14:section of ジュナ 【オークション編】
無事に商品を競り落とせた私たちは、オークション会場を後にして、パーティ会場に移動した。
商品を渡してもらうのを待っていた為だった。
「……カグヤの資金だけど、ツキシロ財閥の財力を無駄に見せつける形になってしまった……」
私は周りの目線をビシバシ感じるので、少し縮こまった。
「商品を受け取ったら、もう帰ろうか」
カグヤはそんな視線をもろともせずに、いつものように優しく笑った。
そこに、ルキがやってきた。
赤ワインをトレイに乗せたボーイも引き連れており、私とカグヤにその赤ワインを振る舞ってくれた。
「落札おめでとう。これは俺からのお祝い」
ルキも自分用の赤ワインを手に取り、私たちと乾杯した。
超高額入札をしたので、サイオンジ財閥からのちょっとした接待だろうか?
「ハハッ! ツキシロ財閥はやっぱりすごいな! あんな金額をポンッと出せるなんてな!」
ルキが爽やかに笑った。
「私もビックリしたの。カグヤが入札したからね」
私も苦笑しながら返した。
そんな感じで私たちは、ワインを飲みながらしばらくお喋りをした。
そこにオークションのスタッフらしき人が近付いてきた。
「ツキシロ カグヤ様。商品が用意できましたので、あちらに……」
「分かった」
カグヤがスタッフに案内されて、商品を取りに行った。
しばらくガグヤの背中を見送っていたルキが、私の方に振り返る。
「そう言えば、親父がジュナを呼んでたぜ。挨拶がしたいって」
「??」
「まぁついてこいよ」
ルキが私の腰を抱いて歩き出した。
そのままパーティ会場を出て廊下を進む。
ーーなんだろう?
サイオンジ財閥のトップ、ルキのお父様には数回しか会ったことないんだけど……
しばらくすると、厳重なオートドアがある廊下に出た。
その手前にセンサーがあるのか、ルキが通り抜けるとオートドアが開いた。
「ここからはサイオンジ財閥の一部の人間しか入れないんだ」
ルキがニヤッと笑った。
「お父様がここの奥にいるの?」
私はお酒に酔ってきたのか、ポーっとしながら聞いた。
「お、いい感じになってきてるじゃん」
「??」
「いいから、こっちこっち」
私の質問には答えずに、ルキが私を引っ張るように連れて行ったのは、ホテルのような綺麗なベッドがある部屋だった。
部屋に入った途端に、ポーっとしたままの私はルキに荒々しく抱き上げられた。
そしてベッドに放り投げられる。
「!! 何するの!?」
「何って、ジュナが好きなことを。噂は知ってるから俺ともやろうぜ」
ルキがそう言って自分の上着を脱ぎ、シャツのボタンを外しながら覆い被さってきた。
私は手を上げた状態で腕を捕まれ、拘束される。
「……いきなりだね。何が目的なの?」
「ツキシロ財閥の財力が欲しくなって。俺との子供でも出来れば、あのカグヤってやつと嫌でも離婚して、俺と結婚しなきゃいけなくなるだろ?」
ルキは、オークションで高額を支払ったカグヤを見て、私の伴侶になればあれほどまでのお金を使えると思い込んでいるようだ。
私は少しフワフワしている頭で考えながら、ルキを見ていた。
「うーん……私ピル飲んでるよ」
「じゃぁ子供が出来るまで、ここでジュナを監禁かな」
「……そんな長期戦じゃ無理だと思うなー」
「?? 何が? まぁいいじゃん。カグヤにも相手したがった女たちを当てがってるから、俺らも楽しもうぜ」
ルキがそう言って、私の首筋にキスをした。
途端に体が熱くなって嬉声が出る。
「!!!!」
私は真っ赤になりながら目を見開いた。
「おかしいなって思ってたけど、何か薬を盛ったわね!?」
「あたり〜! ジュナのワインに媚薬をね」
ルキが私の顔を覗き込みながら、イタズラに成功した少年みたいに笑った。
「以前ならスリルある楽しい行為だったんだけど……カグヤがすぐ迎えにくるよ」
私はルキをジトっと見つめた。
「そんなこと出来るわけないだろ。ここは、サイオンジ財閥の一部の人間しか入れないんだから……」
