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月の帳  作者: 是空
五章 決断、そして
33/37

32話





外では紅葉が見頃になり、秋の深まりを感じさせる。



俺の生活………というか、心境に変化があって、ある習慣をはじめた。




「勉強」である。




学生なら誰もが取り組むべき習慣だが……俺はスポーツ特待生ということもあって、これまで本気で取り組んだことなど無かった。





「……………これは?どういう……」




「………うん、これはね……こっちの公式を引用して……」




「あーそういう……」




「そうそう」




自宅で俺の勉強を見てくれているのは、高校模試でナンバーワンの頭脳を誇る才女、葵さんだ。



うん、まあ、姉ちゃんだ。




忙しい受験勉強の合間で、俺の勉強を見てくれる。



1年生の課題を見るのも、復習には良いそうだ。




…………………たぶん嘘だ。




彼女はそういう次元の人じゃない。




当初は母もバスケ馬鹿の俺が勉強していることに驚きはしたが、今は感心している。




姉は真剣に勉強を教えてくれたと思えば、俺の膝元でゴロゴロと甘えじゃくる。



なんというか、脳がおかしくなりそうだ。




ただ、そんな彼女に…………少しでも近付きたい。



そんな気持ちではじめたのは……不純だろうか?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リビングから聞こえるやりとりを、風呂上がりに洗面所で耳にする。




「やっぱり有弥は、頭いいよ」




「本当にぃ?」




「すごく飲み込み早いもん」




「元々がカラッポだからじゃない?」




おい、聞こえてるぞ。



まあ好き勝手言うもんだ。



あの人本当に俺の母親か?




「先生が良いからね」



スタスタと2人の横を歩きながら話す。




「あっ、有弥だ」



「……………聞いてたの?カラッポ君」



「カラッポじゃない!」



「はいはい………」



「有弥、すごーく頑張ってるもん、ね?」



「姉ちゃんの貴重な時間を奪って、ね」



「いいの、私は大丈夫だもん」



「感謝してるよ」



「…………んー………水も滴る有弥……いいね」



「もう、母親の前でやめてくれる?」



「じゃああっち行ってて」



「私はここの主よ」



「私は有弥の彼女だもん」



「まだそんなこと言って……」




「あれ?カルピス飲んだ?」




冷蔵庫に冷やしといたカルピスがない。




「あっ……ごめん…………これ……」




「………………あっ俺の……飲んだの?」




「…………ん…………怒る?……」




「…………………………」




やや怯えたように話す彼女を黙って見る。



手元にあるカルピス、ちょっとしか減っていない。



袖から指先だけ出して包み込むようにペットボトルを持ってるのが可愛い。



「……………欲しかったの?いいよ」




彼女の頭をそっと撫でながら、ヒョイっと手元のカルピスを取る。




「んー……………」



じゃれる猫のように、手にすり寄って目を細める彼女。




「……………………イチャつくな、バカップル」



「……………………」



「わざと飲んだくせに、アホくさ」



「お母さん、うるさい」




俺にまとわりつくような彼女の視線。



だがそれがいい。




「…………姉ちゃん、いこ」



「……………はい」



2人で2階へ。




「変なコトしないのよー、勉強しろ勉強」



「うるさーーい!」






ガチャ………バタン。





「……………ねぇ………」




部屋に入るなり、モジモジとする彼女。




潤んだ唇を尖らせ、上目遣いで俺に訴えるような視線を送ってくる。



この人は……………本当に………




「………母さんが何か言ってたけど?」




「………駄目……?」




「……………悪い姉だね」




壁際で彼女に詰め寄るように、追い詰める。



紅潮し、パーカーのフードを被って顔を背ける彼女。




「やっ……………イジワルしないで………」




少し大きめのパーカー………見下ろすと緩んだ胸元にうっすら谷間が見える………




また下着をつけてないのか……?




ったく………………




彼女の顔の前で、ピストルのように人差し指を突き出した形の手を見せる。



怪訝にそれを見つめる彼女。



その指先をゆっくりと下ろし………彼女の胸の先端へ近付けていく。




「……………っ………」




触れるか触れないかで、止める。




………先端はここだろう?



