12:section of ジュナ 【なんか流れで結婚した】
私とカグヤは、時間が合う日に一緒にお風呂に入ることが多かった。
今日も一緒に入って、お風呂上がりのカグヤの髪を、ブラッシングドライヤーで優しく乾かしてあげていた。
「ちょっと伸びてきたね。カグヤの髪」
「そうだね。そろそろ切っておこうかな」
カグヤが気持ちよさそうに、目を閉じたまま答えた。
今日は懐いた猫みたいだな。
初めてカグヤをお風呂にいれた日を思い出して、私は人知れず笑みを浮かべた。
すると目を閉じたままのカグヤが口を開く。
「今日は大事な話があるから、ちょっといい?」
「? いいよ」
私はカグヤの綺麗な白い髪を手で梳かした。
カグヤの大事な話はPCルームであるらしい。
私はその前に、バニラアイスにチョコレートのリキュールをかけたデザートを作って持って行った。
「前にこれにハマってて、よく食べてたんだよねぇ」
PCルームでカグヤの隣に座りながら、彼にも私と同じスプーンを添えた透明な器を手渡した。
カグヤは、それまで机の操作板に置いていた手を伸ばして、器を受け取ってくれた。
「お酒がかかってるんだ。おいしいね」
一口食べたカグヤが、穏やかに笑った。
「でしょ? 久しぶりに食べるとやっぱり美味しい」
私もスプーンを口に運んだ。
「実は、未来でしてた研究の続きをしてて……」
カグヤが一旦器を置いて、また操作板に手を置いた。
すると、ひときわ大きな空中ディスプレイが出現し、世界地図を表示した。
「ここにある5つの物を揃えられると、完成しそうなんだ」
世界地図の五つの箇所に、世界共通語……昔でいう英語で文字が浮かび上がった。
その中の1つを見つめながら、私は呟いた。
「……ひとつはこの国にあるんだね」
「この前やっと返事が来て、ようやく揃えられそうな目処がついたんだけど、だいたいが海外なんだ」
カグヤが言い終わると私の方を向いた。
「僕の偽りのRin-comじゃ、海外までは行けないだろうから、前にジュナからプロポーズされたことだし、結婚してくれない?」
「……なんか、一番ロマンチックじゃないプロポーズだね」
私は呆れながらカグヤに返した。
「結婚に乗じて籍を入れた方が、何かと動きやすそうなんだ。僕の資産もだいぶ貯まったし、ジュナを巨額の富として見てるんじゃないよ」
カグヤが首をかしげながら私を見つめた。
「……カグヤの資産?」
「そう。ジュナが僕用に使っていいって言ってくれてた口座のお金を、ジュナの自動運用プログラムを真似て同じように運用したんだ。だからだいぶ増えてるよ」
そう言ったカグヤは小さい空中ディスプレイを出して、私に口座の内訳を見せてくれた。
「…………すごい。カグヤはなんでも出来るね」
私はディスプレイを凝視したまま喋った。
「ジュナ」
カグヤが私をそっと抱きしめてきて囁いた。
「永遠を誓うから、僕のものになってくれる?」
「!!」
本当にどうしたんだろう。
カグヤは元々情熱的な人だったのかな?
