざまな困難を乗り越え、徐々にノウンの近くに移動していった。
けれどカウントダウンのタイマーは、無常にもどんどん進んでいった。
手に汗にぎる展開に、どんどんノウンに会いたい気持ちが高まってくる。
最後に一目でも会いたい切ない気持ちが強くなる。
空には目視できるほど近くなった隕石が。
そしてタイマーが残り1分を切った時に、ノウンと落ち合う約束をした部屋の扉を開ける。
…………
ーー中にはジュナが立っていた。
ジュナが僕に優しく笑いかける。
「最後に会えて良かった」
ーーーーーー
そこでVR映画は終わった。
「すごいでしょ? 話の内容はベタなんだけどね。見ている人の脳波を読み取って、その人が地球最後の日にはこの人に会いたいって人が〝ノウン〟になるんだって」
隣からジュナの声がした。
僕はVRのゴーグルを外して、ジュナを見た。
ジュナもゴーグルを外しており、僕を見ていた視線とぶつかった。
そうして、僕たちはシートに横たわったまま、お互いを見つめながら言葉を交わした。
「恋人たちに人気の映画なんだ。強く会いたい人を思い浮かべるように、ハラハラする内容らしいよ」
「……ジュナは最後に誰に会ったの?」
「それが、知らない人だったんだよねぇ。薄いピンクベージュの髪に、ダークグレイの瞳……ナオとカグヤが混ざったのかなぁ?」
ジュナが悲しみを瞳に宿して、弱々しく笑った。
「僕はジュナだったよ」
「……エヘヘ。素直に嬉しいかも」
彼女は頬を少し赤く染めて笑った。
ジュナが僕に照れるようになったのは、とても嬉しかった。
僕に対する気持ちが、生まれている証拠だと思う。
「……私、この映画見るの2回目なんだよねぇ」
ジュナが僕から目を逸らして上を向き、ブームスランの天井を見つめる。
「1回目は最後の部屋に誰もいなかったから……地球最後の日に会いたい人がいるって素敵だね」
彼女がポツリと呟いた。
「!!」
思わず目を見開いてジュナを見た。
ジュナは、長いあいだ情愛の感情が抜け落ちていた。
だから以前の彼女には、地球最後の日に会いたくなるほど愛情を抱いている人が1人も居なかったのだ。
僕はたまらずにジュナを抱き寄せてキスをした。
唇を離すと、ジュナが楽しそうにクスクス笑っていた。
「狭いスポーツカーも、くっ付きやすいから、いいとこあるでしょ?」
ジュナが可愛らしく小首をかしげた。