キチンと下着を付けないから、よく見ればパーカーの上からでもポチッと膨らんでいるよ。



だが胸元を隠そうとしない彼女。



唇の隙間から舌先がチラチラ……口元が落ち着かない感じだ。



緊張と期待と興奮が合わさったような彼女の様子……………



正直今すぐ押し倒してムチャクチャにしたい。



だが………こういうのも……一興だ。




彼女の胸の先端へ、指先を当てる。




「……………っ………」




………………へえ、声を我慢してる。



そのまま指を胸にめり込ませていく。



第一関節のすべてが彼女の胸に埋もれた。



………………くくく。



そのまま、指先をブルブルと振動させる。




「…………………あぁっ………ん……」




思わず声を漏らした彼女。



ふふ、ゲームは君の負けだ。



顎をクイッと押し上げ、顔を見る。




「………………………」




少し悔しそうな、ムッと閉じた口。



姉のプライド?…………ふふ。



そのまま、片腕で彼女の首を抱き抱えるように胸元へ引き寄せる。



「えっ、えっ」



上体を屈めて、反対の腕で彼女の両脚をすくい上げるように抱え、持ち上げる。



「ひゃっ………」



お姫様だからね、君は。




「……………わわっ……お、重くないの?」



「…………………全然………というか……」



「ん?」



「………軽いな………いつも食べてる量はどこへ……」



「……………失礼だよっ」




頬をキュッとつねられる。



「あたた、ごめんごめん」




「……………降ろして………恥ずかしい………」




「やだよー」




そのまま彼女ごとクルクルと回りながらベッドの方へ。




「きゃっ……わっ……ちょっ………あははっ」




「ほーら、ほーら」



「あははははっ、ちょっと!あははっ!」




キャッキャッとはしゃぐ彼女。




あー楽しい。




回る反動でドサッと、布団の上に着陸。




まだ身体は抱えたままだ。




「………はー、怖かった」




「………のわりには楽しそうだったね」




「……………うん………」




「どしたの?目が回った?」




「……………いや………」




「…………ん?」




「…………………ドキドキしてる」




「ははっ…………怖かったね」




「…………違くて………」




「ん?」




「……………恥ずかしいのと………嬉しい……」



「………嬉しいの?」



「……………ん………」




再び抱えたまま立ち上がる。




「これが?」




「………きゃっ…………もう……」




「はははっ」




「………………………」




「……………」




抱えた彼女と、見つめ合う。




「………ははっ」




「………ふふっ」




自然と幸せな笑みがこぼれてくる。




おでこをくっつけあって、笑いあう。





この人は、俺を導いてくれるこの世界の光だ。




この先何があっても、この笑顔と、この胸の想いを思い出すだけで、何だったできるさ。




そう、思わせてくれた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






暗くした部屋の中で……………




裸で繋がったまま、夢中でお互いの唇を確かめ合う。




この日はゆったりと行為に溺れながら………




彼女自身に溺れていく………………





「………………愛してる………好きなんだ………」




「………あっ……んっ……有弥………」





彼女を何度も抱き締め、その都度ささやく。





どこにも行かせたくない、離したくない。





いつも一緒にいて





こうして身体を重ねていても





想いが募る。






ああ………快感が押し寄せてくる……………………





気付けば…………果てていた。





彼女の中で放出した自分自身……?





その存在を感じながら……………





「……………行かないで…………」





つい、言葉に出た。





「……………………」





俺に覆われた彼女は何も言わず、抱き締め、頭を撫でてくれる。





やがて身体を起こし、俺を横に寝かせて、胸をトン……トン。




幼い時の記憶が………蘇る。




欲しいオモチャが買ってもらえなくて泣いたあの時時も……………父に叱られて泣いていたあの時も………いつも……こうしてくれていた。




赤子をあやすように………




ずっとこの人の愛情に包まれて生きてきたんだ………




「…………………どうしたの?……」




「…………………」




「……………我慢してたの?…………」




…………うん。



我慢してたんだ……………平気なように………強がって………耐えていたんだ……………




「………………だって………………」




言うな。




彼女の道に、俺はいらないんだ。




思い出で……………いいんだ。




子供のように…………ダダをこねるな。





「…………うん………なあに?……」





やめてよ………そんな優しい顔で……見ないでよ……





「…………………だって……戻ってこないじゃないか………」




「………………」




「…………行ったら……………もう……………俺のところに………」




……………弱い。




つくづく…………なんて弱い男なんだ…………………



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