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月の帳  作者: 是空
四章 絆
20/37

19話



ーーーー見慣れた天井。




ーーーーーーどうなったんだっけ。





いてて……………殴りすぎだろ。





親子とはいえ、傷害事件だぞ。





……………………ふー






お別れか。






ーーーーーーーーーーーーーーーー






その日のうちに、母は彼女を連れて家を出た。




もう同じ家には置いとけないらしい。




行き先は………知らない。





「……………起きたか」




ベッドに腰掛けていると、部屋の入口に父が立っていた。




何も言わず階段を降りていく。




ついてこいということらしい。





1階に降りると昨晩の喧騒が嘘のように、朝の陽光が差し込んでいる。




父が用意してくれたのであろう、トーストとハムエッグを食べる。




口の中も切れているので、ジャムが染みる。




チラリと対面の父を見ると、何事もなかったかのように新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。



とても昨晩俺を殴りまくった人物と同じとは思えない。




「……………さて」




新聞を畳んで、組んでいた膝を崩し、座り直す父。



何かがはじまるんだろうな。





「……………まだ痛いか」




「…………………まあ」




「…………しばらく休め、学校には連絡してある」




「…………ん……」




「…………………あのあと……」




「ん?」




「葵と話した」




「……………………」





「…………最初は泣き叫んでな、どうにもならなかった」





「…………………そうか」





「…………詳しく話すつもりはないが……」




「……………………」




「お前が昨日言った耳を疑うような言葉は、すべてが本当ではないらしい」




「………………………」




「…………………何か言いたいことはあるか?」




「……………………………いや」





「……そうか」




「………………………」



「………………………」




「……………………父さん」




「なんだ?」




「………………………ごめん」




涙が溢れてしまう。




「………………うっ………ぐっ………」





「…………………」




彼女の前では格好つけていたが、父を、母を、傷つけたことに違いはない。




その罪悪感が、ドッと押し寄せてきた。




「………………お前たちのことを許すことはできん」




「……………………わかってる」




「……………だが………」




「…………?………」




「………………昨日お前は、全力で葵を守ろうとした」



「……………………」



「………………それだけは、わかった」





……………………………………………




彼女が俺の"誤解"を解いてくれたのは間違いないだろう。




だがなぜ、父がこんなことを言ったのかはわからない。




俺が憎いだろうに。




肉親であるのをいいことに、可愛い愛娘に手を出した男だ。




…………………もういい、色々ありすぎた。





少し、休もう。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




顔の腫れも引き、傷も良くなったので学校に行くことになった。



父からは「まだ休んでもいい」と言われたが、家にい続ける方が気分が滅入りそうだったからだ。




この家にいると……






学校で友人達に近況を聞かれた。



どうやら俺は自宅の階段から落ちたことになっているらしい。



階段から落ちて顔面がボコボコになるなんて、せちがらい世の中だ。



………父らしい。




弁当はないので、食堂でパンを買っていると



彼女を見かけた。



遠目にだが、間違いない。



来ている。



それもそうだ。



受験を控えた彼女がそうそう長期の休みなんて取れるはずもない。



思わず、駆け寄りそうになる足を止める。




……………今更、何を話す?




バレちゃったから仕方ないね、とでも?




………くだらない。




彼女とはもっとこうーーーーー




…………………やめよう、もう忘れるんだ。




これ以上裏切ることも、傷つけることもできない。




家族も。




自分たちも。





ーーーーーーーーーーーーーー



放課後、部活は休めという父の言葉通り、学校を後にする。



いつも歩く河川敷に差し込む夕日が、えらくノスタルジックな気分にさせる。




………………帰っても何もいいことはない。




座ってなんとなくスマホを開く。



久しぶりに目に入った、「ロードナイト」のアイコン。



しばらくプレイしてなかったな。



彼女が「彼女」になってから、リアルで一緒にいる時間が増えて、「こっち」で会うこともなかった。



なんとなく、起動してみる。



少し懐かしい、起動時のOP動画。



そのままだ。



久しぶりだな、「Hollyhock」



そのまま河川敷でプレイする。



少し鈍ったかな、味方の足を引っ張ってる感もある。



仕方ないか、そういうものだ。



ふう…………………………見たいんだろ?見ろよ。



フレンド欄。



それが目的だろ?



…………………………………………



ま、いないよな。



そりゃそうだ。



暗く表記された「リッキー」の文字。




俺はそっとゲームを閉じて、歩き出した。






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