10:section of ジュナ 【海中デート】
次の日、私の予定がフリーだったので、カグヤを誘ってドライブに出かけた。
ミモザに言われた〝まずは自分を大事にしてくれる人と向き合うべきでは?〟を実践しようと思っていた。
ブームスランを軽快に走らせて、海の方へ向かう。
そこには、透明なチューブ状の道路が海中に横たわっているルートがあり、昼間の明るい時に通ると、美しい海の中を走れて楽しかった。
その途中に海中カフェなんかもあるので、そこにランチを食べに行こうと思う。
「今日は海中デートだよ。あ、ほら見えてきた」
私は前を向いたまま、助手席のカグヤに話しかけた。
透明な海中道路が遠くに見えてきた。
その道路にブームスランで飛び込むように入ると、下へ下へと向かう道になっていた。
「未来にはこんなのあるの?」
「……無いかな。そもそも自分で運転する乗り物なんか無いし、移動するスピードももっと早いから、外の景色なんて見えないよ」
「ふーん」
私はカグヤをチラッと見た。
するとカグヤも私を見た。
そしてゆっくりと口を開く。
「……やっぱり未来はつまらなさそう?」
彼はそう言って、私に笑いかけてきた。
すごい。
優しく笑ってる!
初めてじゃないかな?
私は驚きながらも、慌てて目線を前に戻した。
緩やかなカーブが多いので、ギアチェンジせずにブームスランを流す。
青い光に包まれている空中道路の中を、魚になった気分で進む。
「……カグヤは、今の2103年をどう思う? 楽しい?」
私は前を向いて運転しながら聞いた。
「楽しいよ。ジュナがいろんな場所を見せてくれたり、美味しいご飯に連れてってくれたりするから……例え〝ナオ〟の代わりだとしてもね」
カグヤにそう言われてドキッとした。
ナオの代わり……
そんなこと思ってなかったつもりだったけど、心の奥底ではカグヤにお兄ちゃんを重ねていたのかも知れない。
カグヤに言われて図星だと感じた自分がいたから……
「……すごい。よく私のこと分析出来てるね」
「研究者だからね。観察することは得意なんだ」
「けどね、ナオとは違うってことも、よく分かってるよ。私もカグヤといて楽しいから!」
私は少しだけ必死になって訴えた。
誰かの代わりとして、一緒にいるんじゃないことを伝えたかった。
そういうのは悲しいから。
「……ありがとう」
チラリとカグヤを見ると、少し頬を赤くして照れているようだった。
「やっぱり、カッコいいってずるい!」
私は、自分まで照れそうになるのを誤魔化すように、アクセルを踏んだ。
目指していた海中カフェについた。
海中道路の一角に大きなドーム状の開けた空間があり、そこにカフェがあった。
私たちは周りの景色を楽しめるオープンテラス席に座った。
カグヤと向かいあって座り、それぞれが注文したランチをいただく。
青い光が降り注ぎ、海底にいるみたいだ。
時折、頭上を泳ぐ魚たちの影が私たちにも落ちる。
「ここらへんの海って50年ぐらい前までは、こんなに綺麗じゃなかったんだって。技術が進んで浄化出来るようになったから、こうやって海中の中を楽しむことが出来るみたい」
「そうなんだ。海中に来たのは初めてかも。綺麗だね」
そんな感じで私たちは海中をまったり楽しんでいた。
そして、お喋りが途切れた時に、私はカグヤに聞きたかったことを意を決して聞いてみた。
「カグヤは、なんで私を好きになったの?」
私がそう尋ねると、カグヤは少しあいだを置いてから口を開いた。
「……僕のありのままを受け入れてくれたから。未来から来たと言っても、感情が薄くても、僕を普通の人として扱ってくれたから。未来では人とのつながりが希薄な研究だけの生活だったし、この時代では、女性が僕を見てこぞって熱を上げるのは、ちょっとうんざりしてる」
カグヤが私を真っ直ぐ見たまま続けた。
「ジュナといることが、1番自分らしくいられる気がする。……ジュナに拾ってもらえて良かった。出逢えて良かった」
そう言ってブームスランの中で見た、優しい微笑みをカグヤが浮かべた。
「!! ……そうなんだ」
私はその笑顔を今回は真正面から受けてしまい、頬を赤く染めて目線を下にそらした。
感情をストレートに伝えてくるようになった未来人は強い。
強すぎる。
「ジュナが照れてる。珍しいね」
カグヤが嬉しそうに笑っていた。
これじゃぁ、いつもと逆みたいだ。
私の珍しい感情を見て、カグヤが喜んでいる。
……私も感情が薄いのかな?
私は赤くなってタジタジになりながらも、楽しそうに笑い続けるカグヤを見つめていた。
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超高層マンションの家に帰ってきた。
お昼のお出かけだったので、今は夕方だった。
リビングの窓からは、オレンジ色に染まった高層ビルの群れが見える。
横から太陽の光が差し込むため、ビルの隙間には光の帯のような幕が無数に走っていた。
この瞬間にしか見えない神秘的な光景だ。
私は何気なく窓の近くに立って眺めていた。
その時、私のRin-comが青く2回点滅した。
「……レサヤからだ」
私は思わず呟いた。
たまに遊ぶレサヤからのお誘いの連絡だった。
彼は私より2個年上で、よくオシャレなバーに連れて行ってくれた。
レサヤと過ごす楽しい時間が思い起こされ、いつもの癖で応じたい気持ちが湧いてくる。
『複数の人と関係持ってる時点で、純粋な愛なんて物は無理』
ミモザに言われた言葉が浮かんだ。
『他の人の所に行かずに、こうやって帰ってきて』
カグヤに言われた言葉も浮かんだ。
どうしよう。
これは行かない方が正解なんだよね。
……でも、カグヤにしちゃっていいのかな?
私が彼を選ぶことは正解なんだろうか?
私からのカグヤへの気持ちがまだそんなに強くないので、Rin-comの空中ディスプレイを見つめたまま考えあぐねていた。
すると、横から手が伸びてきて私のRin-comに触れた。
空中ディスプレイをオフにしたカグヤが隣に立っていた。
「他の人からのお誘い?」
「……うん」
「行っちゃダメ」
少し不機嫌な表情をしたカグヤが、私を横抱きで抱き上げ、リビングのソファに横たわらせた。
覆い被さってきたカグヤが私を見つめる。
「僕が満たしてあげるから」
切なげにそういうと、カグヤが懇願のキスを私に捧げながら、服に手が伸びてきた。
「……いつになく強引! ……何か分析されてる?」
私がたまらずキスの合間に叫ぶように聞くと、カグヤが行為を一旦やめて顔を離した。
そして愛おしげに私を見つめると耳元でそっと囁く。
「ジュナは本当は受け身が好きで、こっちが強く出ると流されやすい」
「!!」
私は思わず赤くなってしまった。
「可愛い」
カグヤがそう言いながら、私を求めてきた。
本当に、感情をストレートに伝えてくるようになった未来人は強すぎる。
私はカグヤの分析通り、私を抱きしめて離してくれない状況にまんまと流されてしまった。




