20話
もうこの生活もどのくらいになるだろうか。
夏休みに入り、家にいる時間が増えた。
クラスの連中と数日は遊ぶ約束をしたが、予定調和な予定だ。
あってもなくてもいい。
基本は部活、大会もあるから暇ってほどではない。
今日も朝から練習のために家を出る。
玄関でふと、父が声をかけてきた。
「もう行くのか?」
「うん、大会近いし」
「そうか、頑張れよ」
「うん」
最近は父との関係も良好だ。
2人で生活していることもあってか、話す時間も以前より増えた。
母たちがいない分、気を使ってくれている部分もあるだろう。
靴ひもを結び、玄関のドアに手をかける。
「行ってきます」
「ああ」
さあ、今日も練習だ。
家を出て門を開けると、人とぶつかりそうになった。
なんだよ、人んちの目、の、前…………で…………
ぶつかりそうになったのは
母だった。
そしてその後ろにーーーーーーー
麦わら帽子に、ワンピース姿の、彼女。
………………………なんて日だ。
後ろから声がする。
「…………………昼じゃなかったのか?」
父の言葉に、母はバツが悪そうだ。
「……………ごめん、早く着いちゃったから……有弥、久しぶり、元気?」
「……………まあ」
母とのやりとりの間、彼女は少し離れて遠くを眺めている。
………………………………恐らく父に会うのと、荷物でも取りにきたんだろう。
「どう?部活、頑張ってる?」
「………え?ああ………大会近いし、頑張らないと」
「……そうね、また日程を教えて、見に行くから」
「うん……それじゃ」
「ええ、気をつけてね」
一瞥して走り出した。
曲がり角に差し掛かった時
2人が家に入っていくのが見えた。
…………………………関係ない。
俺は俺のことをするだけだ。
………………………………………もう
終わったんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
部活を終えて帰路につく。
時刻は午後3時、まだまだ日が高い。
………………帰ったらまだいるかもな。
母も姉も、久しぶりにゆっくり父と過ごしたいはずだ。
…………………適当に時間潰すか。
いつもの河川敷の橋の日陰に腰を下ろして、スマホを開く。
……………………あ、今日あのバラエティやるんだ、録画しとこ。
……………………………
…………………眠くなってきた。
スマホを置いてカバンを枕に横になる。
気持ちのいい風が吹いている。
……………………………………………
「ーーーーーおい、こんな所で寝るなっ」
飛び起きる。
声の主は後ろにいる。
ゆっくりと振り向く。
「…………やっ、元気?」
そこには、変わらぬ彼女の姿があった。
「…………なにやってんだよ」
言葉とは裏腹に、胸は苦しいくらいに鼓動が高鳴っていた。




