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1:section of カグヤ 【旅立ち】

完結まで書き上げています。


 ーー僕は真っ白い空間に立たされていた。

 部屋の中のはずなのに、真っ白すぎて境目が分からない。

 永遠に白く広がっているような錯覚を覚える広い部屋だ。


 服は黒い罪人服を着せられており、手には光物質で出来た拘束具。

 すごいアナログな罪人の格好だなと、心のどこかで(かす)かに思う。


 自分を見下ろしていた視線を、ゆっくりと前に向ける。

 そこには連邦星府の青い軍服を着た男が立っていた。

 


 彼には見覚えがあった。

 確かオグマ大佐という人だ。

 アルギエバ星との戦争の時に、話したことがあった。

 その時から僕の助けもあって、たくさんの成果を収め、連邦星府の中で大出世したはずだった。


 こういうのが、恩を仇で返されるっていうのかな。


 僕は思わずオグマ大佐の顔をジッと見ていた。

 何も表情の浮かばない顔で。


 すると、オグマ大佐が黒い深い闇のような瞳を僕に向けて告げた。

「デア様が到着した。裁判を始めさせてもらう」



 

 デア様。

 本当に実在していたんだ。


 僕の心が少しだけ驚いた。


 デア様とは連邦星府の最高裁判官。

 噂でしか聞いたことがなく、昔から星府の実権を裏で握っていると言われていた、モネの一族の始祖と呼ばれていた。

 

 モネの一族は僕たちと体の仕組みが違うのか、長寿の一族だと言われている。

 モネの一族はその長寿のためか、司法を(つかさど)り、生き物の頂点に君臨している種族だった。

 その一族の始祖であるデア様は、一体何歳なのだろう。

 

 ただ全てが噂なので、その実体を誰も知らない。




 その空想上の人物だと思われていたデア様が、僕のいる裁判室に入ってきた。


 真っ白なゆったりとした服に、顔には仮面のような空間のノイズが覆っている。

 素直は全く見えなくなっていた。

 灰色と白のコントラストのノイズは、ランダムに動いているように見えた。

 身長は僕より低かったが、性別も年齢も不明だ。


 そのデア様が最高裁判官の席に立つ。


 ーー僕の軍事裁判が始まった。

 



 僕は、どこからか人工知能が読み上げる罪状を聞き流した。

 

 どうせ実刑判決が下されるのだ。

 真面目に聞くだけ損に少し感じた。


 僕は地球出身の研究者だった。

 感情を一切無くすことができる機械を作りあげたことで、戦争に利用された。

 何も感じない残酷な兵士を作りあげ、次々に星間の戦いに勝利したのだ。


 けれど殺しすぎたのだ。

 地球の人間を。

 他惑星の生物を。


 全ての罪は、僕になすりつけられた。

 地球の人間の憎悪を下げるための生贄だった。

 

 僕が手を下したわけでは無いから、僕の心は少しだけ憤りを感じていた。


 けれど、どうすることも出来ない。




 人工知能の言葉が途切れた。

 どうやら長い罪状を読み終えたようだ。


 すると、デア様透き通った声が裁判室に響いた。


「1000年の時渡りの刑に処します」


 その声は女性のように感じた。

 

 デア様の判決は絶対だった。

 それが古くから続く歴史であり、だれも疑問に思わなかった。

 僕たちの遺伝子の中に刻み込まれているのかもしれない。


「…………」

 刑が決まったことについて、僕は何も思わなかった。

 

 元々感情が希薄だった。

 変化の無い毎日に、感情が死んでしまっているのかもしれない。

 ここの暮らしは何もかもが不変的だった。


 いろいろな害のため太陽はすでに無くしており、人工太陽が地球を照らす。

 上空を、目では視認出来ない透明なドームが街を覆い、雨も風も防いでくれる。

 その代わり、そのドームが邪魔をして星空は綺麗に見えなかった。

 

 毎日変わりのない薄暗い空の下、毎日同じ研究室で過ごす。

 

 繰り返しの日々が永遠と続く。

 

 人ともあまり会わない。

 人工知能で事足りることが多いからだ。

 人口も昔に比べて激減していると聞く。


 食事も効率を求めて、cn(コン)-food(フード)と呼ばれる錠剤のような物と、飲み物といった少しの物を摂取するだけで大丈夫だった。

 

 指先に特殊な人工の皮膚を移植することにより電波を読み取れるようになった。

 それにより、情報を脳で同期することが出来るような周波に変えてくれる。


 だから僕だけじゃなく、みんな感情が薄かった。

  

 研究について思考している時に、心の少しの動きに左右されることが嫌で、感情を消す装置を作ったぐらいだ。

 

 人間の不憫な機能だと思っている。

 

 それが今日、イレギュラーなことが起こるからか心が動くことが多い。


 そのことにさえ(わずら)わしさを感じた。




「では、そのように処罰を与えます」

 連邦星府の軍人であるオグマ大佐がデア様に頭を下げ、僕を粗々しく連行した。


 僕は1000年昔の地球に流刑されることが決まったようだった。


 1000年前は、今と違ってたくさん人が存在していたと聞く。

 大きな戦争も長らく起こっていない平和な時代。

 僕が戦争で命の連鎖を奪ってしまった幸せに暮らす過去の人たちを、この目で見て罪の意識に(さいな)まれることが刑の目的らしい。

 

 そんな感情が湧くだろうか?




 僕はいつもの冷めた気持ちのまま、オグマ大佐に連れていかれた。


 そして時空を超えることが出来る宇宙船の乗り場に連れて行かれた。

 1人乗り用のその船は、楕円形の丸みを帯びた白と薄いグレーのボディに、サイドと後方に小さめの翼がついていた。

 もう起動しているため、オレンジ色の灯りの筋が見える。


 近くにはその宇宙船を手配したミラクが立っていた。

 彼は分野は違うが同じ研究所内の同僚だった。

 僕たちは一瞬だけ目を合わせた。


 そしてオグマ大佐に、その宇宙船に放り込まれるように乗せられた。

 それと同時に自動操作システムが稼働しだす。

 

 


 予定していた通りの筋書きだった。

 戦犯はだいたい流刑されていた。

 その後どうなったかは知られていない。

 

 時空を移動する技術はまだ過去へ行くことしか出来ず、それも歴史を変えてしまう恐れがあるため一部の人にしか許されていなかった。

 しかも調査のために、100年ぐらい前に行くぐらいだった。




 1000年もの昔の時を、今の人は生きていけるのだろうか?

 すぐに死ぬのだろうか?


 別に無事に到着せずにこのまま死んでもいいけど。


 そんなことを薄っすら思いながら、僕は2103年の地球に旅立った。

 


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