24話
なんだかんだとあってーーーーー
家族4人揃っての生活を再開した立花家。
朝の食卓。
なんだか少し懐かしく、皆笑顔だった。
「………2人でどこか、出掛けてきたらどうだ?」
父の一声に俺たちは顔を見合わせる。
「……………いいの?」
「いいさ、なぁ母さん」
「……………私はもう知りませんよ」
いいらしい。
なんだろう、親公認カップルという理解でいいのだろうか。
「……………えー………どこ行く?」
「んー……………そうだな………」
「急に言われても……ね……」
「……うん」
「…………イチャイチャするなっ」
麦茶をドンっとテーブルに置きながら母が睨みをきかせる。
どうやらまだ、割り切れてはいないらしい。
「………今朝、同じ布団にいたわね」
か、確認してやがる。
「えー………覗かないでよ」
そうだそうだ。
「…………………あんたら……変なコトしてないでしょうね……?」
……………朝っぱらから何を言い出すんだ。
するわけないだろ、昨日の今日で。
見ろ、際どい発言するから父親も吹き出したコーヒーを自分で拭いてるぞ。
「…………変なコトって?」
………ったく。
この母にしてこの姉だ。
天然というか世間知らずというか。
そんなんでよく模試で1位なんて取れるな。
保健体育を勉強しなおせ。
「………あんたはいい」
いよいよ愛想尽かされてるぞ。
…………………って俺が答えるの?
してないよ?母さん。
「……………はは、なにもしてな」
「”一切なにも?”」
な、なんだ?
食い気味に圧をかけてきてるぞ。
そんな厳しい取り調べをしても、俺は自白強要からの冤罪だけは御免…………
あっ
………………………………………………
なんか…………キスっぽいことは……………したな……
いやいや、あれは「変なコト」には該当しな
「眼が泳いでるぞ」
「したのね?」
「お前、実の姉の素肌に触れたのか?」
「畜生にも劣る所業だわ」
「ま、待て!落ちついて話を……」
なぜ朝っぱらから両親にこんな責め苦を…………
「……むぐむぐ……キスだけだよ」
おい。
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両親からの怒涛の説教が始まる前に、自室へ駆け上がって鍵を閉めた。
なにやらワーワー喚いていたが、今となっては悪いのは俺じゃないはずだ。
むしろ問題は、娘に対して"のみ"急に甘々になった、あの夫婦だ。
あんたらがキチンとしてれば昨日も一緒には寝てない。
………………………ふう。
さて………………彼女の部屋に布団やら枕やら、ぬいぐるみ軍団やら戻しに……
ガチャガチャ
「あっ、鍵しまってる」
………………来るのか。
本当にあの2人は娘にはガバガバだな。
カチャっ。
「………なんで鍵…………あっ、私の布団……どうするの?」
「……いや……………そっちに返そうと……」
「……………なんで?」
なんで?なんでってなんで?
「………今日も一緒だと思ってた」
…………………落ち込んだ顔をするな。
妙な罪悪感が出てくるだろ。
いやいや、流石にまずいって。
昨日はアレだったけど、そう何日も一緒だとね。
母さんの危惧してる「変なコト」が起こらない保障はないワケですよ。
そりゃ俺だって健全な男の子だし?
アナタのことが好きで好きでたまらないし?
なんかアナタ距離近いでしょ?
そもそも持ってきてるこの布団使ってないからね?
…………………………………わかったよ。
わかりました。
いつまでも泣きそうな顔で見つめるな。
ほら、ベッドに戻したよ。
いいだろ?
すぐ笑顔になるな、計算してんだろチクショウ。
そういう所は模試1位らしいな。
はいはい可愛いよ可愛い。
宇宙1可愛いよ。
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「……ね、どうする?」
俺のベッドに腰掛けて足をプラプラさせながら聞いてくる彼女。
「………………映画とか?」
我ながら適当だな。
だって本当にどこでもいい。
むしろ彼女とならどこだって楽しいだろう。
「……………いいね、映画にしよう!」
いいのね。
「………有弥とならどこだっていいけど」
通じ合ってるね。
幸せ。
行こう。
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以前一緒に行ったショピングモールにやってきた。
ちょうどお昼時なので、フードコートで何か食べて、施設内の映画館に行く感じだ。
ひとまず各々好きなものを注文してテーブルで落ち合う流れになった。
人気のラーメン屋に惹かれて、少々の行列に並んでしまった。
俺は育ち盛りの高校生らしく、大盛りの味噌ラーメンを持って席に戻る。
待たせてしまっただろうか………
……………ん?
このテーブルだったはずだが……………
どこの大家族か知らないが、所狭しと皿が並んでいる。
天丼にざるソバ、串焼きにハンバーガー、ピザまである。
だが肝心の食べる人がいない。
…………嫌な予感がする。
「……あっ有弥、遅かったねー」
……………シュウマイと中華丼が乗ったお盆を持った彼女が、そのお盆をナチュラルに大家族テーブルに追加する。
周囲の人がザワついている。
「いただきまーす」
こともなげに、ズルズルとざるソバから食べ始める彼女。
…………………バケモノか。
後ろの中学生が動画を撮っている。
よせ、そういうフードファイター的なヤツじゃない。
ただの俺の姉ちゃんだ。
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「やっぱ外で食べるのもおいしかったねー」
デザートのパフェとアイスクリームも平らげて歩く彼女。
お腹をポンポンしながら満足そうに話す。
量の割にお腹が膨れているように見えないし、スラッとした体系に変わりはない。
………………どこに入ってるんだ?
