33話
暗い部屋の中。
散々彼女との行為に溺れた後。
彼女にすがりつく。
矛盾したワガママを突きつける俺に……
全てを受け入れてくれる彼女。
なんて情けない……………………
「………………ワガママだね……有弥は……」
「………………ん…………」
「…………………行っても行かなくても………駄目なの?……」
「………………うん……」
「………………どうしたらいい?……」
「…………………わからない」
「…………………もう……」
………………わかってる。
ムチャクチャだ。
「行かないと駄目だ」「自分を許せない」だのなんだの言っておいて……………
今は「行かないで」と…………
そんな甘え腐ったワガママ三昧の弟の頭を撫でながら…………
額にキスをしてくれる彼女。
「…………駄目でしょ?……お姉ちゃん困っちゃう………」
「…………ん………」
彼女の胸元へギュッと顔を押し付けながら、抱き付く。
駄目だなこいつは…………根っからの甘坊だ。
「…………………んんー…………」
「…………なあに?………有弥の言うように………するよ……」
「………………じゃあ………いてよ……ずっとそばに……」
「…………うん………じゃあ…………そうする……」
止まらないなぁ………ここぞとばかりに。
普段からお姉ちゃんに甘えたくて甘えたくてたまらないくせに、格好つけてるからこうなるんだ。
…………………これ以上、困らせちゃいけない。
彼女からそっと、離れて、背を向ける。
後ろから彼女がそっと、身を寄せてくれる。
……………いつだって彼女は俺を見放さない。
こんな……面倒で…………手の掛かる……
頑固で…………ワガママで……お子様で……
どうしようもない………愚かな弟を………
………………………………………………
「…………こんな時もあるよ………」
「………………………」
「…………私の方が…………ずっとずっと有弥に甘えてる」
「……………………………」
「…………………大丈夫………大丈夫だよ……ヨシヨシ………」
…………………しっかりしなきゃ。
わかっていても……………駄目なんだ。
この気持ちだけは……………
「…………………県内の大学じゃ……駄目なの……?」
「…………………………」
「…………いいでしょ………勉強はどこだって………」
「…………いいよ、今から話に行ってくるね」
「……………………………」
「………………よっと」
身体を起こす彼女。
止めなければ、今から本当に両親を起こして話をするつもりだ。
明日でもいいハズだが、俺を安心させるために、今すぐに。
俺を試している訳でも、冗談でも、なんでもない。
わかる。
彼女は本当に行動に移す。
「………………………だめだよ」
「……………………どうして?……私も大好きな有弥といたいよ?」
パジャマを着直しながら話す彼女。
「……………………姉ちゃんだって………」
「…………………んー?…………」
「姉ちゃんだって……中途半端は嫌いじゃないか………」
彼女の動きが止まる。
「……………………………」
「………………あるんでしょ……決めてる道が…………夢にとって…………一番確かな道が………」
「……………………………………うん………あるよ」
「…………………………………」
「……………………でも…………私だって………好きに生きたいもん」
「………………姉ちゃん………」
「…………もうお父さんも……お母さんも……話せばきっと理解してくれる…………望めばずっと有弥と一緒にいることは出来るもん……ぐすっ……私だって……………女だもん………女としての幸せを欲しがっても……うっ………」
彼女の頬を伝う涙。
「…………そうだね………ごめん」
「………うぇぇ…………馬鹿っ……馬鹿っ……有弥だけじゃないもん………抑えてるのは……………馬鹿っ………うぇぇぇん……」
ドンっ、ドンっと俺の胸を両手で叩く彼女。
「……………うん………大馬鹿だ………」
………………そうか……………
「………またっ………夢を見させないでよ……………認めないくせにっ…………行かせるくせにっ…………私を離しちゃうくせにっ………うううっ」
「………………………………」
「言ってよっ……………ぐすっ………そばにいろって……………そうするからっ……………もうっ…………言ってよ!」
「………………………ごめん………」
「……謝るなっ………謝るなよっ………馬鹿っ………私のことっ………好き放題しといて………馬鹿っ!」
「………………………………」
「…………もう心も身体も………全部キミのになっちゃったのに……………どうして………どうして……離れないといけないの……どうして………」
…………………………………………………………………
……………誤解していた。
彼女は俺のために……だけじゃない。
自分自身のために………今から動こうとしていたんだ。
俺が甘えて彼女にすがったから……………
彼女の中で一生懸命保っていた何かが…………溢れ出した。
全部俺のせいだ。
……………………………………………………………
………………………………うん。
「…………………姉ちゃん」
「………………………ぐすっ……なんだよっ……」
「…………………もう、やめよっか」
「…………………………………なにを?」
「…………………………………終わろう」
「………………………………………」
「………………たくさん傷付けて………………ごめん」
「…………………………捨てるの?」
「…………………違う」
「違わない」
「違う、話を………」
「捨てるんだ私を」
「……………ちが」
「まだ約束の期限でもないのに」
「…………………………………」
「……………………ふふっ……嘘だ……こんなの……」
フラッと立ち上がる彼女。
「…………………ねえちゃ」
「………………有弥…………」
「…………違うんだ……俺は………俺は」
「…………………うん………大丈夫……大丈夫だよ」
大丈夫そうには見えない。
「……………私…………戻るね」
「……………まだ…………ちゃんと話したい……」
「…………………なにを………?もう……いいよ」
「姉ちゃん」
バタン。
彼女は行ってしまった。
もう引き返せない。