ルキがそう言いながら、顔を近付けて口付けをしようとしてきた。
その時、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。
私は扉を見るために顔を横に向ける。
「ほら、カグヤが助けに来てくれた」
突然横を向いた私の頬に、ルキの唇が触れた。
「……何してるの?」
カグヤが眉間にシワを寄せて、低い声を発した。
ここまで彼が怒っているのは初めてみた。
「ガグヤ! 助けて!」
ルキの下で動けない私は、ガグヤに向かって思わず叫んだ。
「どうやって入ってきたんだ!?」
ルキは驚いた表情をカグヤに向けていた。
カグヤはツカツカとベッドに向かってきて、覆い被さっていたルキの頬を思いっきり殴った。
「いってぇ!! 何するんだよ!?」
ルキが吹き飛んだすきに、カグヤが私を抱き上げた。
そして私のRin-comに触れる。
その途端にルキのRin-comが青く点灯したかと思うと、『バチッ!!』という大きな音と共に、ルキが意識を失って倒れた。
「……感電? させた?」
私は恐る恐るカグヤを見上げた。
「ジュナのRin-comの中にはアイツのアドレスがあるから、それでアイツのRin-comに命令を飛ばした」
「??」
どういう仕組みか私には分からないが、カグヤは相手のRin-comをどうにかすることが出来るらしい。
「ルキ、死にはしない?」
「人の電気に対する耐久度よりは弱いものだから、大丈夫じゃない?」
カグヤは興味がないように吐き捨てると、私を抱き上げたまま部屋を後にした。
しばらくすると、私はカグヤにおろしてもらって自分で歩いた。
それで、なんでルキとあんなことになったのかを説明した。
「早くオークションを終わらせたかっただけなのに、ジュナを危険な目に合わせてごめんね」
「……ううん。カグヤがすぐに来てくれたから大丈夫だよ。競り落とした商品は手に入れた?」
「うん」
「じゃぁ帰ろうか」
私とカグヤは長い廊下を歩き、パーティ会場を抜け、ブームスランのもとへ急いだ。
「そういえば、そっちにもカグヤ目当ての女の人たちが来たんじゃない? どうしたの?」
「……商品を受け取ってから、パーティ会場に戻ったら、すごい勢いの女の人たちに囲まれたんだ。そして、どこかに連れていかれそうになったから……うんざりしてすぐに逃げたよ」
カグヤが当時を思い出しているのか、青ざめながら言った。
「アハハ! 想像できる!」
「……それで、ジュナが居なくなってることに気付いたから探したんだ」
「うん。見つけてくれてありがとう」
私はニコッと微笑んだ。
けれど、ずっとずっと冷静なフリをしていた。
たくさんお喋りしているのも、そのためだった。
何か他のことで気を紛らわせたかったから……
私はブームスランへ向かう歩みを速めた。
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オークション会場からの帰り道、ブームスランをカグヤに運転してもらっていた。
「珍しいね。いつもジュナが運転したがるのに、疲れたからって……」
カグヤがハンドルを握りながら、前を向いたまま話しかけてきた。
私はハンドル横の空中ディスプレイをタッチして、ある場所を行き先に設定する。
「近くのホテル手配したから、ここに急いで向かって! 言っとくけどね、私めちゃくちゃ我慢してるから! カグヤを襲うことを!!」
上気させた頬と潤ませた瞳で、叫びながらカグヤを見た。
「……どうしたの?」
カグヤがチラリと私の様子を見た。
「私のワインに媚薬を盛られてた!」
「…………あはは! 研究者としては薬の反応についてじっくり観察したいんだけど……」
高らかに笑ったカグヤが、だんだんと意地悪な笑みを浮かべて私に言った。
「……この、マッドサイエンティストが!!」
「あはははは!」
それどころじゃない私が叫ぶと、カグヤが大笑いしながらアクセルを踏んでくれた。




