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001話 夢想

暇つぶしに読んで、面白いなって思っていただければ、幸甚至極にございます。


一章   妖獣の父を封印せし英傑を夢想す


 布団の中で眠りに落ちるまで、少年は英傑の姿を夢想していた。


 陽光の一筋も差さない密樹の中に口を開けた、青くぼんやりと光を放つ鍾乳洞の前で、忍は大きな白い虎を傍に従え、醜悪で凶大な妖獣と対峙している。


 右手には赤く輝く短刀を逆手に持ち、左手には漆黒の手甲を身に着けている。額には梵字が書かれた鉢金(額当て)を巻き、面頬(フェイスマスク)との間から覗く双眸は凶獣の一挙一動を見逃さんと、鋭く刺すような視線を敵に向けている。


 忍の視線に捉えられているのは、無間(むけん)地獄から這い出してきたかのような、身躯が三十米(メートル)余り、暗黒色の強靭な体皮を纏い、胴体からは五本の首と、一対の紫黒に輝く翼に、太古の恐竜を思い出させる太く強靭なしっぽが生えている。頭には、相対したものを串刺しにせんとする一対の湾曲した鋭いツノが生え、爬虫類のような目が不気味に黄色く光っている。太く長い両腕の先には、鋭い爪が翼の光を受けて煌めき、腕同様の鋭い爪が生えた足で地面を踏みしだいている。


 しかし、そのような凶貌の中で、七本あった右手の爪は二本少なく、翼の風切には数カ所に刃切された跡と、左肩から右の腰にかけて、一直線に袈裟斬りにされた赤ずんだ古い裂傷があり、この凶獣が最強でないことを示している。


 両者の交錯する視線に射竦められ、風もその動きを止めようかという緊迫の中、忍びの勝利を願うのか、それともこの世の終わりを憂いたのか、怪鳥の甲高い鳴き声が響き渡った。


 両者はそれを合図にするかのように、地面を跳躍する音を遥か後方に置き去りに、一気に距離を詰めた。それまで息を殺して両者のやり取りを見ていた獣や鳥たちが、一斉にその場を離れる気配が感じ取れた。


 忍は接触する寸前、腕を引き、振りかぶるようした右腕を伸ばし、逆手に持った短刀を薙いだ。凶獣はその一薙を長爪で受け止めると、あたりに業物の刀刃同士が衝突した時に発するかのような澄んだ音が響き渡り、衝撃の波が伝播し、周囲の枝葉がザワザワと葉を擦らせる。


 衝突の衝撃で紫黒の獣は後方に飛ばされ、背で樹々を薙ぎ倒していった。


 結果を物足りないと感じたのか、苦い顔をした忍は短刀を腰の鞘に収め、手印を結び始めた。「臨(りん)、兵(ぴょう)、闘(とう)、者(しゃ)、皆(かい)、陣(じん)、列(れつ)、在(ざい)・・・」一言ずつ紡がれるその呪文に応じた手印を結び、「前(ぜん)」と発すると共に、左手の親指と人差指で丸を作り、薬指、小指を人差指に添えるように付け、右手で左手の甲を包むようにする隠形印を結んだ。すると忍の身体から白色の気炎が立ち上り、存在感が一際大きくなった。それを確かに感じた忍は、「オン アニチ マリシエイ ソワカ」と唱え、両手の人差し指と中指を立て、手を組むと、「虎嘯風生(こしょうふうしょう)」と厳かに言った。すると忍の身体に纏われていた気炎が、一層の白い輝きを放ち、後光のようにその光が周囲を染めた。


 輝白の後光を纏った忍が気を練り上げていると、凄まじい剣戟で吹き飛ばされた凶獣はその翼をはためかせ忍の前まで飛来すると、重低音の風籟をあげながら白爪を振り下ろした。

 忍は白銀のきらめく軌跡を残しながら後ろに飛び退き、後方回転(バク転)を数度行い、距離を取った。そして、再度相対すると忍と凶獣は必殺の一撃を見舞わんと、一分の隙もなく身構えた。

少年が布団の中で思い描く世界を書いてみました。

そのため、戦闘の描写は短めです。

今後物語が進むと、もっと臨場感溢れる戦闘シーンを描きたいと思ってます。

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