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メルク大学は存在します

作者: 長浜仁

 平日の昼間、Y氏が公園のベンチでボーっとしていると若い男が話しかけてきた。 

 

 「こんにちは。隣いいかな?」

 

 「こんにちは。ええ、もちろん」


  男がY氏の隣へ座る。


  Y氏と男が軽く世間話を続けていると男は二つのことを言った。

 

  一つは平凡な事実、もう一つは奇怪な戯れ言のようだった。

 

 「私は大学へ通っている」

 

 「その大学は別世界にあり、こちらの世界では研究できないことを研究している」

 

 Y氏は興味を持ち質問をした。


 「なんという大学ですか?」


 「メルク大学というところであちらの世界では知らない人がいなくらい有名な大学さ」

 

 男が誇らしそうに語った。


 「どんな研究があるのですか?」


 「こちらの世界では空想上だとされている生物の研究や魔法力学とかがわかりやすいかな」

 

 「具体的にはどのようなものがありますか?」


 「最近だと両翼動物科がホシーノペガサスの養殖に成功したらしく、ダクフ記念賞の最終選考まで残り、もしかすると大学で初の二年連続の受賞になるかもしれない」

 

 「そうですか、それはこちらでいうノーベル賞のようなものですか」

 

 「そうとも。権威のある賞なのだよ」

 

 「ほかにも詳しく教えてください」

 

 「そうだな、面白いのだと武装解除呪文の理論上可能な最長の詠唱時間やアンドロイドが自身の完全な自己模倣品を作るのに必要な条件とか興味を引かれませんか?」

 

 「奇妙な世界ですね。魔法と科学が混じっている、いや魔法が科学の一部になっているのですか興味深い」

 Y氏は顎に手を添え、うなずき言った。

 

 「面白い大学だと思っただろう、だがな素晴らしいことばかりではないんだ」

 男が人差し指を振りながら言った。


 「給付型の奨学金の審査が厳しくてな。一度通っても査読付き論文の数だったり、白髪のくせにアフロヘアをしている教授の面接が意地悪かったり、大変なんだよ」

 

 「意外とそちらの大学生の悩みもこちらと変わりませんね」


 「ああ、他にも他者の精神状態を共有できる装置の研究があったんだが、その範囲が広すぎて精神病棟の患者につながってしまってそのとき大学にいた連中みんな発狂したこともあったよ」


 男がハハッと笑いながら語った。


 「その研究は凍結されたのですか?」


 「ああ、そうさ。有益なものでも不安定であればない方がいいと大学も判断したんだろう」

それから時間を忘れて男と話しているとY氏は当然のように気になったことがあった。

 

 「あなたはどういったことを研究しているのですか」

 

 「言霊」


 男はぶっきらぼうに言った。

 

 「あの、言葉に力があるというあの言霊ですか?」

 

 「そう、言ったことが実現するってやつ、疑うかい?」

 

 「いえ、今までの研究を聞いていると信じますね。こちらでも研究している人いるでしょうし」

 

 「私はあったら困るがね」

 

 「えっ」

 

 すると男の携帯が鳴った。


 「失礼」


 男は電話を取った。


 「もしもし……まさかそちらからかけてくるとは。わかった、いくさ。あんたらの面も拝みたいしね。では後ほど」

 

 男はばつが悪そうな顔をして電話を切った。


 「悪いね、これから用事ができてしまったよ。実験中の話し相手になってくれてありがとう。楽しめたよ」

 

 Y氏が何かを言おうとするのを察して男が先に言った。

 

 「私は亡語学言霊科で研究をしている、もしよかったら訪ねてきてくれ」

 

 そういうと男は公園の砂をけりながらどこかへ消えていった。

 

 Y氏は男が言っていたことが気になり、メルク大学を調べることにした。

 

 紆余曲折いろいろあったが男との会話をヒントにY氏はついにメルク大学を見つけることができた。

 

 そしてY氏は入学手続きをするべくそこを訪れていた。

 

 男が言っていた通り、ペガサスが飼育されていたり、杖をもって呪文を唱える者がいたり、白髪のアフロヘアをした気難しそうな教授が歩いていた。

 

 Y氏は職員課で一定の手続きを終えたのち、職員に質問した。

 

 「亡語学言霊科にお世話になった人がいるので挨拶をしたいのですが、どちらにありますか?」

 

 職員は一瞬驚いた表情をしたのち冷淡な声でこう言った。

 

 「弊学には亡語学言霊科は存在しません。未来永劫に」


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