腕とか足にも胃袋が入ってるのか?
………まあいい。
ひとまず映画館に到着だ。
ロクに調べて来なかったので早速上映中の映画を物色する。
ふむ……………
邦画では………
敏腕刑事の2人組が織り成す人情刑事ドラマ「劇場版パートナー2」
決して結ばれない男女の悲劇の恋愛を描いた小説原作の「連れ合い」
洋画では…………
ハリウッド系アクション映画と、エグそうなホラー。
……………………パートナーだな。
「よし、これに……」
ふと見ると、「連れ合い」のポスターの前で立ち止まっている彼女。
こちらと目が合う。
「あっ、それにする?…………ドラマやってるやつかな?……ふふっ、好きそうだね」
「……………そっちのは?」
「………ううん………ちょっと、気になっただけ」
…………………………………
チケット売り場へ。
「……………あれっ?お金こんなに少なかったかな……」
……………………………フー…………
食いすぎなんだよ食いすぎぃぃっ。
ざっと見ても5、6000円分は食ったはずだ。
………………ったく。
「…………………これで2枚、お願いします」
「えっ、ダメだよ」
「いいから」
「………ダメっ!出させない!」
……………………いや、足りないだろ?
アナタの財布の中身はアナタの胃袋の中にパンパンに詰まってるよ?
「…………じゃあ、後で返してもらうから、ね」
「………ん……絶対だよ」
「ほら、行こう」
「……え、待って」
「ん?なに?」
「これ、「パートナー」のチケットじゃないよ?間違えてる………すみませ」
「合ってるよ、やっぱこっちがいいんだ」
「……………嘘だ、私ほんとにーー」
「いいから」
「……………………」
「行こう?」
「…………………うんっ」
嬉しそうに微笑んでくれたね。
良かった。
それだけで、俺は幸せなんだ。
こらこら、そんな腕を組んでくっつくでない。
「ゆーうや」
「ん?」
「大好き」
「お、おう」
「なにー?クールにしちゃって」
「……いや………胸が……当たって」
「………もう……エッチ……」
「あっ……もっと当たって……」
「………当ててんの」
「……………そすか」
「ふふっ」
…………………………………
「連れ合い」、楽しみだね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっ…………あぁん」
「………ハァ……素敵だ……」
「もっと………もっとぉ……!」
ーーーーーどうしてこうなった。
確かにR-15の表記を見逃していた俺も悪いが………
こんなに濡れ場がガッツリあるとは……………
高校生には刺激が……………………
きっと姉ちゃんも………………
チラっ
…………………………………
ジッと真剣な表情で、見つめている。
…………………………………………………
この映画の舞台は明治時代の京都、自傷癖のある女に惚れてしまった妻子ある男が、彼女との逢瀬を重ねて家庭は崩壊し、堕落していくストーリーだ。
女の目的は、幸せそうで妬ましい男の家庭を崩壊させること。
だが、女は少しずつ男に愛情を持つようになり、2人はやがて泥沼の恋愛の末に心中してしまう。
そんな救いのない作品だ。
………………………………それが、彼女にはとても刺さったらしい。
2時間弱の上映が終わった。
彼女は席から立とうとしない。
「……………姉ちゃん?」
「…………………あ……終わり?」
「……うん」
「……ん、行こっか」
俺の腕にギュッと飛び付いてくる彼女。
………………良かった。
………………なんだか少しだけ、彼女が遠くに行ってしまったような気がして………
「………姉ちゃん、見入ってたね」
「ん?……………うん……」
「………好きなの?ああいうの」
「………好きっていうか……………こういう生き方もあるんだなって………」
「………………創作だよ」
「………うん…………だけど……………あの気持ち………わからなくもないっていうか…………」
「………………他人の夫が欲しい気持ち?」
「ううん…………なんていうか…………」
「……ん?」
「………愛する人となら…………どんな形でも………………どこまでも添い遂げちゃうんだろうなって………」
…………………………………………………
なんだか、胸がザワザワする。
気付くと、人気のない物陰にーーーー
彼女を連れ込んでいた。
「チュッ…………ハァ………んっ……チュ……ちょっと………」
貪るように、彼女の腰を抱き寄せ、唇を求める。
「……ん…………有弥………………どうしちゃったの………………………」
…………本当に、どうしてしまったんだろうか。
彼女が欲しくて欲しくて…………我慢ができない。
………人に見られたらどうするつもりだ………
腰に回した手で、彼女の太股やお尻を、撫で回す。
「……んっ………有弥ぁ………だめっ………声が……」
だめだ、抑えがきかない。
まるでまたアイツに乗っ取られたみたいに。
………………………いや………これは………
「………………………」
衣服の乱れた彼女。
火照ったような赤らめた頬。
唾液で艶々と輝く唇。
なにかを訴える眼差し。
「…………………ごめん」
「…………………………」
「…………………俺………」
「…………………行こう?」
サッと衣服や髪を整えた彼女に手を引かれ、人の多い喧騒の中へ。