感情が開花してからのカグヤは、会った時と別人みたいだ。
「結婚は難しいと思うよ。私、一応財閥の娘だから、叔父さんの許しが必要だと思うし」
「……一度聞いてみたら? 会わせたい人がいるとか言って」
「うーん。じゃぁ叔父さんに聞いてみるね」
私はRin-comを操作してタカユキ叔父さんに連絡をとるために、カグヤの腕の拘束を解いてもらった。
タカユキ叔父さんは、私のお父さんの弟にあたる人だった。
実質今は、この人がツキシロ財閥のトップであり、私の後見人みたいな存在だった。
メッセージを送るとすぐに電話がきたので、空中ディスプレイの通話表示をタッチし、タカユキ叔父さんと喋る。
「うん。……そう、その人と……へ? …………ありがとう」
しばらく叔父さんと喋ると、私は通話を終了して、カグヤを見つめた。
「……叔父さんに、根回ししてた!? 何故かカグヤのこと知ってたんだけど!? そしてすごくスムーズに話が進んだ……私、結婚の話をまだ出してなかったのに、いいよって……」
「フフッ。感情を消せるほどの技術を持ってるってことは、感情の構造について人一倍詳しいんだよ。今回のは心理学に近いかな。ちょっと事前に連絡とらせてもらったよ」
カグヤが、なんてことないように笑った。
「…………」
私は困惑したまま、カグヤを見つめ続けていた。
……すごい人を拾ってしまったかもしれない。
この人に好かれた時点で、逃げ道なんてないんじゃ……
「それで、ジュナの返事は?」
カグヤがそう言いながら、チョコレートのリキュールがかかったバニラアイスをスプーンですくって、私の口に運んできた。
思わず食べてしまった半開きの私の唇に、カグヤの唇が重なる。
口移しでカグヤにアイスを食べさせてしまった形になってしまい、彼はキスが終わると自分の唇をペロっとなめた。
「アイス、おいしいね」
カグヤが無邪気に笑いながら言葉を続けた。
「僕と結婚するよね?」
「…………う、うん」
私は頷いてしまった。
前に言われたように、強く出られると流されてしまっているのかもしれない。
私は楽しそうに笑っているカグヤに困惑しながらも、ずっとそばに居てくれようとしていることに、少し嬉しさを感じていた。
**===========**
今日はカレッジのゼミ室に顔を出していた。
しばらく来なくなるので、研究を出来るだけ進めてしまおうと、私は朝早くから頑張っていた。
そこに、他のゼミ生と混じってマイアが来た。
「ジュナ早いね! 珍しい……」
「うん。おはよう。実はしばらく来れなくなるから……」
「?? なんで?」
マイアは自分のゼミ机につきながらも、首をかしげた。
その時、ミモザもゼミ室にあらわれた。
「ミモザ! おはよう!」
私は元気よく挨拶をした。
「……ジュナさん、珍しいですね」
ミモザが不機嫌になりながらも、返事をしてくれた。
「実は2人に話をしておきたくって」
私はミモザをマイアを交互に見つめた。
「あのあと、カグヤと結婚することになったんだよねー」
「「…………」」
マイアとミモザが絶句して固まる。
「えー!? どうゆうこと!?」
マイアが鬼の形相で聞いてくる。
「……なんか、成り行きで? それでハネムーンみたいなのに行くから、しばらくゼミをお休みするね」
「あのイケメンと結婚!? 急展開すぎない!?」
マイアが私の両肩を掴んでグラグラ揺らした。
「ねぇ、自分でもビックリだよ。……罠にハマった感が少しだけあるけど……」
私はブツブツ呟いた。
そんな私たちを、眉間にシワを寄せたミモザがじっと見ながら喋った。
「……1人に決められたんですね。結婚おめでとうございます」
「ミモザ……ありがとう! ミモザのおかげだよ。いろいろ親身になって教えてくれてありがとう」
嫌われているのは知っていたが、ミモザには本当に感謝の気持ちしかない。
「……もうフラフラしないで下さいね。迷惑ですから」
ミモザが眉間にシワを寄せたまま言った。
ーー多分、ミモザは私と関係があった男友達の誰かを好きなんだろう。
それなのに、いろいろ私に言ってくれていたんだ。
私は感謝を込めた目線をミモザに送りながら、ニッコリ笑った。
「うん。もうね、なんかすごいの。カグヤからの愛情が。絡め取られてるって感じ? フラフラもう出来ない気がする。アハハ!」
そして次にはケラケラ笑った。
「チッ!!」
マイアの方から大きな舌打ちが聞こえた。




