21話
「隣、いい?」
「…………………」
隣に座る彼女。
「………………風、きもちーね」
……………なんの用だろうか。
……いや、よそう。
用なんてなくても、姉弟なんだ。
たまに会えば話くらいするさ。
そうだ、自然でいい。
「いいでしょ、ここ、俺のーーーー」
その時、なにげなく見た彼女はーーーー
こちらを見つめていたーーーー
この衝動はーーーーーーー
目が合うだけで、どうにもならないーーーー
言いかけた言葉を、失うほどーーーーーー
「……………俺の……なに?」
「あっ……………いや………」
思わず顔を背けた。
なんてことだ、話もできない。
待て待て……………姉だぞ?
姉、姉、家族だ家族。
切り替えろーーーー
「……………少し、焼けた?」
「えっ、ああ……部活……してるから」
「……………くすっ……だろうね」
「あ、うん………」
何を言ってるんだ俺は。
部活してるのなんか見ればわかる。
ええい、こっちから仕掛けろ。
「………い、家にいなくて大丈夫?」
「あ、うん………友達に会ってくるって出てきたから……」
「そっか………会えたの?」
「………ううん……会う約束なんて……ないから」
?………………話が噛み合わない。
どうしたんだろう、しばらく合わない間にお互いの周波数が変わったんだろうか?
「………じゃあ、なにしてんの?」
「……………ん、会いに来た」
「…………………は?」
「…………………」
「…………………俺に?」
「……………うん」
………………………………………………
「………………なんで?」
「………なんでって………」
…………………心臓が張り裂けそうだ。
「…………会いに来るの……おかしい?」
…………………………ああ、はい。
そうだな。
そりゃそうだ、なにもおかしくない。
「そ、そっかそっか、そうだよね」
「………………うん」
「俺も、久しぶりに会えて嬉しいよ」
「……………本当に?」
心に入り込んできそうな、彼女の視線。
風でなびく髪から、ほのかに香る、彼女。
「………………本……当だ、会いたかったんだ」
ーーーこんなことを口走ってしまう。
「………そう、嬉しいな」
ーーーーーーああーーーー
「……………これから…………っ」
ーーやめろ、何を言うつもりだ。
彼女を連れて………………どこへ?
「ん?………これから……なに?」
「な、なんでもない………さ、帰ろうよ、母さんも心配して………」
「……………うん、帰ろうか」
「……………行こう」
2人で家に向かって歩き出す。
外を並んで歩くのも、いつぶりだろうか。
ああ、あのショッピングセンターの……
「…………あの時ぶりかな?」
「……………へ?」
「並んで歩くの……………ほら、ショッピングセンターの………」
……まさか同じこと考えてるなんて。
「……………俺も同じこと考えてた」
「…………そうなの?ふふっ」
「……………楽しかった」
「……………ん、楽しかったね」
「……………うん」
「……………………」
「…………………さっき……ね」
「ん?」
「…………見てたんだ、部活」
「……えっ、そうなの?」
「うん……」
「声かけてくれればいいのに」
「……ん…………邪魔しちゃ悪いから」
「………そ、そっか」
「なんだか、恥ずかしいし………」
「………………………」
「学校出て…………ここまで……声かけれなくて」
「……………付いてきてたの?学校から?」
「……………うん、ストーカーみたいに」
「………………くくっ」
「ふふっ」
「………弟に……ストーカーか」
「……そう………見つからないように」
「「あははっ」」
少し懐かしいような、彼女の笑顔。
「…………………」
「………………服、変じゃないかな?」
「そんなことない」
「…………そう?」
「……………その帽子も、服も似合ってる」
「……………………………」
「………………可愛くて、ドキドキす……る」
また…………何を言ってんだ………俺は………
「……………ドキドキするの?」
「……………………………ん」
「……………良かったぁ」
はにかんだような笑顔。
………くそっ。
くそっくそっくそっ。
可愛いなぁ!!!!!
くそーーーーーーーーーーー!!!
俺の彼女だったのに!!!
あーーーーーーー!!!
……………………………………………
「……………ね、姉ちゃん」
「なあに?」
「………あの、彼氏とか………」
「………ん?」
「できた?」
「……………んー」
えっ?
いるの?
「……………実はね」
……………やめてくれ。
聞きたくない。
いやだ、いやだ。
「学校でね………」
「ごめん」
「え?」
「聞きたくない」
「……………どうして?」
「どうしても、聞いといてごめん」
「……………そっか」
「………………………」
……………………それもそうか。
ほっとかないよな。
こんな美人。
もうーーーー他人のものか。
………………………辛いなぁ。
「………有弥は?」
「……へっ?」
「できた?彼女」
………………………
「……………いないけど」
「……………けど?」
「……………今は、そういうのいい」
「………そう、私も」
「……えっ?」
「ん?」
「………さっき……学校にいるって……」
「………ああ、アレは、「学校に好きな人はいる」って言おうと思って」
「あ、ああ……………そう」
「………聞きたくないって言われたから」
「………………うん」
………好きなヤツはいるのか……………
はあ…………………ま、幸せを願うべきか。
弟としてね。
「……………叶うといいね、その人と」
「……………うん、ありがとう」
「……………でもさ」
「……ん?」
「変なやつだったら、ダメだよ」
「………なんで?」
「なんでって………変なやつなの?」
「んー………ちょっと変わってるかも」
「じゃあダメ、許しません」
「えーなにそれ、おかしい」
「弟として、変なやつに姉は渡せません」
「……………大丈夫、無理だから」
「…………………そうなの?」
「……………うん」
「…………姉ちゃんなら………誰でもいけそうだけど……」
「……そんなわけないよ」
「あるよ」
「ない」
「じゃあ試しに告白してみればいい」
「なんで?」
「絶対オッケーだから」
「……………馬鹿みたい」
「………やっぱやめて」
「………えっ」
「告白は……………やめとこう」
「………どっちなの?もう」
「…………………」
「………………決めた、告白する」
「えっ」
「………誰でもいけるんでしょ?私」
「い、いける……………けども………けども……」
「………クスっ………けども……?」
「……………んー仕方ない」
「……………」
「………………許可します」
「……………いいの?」
「…………………幸せになって、ほしいから」
「……………」
「…………………頑張って」
はあ………………………ま、これで……
彼女が幸せになるなら……………
「…………私ーーー」
「ん?」
「立花葵はーーーー」
「………?……」
「ーーーー同じ学校の、立花有弥くんが、大好きです」
………………………………………
「…………またからかってーーー」
「この気持ちはーーーー」
「…………………っ……」
「……………何があっても………うっ………どんな障害があってもーーー」
「……………姉ちゃ」
「……………絶対に、変わらない………ぐすっ……変えられない……」
「……………………」
「…………うっ………変わら……ないんだよ………」
「変えられ………うぇぇっ…………」
「うわぁぁぁぁぁぁん……うわぁぁぁぁぁん」
「……もういい」
「ひぐっ………ひぐっ」
「もう、いいんだ」
……………………………………………
抱きしめた俺に、強く強くしがみついてくる。
彼女はなにも、変わっちゃいなかったーーーー
俺への想いも、家族への想いもーーーーー
だからこんなに、苦しんでる。
こんなにーーーーーーー