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月の帳  作者: 是空
四章 絆
18/37

17話



久々に我が立花家の家族で揃って食卓を囲む。



共働きの両親が夕食時に揃うことはほとんどない。



口うるさい反面、愛情深く優しい母。



仕事熱心で、雄大で厳格な父。



この2人に育てられた俺たち姉弟。




………まさか裏では男女の関係であるなど、夢にも思っていないだろう。





「………葵、受験勉強はどうだ?」




「……ん………普通だよ」




「………そうか」




「……………ほら葵、なにか言うことあるでしょ?」




ドクン。



ーーーーーなんだ?




咄嗟に目を合わせてしまう俺たち。




まさかーーーーーーーバレた?





「あっ、もしかしてアレ?」




彼女はピンときたようだ。





「アレ?」




思わず反応してしまう俺。




父の目つきが鋭くなる。




「……………なんだ?葵」




「えっと………実は……………」




まさか突然のカミングアウトが始まる訳ではあるまいが、嫌な汗が伝う。



まさかーーーーーーーーー





「模試の結果が、学年で1番でした」





……………なんだと?




想像の遥か斜め上を行く報告に、衝撃が走った。




「……ほう、1位か」



「すごいでしょう、この子」



「うむ、大したものだ」



両親の賛辞などどこ吹く風で、ブロッコリーを頬張りながらテレビを見る我が姉。



えっ、この人、うちの高校で1番賢いの?



一応進学校なんだけど………




「………………で」




まずい、この流れはーーーーーーーー




「お前は?」




「お前」だからね、「お前」。



期待してないんだろうから聞かないでくれ。



ホンットこの父親は娘に甘く息子に厳しい。



あーあーどうせ俺は下から数えた方が早いですよ。




「どうした?早く答えろ」




「ぐぐ……」




「………ムグムグ………有弥はもうレギュラーらしいよ」



「…………む」



「そうそう、すごいわよね、1年生なのに」



「………そうなのか?」



「…………ま、まぁ」



「……………………」



まあ、そりゃね。



模試で学年1位のお姉様に比べたら、バスケ部のレギュラーなんて、カレーに添えたラッキョウくらいのもんですよ。



さて、テストの結果を問い詰められる前に退散しようーーーー




「……………そうか、まあ、頑張っているならいい」



「へっ?…………お、おぅ」



相変わらず基準のよく分からない親父だ。


何でもいいんかい。


如何に言っても、実の姉にご執心なのは誉めちゃくれないだろうな。


…………………当たり前か。




「おかわり」




ーーーしかしよく食べる姉だ。


部活で汗を流す俺より食べる。


頭を使うのも腹が減るんだろうか。


ーーーーなんて考えながら見てると、茶碗を受け取る彼女と目があった。


少しの間ボーっと見つめ合うと、何かに気付いたように「ムー」っとした顔に変わった。


どうした?



「………………これ、食べる?」



「………は?」



「…………今日はもう、お腹いっぱいだったかも」



「………………」



意図がよく分からないが、なんとなく茶碗を受け取る。


まあ、ちょうどおかわりしようとしていたからいいが。


なんだろう。



「あんた、そもそも4杯目だからね」



母の一言で、みるみるうちに顔が赤くなっていく。



「………食べ物を粗末にするな、自分で食べなさい」



追い打ちの父の言葉に数秒プルプルと震えた後、俺から茶碗を奪い取ってガツガツと食べ始めた。



なんというか、可哀想な人なのでそっとしておこう。



「ごちそうさま!」



何を怒っているのか誰も分からない中、食器を下げて足早に階段を上がっていく姉。



「……………どうしたんだ、アレは」



「………さあ」



呆れている両親を尻目に、俺も食べ終わって2階へ向かう。



部屋に入ると、携帯が鳴った。



食いしん坊からだろう。



「もしもし」



「………………」



「………どうしたの?」



「………私、痩せるから」



「……は?」



「………じゃ」



プー、プー……………



なんなんだ?


何が彼女の琴線に触れたんだろうか。


最近特に太ったとも思わないが。


…………………何かあるのか?


………………明日、アイツに聞いてみるか。




ーーーーーーーーーーーーーー




「それはお前、ラブだよラブ」



自信満々で語るコイツは、クラスメイトの飯沼。



好意のことだと思うが、「ラブ」で表現しているあたりに哀愁が漂う。



自称、女性経験が豊富で、女子高生はもちろんOLや女医、白人女性などと毎晩のように会っているらしい。


同じ高校1年生のはずだが、コイツは何周目の人生なんだろうか?



「……そうなのか?」



「そりゃおまえ、好きな男にガツガツ飯食ってるところなんて見せたくねーさ」



「ほう」



「だって大食いで卑しい女なんて、嫌だろ?」



「……いや、俺は別に……」



「そ、そうか?………でも、そのお前の知人とやらは、その彼女に確実に好かれてるぜ」



「……………」



「意識してない相手からどう見られようと、どうでもいいだろ?顔を赤らめたのは、よく食べる自分を見られたくない、太った自分を想像されたくない、っていう彼女の羞恥心の表れさ」



…………………一理、あるのか?



よくわからない。



そもそも根本の部分でコイツを信用していない自分がいて、関係を誤魔化してまで何故コイツに聞いたのかも自分自身が謎だ。



………仕方ない、帰って直接聞くとしよう。



彼女のことで知らないことなど、あってはならない。




ーーーーーーーーーーーーーー




「100点」




「…………まじ?」



「その経緯は腑に落ちないし、直接聞いてくる有弥も殴りたいけど」




彼女の部屋で床に正座をして話を聞く俺。



殴りたいというか、さっきからすでに肩をバスバス殴ってきているが。



彼女によると、飯沼の分析は満点らしい。




「………逆になんで分からないの?」



「だ、だってさ、急に不機嫌になってーー」



「決まってるでしょ!」



ま、まずい………随分オカンムリだ。



ゆっくりと席を立ち、隣に座って俺を見据える。



はあ、とため息をついた。




「…………………好きな人には、見せたくないこともあるんだよ」




そう言って肩にもたれかかってくる彼女。



良かった、もう怒ってはいないようだ。



「………じゃ、じゃあ」



「え、終わり?」



自分の不甲斐なさもあって、早々と切り上げようとする俺に、ガッカリした様子の彼女。



「なーんだ、帰っちゃうんだ」



「……ま、まあ、聞きたいことは聞いたし…」



「ふーん………」



……………不満そうだ。



「……………彼女といるのに、何もしないんだ」



「えっ?」



「…………………」



いや、聞こえてはいるが…………


流石に今し方説教を食らった身分で、彼女に何かしようとするほど厚かましくもなれない。


このあたりは童貞故の経験不足か…………



しかしーーーー



プイっとしながらも横目でこちらを伺う彼女。


ポリポリと頭をかきながら、横に座る。


そっと肩を抱き寄せてみた。


可愛らしくも、女性的な笑みを浮かべる彼女。


その潤んだ瞳に吸い込まれるように、唇をーーー






ガチャっ






「葵、ちょっとーーーーえっ?」








悪夢とは突然はじまるものだ。




前触れもなく、唐突に、無慈悲に。




目の前でカッと見開いた彼女の眼がーーー




全てが手遅れであることを物語っていた。




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