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月の帳  作者: 是空
二章 怪物
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5話




朝日が眩しい。


こんなに十分に睡眠がとれたのはいつぶりだろうか。


なんでかな。


ああ、わかってるよ。


くそ。


お姉ちゃんにたっぷり甘えてスッキリしたんだろ?


この幼児返り野郎。






ただひとつ、胸につっかえるモノがある。



「……………………まだ…………好き?」



なんだったんだろう、アレは。



……………………聞いてどうするんだ。



方向性は同じだろう?



思春期の弟の一時の気の迷いを、水に流してやり直すんじゃないのか?



お互いに「リッキー」も失わないで済む。



良いことじゃないか。



俺がこれ以上なにか望むとでも?



…………………………………………



彼女は聞こえていないと、思っていたはずだ。




……………………………恐ろしい。



頭の片隅で何かがずっと囁いてくる。




「彼女が手に入るぞ」




やめろ。



もういい。



もうその道は塞いだんだ。



いや、元々そんな道はない。



2人揃ってどこへ堕ちるつもりだ。



………………………………………



意図は知りたい。



知らないと、コイツは囁くのをやめない。



俺の愚かな勘違いか聞き間違いだと、彼女自身に太鼓判を押してもらうんだ。



そうしないと、いけない。



今日は幸い休日だ。



昨日あれだけ泣きじゃくって、これ以上かく恥なんてない。



真っ当な関係を続けていくのに必要な確認だ。



そう。



ただの確認だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



姉が作ってくれた朝食を一緒にとった。



こんなことは久しぶりだ。



憑き物が落ちたのは俺だけじゃなかったらしい。



「はい有弥、あーん」



「………………やめろ」



「どうしたの?昨日はあんなに………ね?」



「………忘れてくれ」



「んふふ………」



お互いの間にあった分厚い壁が無くなって、素の姉を久々に見た気がする。


そう、彼女はちょっぴりイジワルな一面が元々ある。


俺の弱い、デリケートな部分をつつくのが好きなのだ。


もちろん、本当に嫌がることや傷付くようなことは絶対に言わない。


くすぐったい部分を指でなぞるようなものだ。


俺もこのやりとりはやぶさかではない。


それを彼女も知っている。



さてーーーーーー



「今日も勉強?」


「んーん、今日はゆっくりしようと思って」


「へえ、余裕だね」


「最近ずーーっと勉強ばかりしてたから、疲れちゃった」


「そうなの?」


「んー…………色々考えたくなかったから」



……………やっぱり姉弟なんだろうか。


考えたくないことがあると、別の何かに集中する。


思考回路は似ているのかもしれない。


嬉しいような、悲しいような。


悲しいのは多分、彼女が同じように苦しんでいた気がするからだ。



「今日も可愛いゆうちゃんをいっぱいヨシヨシしてあげようかなー」



また始まった。


パジャマ姿でニマニマと見つめながら言うんじゃない。


ったく可愛い生き物だな。


いや違う、単なる姉の悪ふざけだ。


しっかりしろ俺。


もっていかれるなよ。


またアイツが囁いてくるぞ。



「はいはい……………あ、そうだ」



「ん?」



「ちょっと………後で話があるんだけど」




よし、言えた。


これは今日の課題だ。





「なに?告白?」





……………………またなにを言い出すんだ。





「……………………ごめん、今のナシ」




「…………………ならいい」



「………………………」




なんだろう。


悪ふざけの延長なのか、気が抜けているのか。


彼女らしくない。


今のは俺が傷付くカテゴリの発言だ。


この違和感はなんだろう。



横目で彼女を見る。



「………………………」



彼女には昔からクセがある。


何か物足りない時、満たされない時、親指の爪を噛む。


いま、噛んでいる。



噛みながら、据わった目つきで俺を見据えてる。



少なくともたった今、失言した態度ではない。



妖艶な何かを放ちながら、俺を見ている。



目を逸らそうともしない。



ゾワッとした。



俺の中のアイツは、彼女がこうなっている原因を知っている。



やめろ。




黙ってろ。




囁くな。




「”女”だ」




うるさい。





「お前の姉は、”女”になってる」






「ガタッ」





「…………有弥?」






駄目だ。





コイツが引っ込んでくれない。




「ガタン、ドサッ」



「わっ」





押し倒した。




やめろ。






「な、なに?どうしたの?」






「ゆうっ………………やっ………ァ……」






気付けば、彼女の首筋を舐めていた。






「………………やめて!!」





突き飛ばされた。





「ドンッ」





背中を強く打ったらしく、痛みが走る。





「有弥っ、大丈夫?」




今、襲われたばかりの彼女が心配している。




だがその表情は




怯えていた。






「う、うあ」





「有弥?」





「うあああああああああ!!」





走った。





階段を駆け上がって部屋に飛び込んだ。





なんてことだ。






彼女をかつて「怪物」と比喩したが





怪物は俺の中にもいる。





コイツは抑えられない。





弟じゃない、"男"





容易に肉体を支配する。





見ろ。





まだ下半身が大きく脈打っている。





下着の中は先端から出たモノでグッショリと濡れている。





もう駄目だ。





一緒にはいれない。






あの人を犯してしまう。






俺だけじゃない。







彼女にも巣くっている。







"女"という怪物が。






そして怪物同士は望んでいる。






共に堕ちることを。







だって彼女は押し倒した瞬間








歪に笑っていた。



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