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月の帳  作者: 是空
一章 月の帳
3/37

2話


なんでこんなことになったのか。


わからない。


俺はただ姉と、


ただ


ゲームをしようとしていただけだ。


一緒に


ロードナイトを。



俺は今、姉の部屋で、ベッドの上の姉に背を向けて、座っている。



姉?



いや



後ろにいるのは、怪物か何かだ。



だって俺は怖くて怖くてとても振り向けない。



こんな存在は他にいない。



どうしてこうなった?



いや



考えるのは後だ。



今は逃げよう。



一刻も早く。



そうだ。



逃げろ。



それしかない。



否定も拒絶も絶望も



見たくはない。




そっと立ち上がった。



音はしない。



後ろは見ない。



絶対に見ない。



足は動く。



踏み出した。



一歩、また一歩。



もう扉は目の前だ。



大丈夫だ。



生還するんだ。



なんとか。



頑張れ。



頑張れ。






駄目だ。





そっと後ろを振り向いた。




姉は、こっちを見ていた。




その表情は




困惑?悲しみ?苦しみ?理解不能?




裏切られたのか、裏切られたんだね。




ごめんなさい。




お姉ちゃん、ごめんなさい。




バタン。




自室に戻ったが、ベッドに倒れ込む以外の選択肢がない。




あの顔をきっと




一生忘れない。




どうして振り向いてしまったんだろうか。



いや、わかっている。



答えを欲しがったんだ。



浅ましく、卑しく、欲しがったんだ。



俺はあの時一言も発していないが、あの沈黙の時間で、俺は彼女に告白していたんだ。



「貴女に異性としての好意を寄せています」



それが伝わっている以上、告白だ。



だからその「返事」を求めた。



それがすべてだ。




もうどうしようもない。




「2人ともー、ごはんよー」



さて、怪物との晩餐だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1階の食卓に降りると、母の隣に怪物は座っていた。


一瞬こちらを確認して、すぐに顔をテレビへ向けた。


降りてきてごめんなさい。



いつものように怪物の前に座り、いつものようにお茶を注ぐ。



極力いつものようにすることが怪物を刺激しないコツだ。


合ってるだろ?



味がしないオカズを頬張り、味がしないご飯をかきこむ。



さて、いつまでこの地獄は続くのか。



怯えきった心は奥底にいったのか、頭はすこぶる冷静だ。



きっと納得いってないからだろう。



だって「リッキー」は「男」だったじゃないか。



好きな子の話くらいするだろう。



男同士の会話を盗み聞きしていたなんて、悪いのは仮面を被っていた怪物の方だ。



許せない。



無性に腹が立ってきた。



俺は「ごちそうさま」と、ぶっきらぼうに食器を下げた。



ああ、なんてちっぽけなんだろう。



自分の情けなさに涙が出る。



部屋に戻りたいのに、階段の途中で止まってしまう。



こんな所を怪物に見られたら大変だ。




いつまで「怪物」なんて言うつもりだ?




わかってる。



俺が悪い。



俺だけが悪い。



そもそもの話なのはわかってる。



でも全部抱えると壊れそうなんだ。



彼女もきっと、それは望んでないんだ。



しっかりしろ。



部屋に戻れ。



戻れ!!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なんとか再び自室に戻ったものの、何もする気にならない。


呆然と天井を眺める以外できない。


これからどうやって生きていけばいい?


「普通の弟」としての役目はもう果たせそうにない。


彼女の幸せを願うことすら難しい。


だって俺が不幸にしているんだから。


気分は最悪だが、やるべきことはわかっている。


時間を進めるしかない。


とりあえず1年後くらいにスキップしてくれ。


1年経てば彼女からの視線に耐えられるくらいにはなってるだろう。


どうやって時間を進めようか。


頼みの綱のロードナイトはもうデータごと消去したいくらいだ。


寝ることくらいしかできないが、目を瞑るとあの人のあの表情が浮かんでくるだろう。


死にたくなってしまう。


それだけはだめだ。


自意識過剰で結構だ。


あの人は絶対にそれだけは望んでいない。


小さい頃から見てきたあの人は、俺の死を望むことは絶対にない。


それだけ



それだけーーーーーーーーー





愛されてきたんだ。






頬をそっと涙が伝った。





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