10話
お互いに黙々と、服を着る。
背を向けて。
本来なら急いで彼女の部屋を出るべきだが
核心があった。
もうアイツらはーーーーーー
出てこない。
「………………もう………全身ベトベト……」
同じく。
風呂に入り直す必要がある。
なんなら彼女のベッドもグショグショだ。
「ねえ……………」
「なに?」
「ありがとう」
「………………うん…………」
「…………………」
背中にそっと、彼女がよりかかった。
「今回はもう………ダメかと思っちゃった」
「うん………」
「飛んじゃった、なにもかも」
「わかってる」
「……………でも、気付いてくれた」
「……………」
「……………私に、気付いてくれたね」
「…………うん」
「………………どう見えた?」
「………………”助けて”って」
「…………………」
「叫んでた」
「………………うん……」
「きっと…………姉弟だから………」
「……………………………」
「わかったんだ」
後ろから手が回ってきて
ギュッと俺を抱き締める。
「…………姉弟なら……………さっきのキスは…………ダメでしょ?」
ああ……………やっぱり怒ってる。
「………………うん、ダメだね」
「……………あれは………」
「”有弥”と”葵”のキスだよ」
有弥「…………………うん、ごめん」
葵「……………謝るのもダメ」
有弥「………………うん」
葵「……後悔してるの?」
有弥「……………してない」
葵「…………だろうね」
有弥「……………うん」
葵「………ねえ……………エチエチ」
有弥「…………なに?……リッキー……」
葵「……………フフ………あのさ………」
有弥「…………ん?……………」
葵「………"Hollyhock"って、どういう意味?……」
有弥「…………………知らない」
葵「…………クスクス……………」
有弥「………………イジワルだなぁ、ホント」
葵「…………………言ってみて」
有弥「……………」
葵「ほら………」
有弥「…………………タチアオイ……」
葵「………ふふっ……………好きなの?」
有弥「…………………好きだよ」
葵「…………そう……」
有弥「………………」
葵「……………タチアオイと……」
有弥「……………………」
葵「……………"立花葵"………」
有弥「………………勘弁してよ」
葵「偶然ですか?」
有弥「……………必然です」
葵「くくっ…………あはははっ!…………はぁ……」
有弥「ったく………………」
葵「………クスクス………ごめんね…………」
有弥「もういいよ、部屋に帰る」
葵「あー怒った」
有弥「怒ってない、シャワー浴びて………寝る」
葵「私も入りたーい、一緒に入る?」
有弥「ダメです」
葵「ぶー」
有弥「…………先、いいよ」
葵「……もう……結局私に甘いんだから」
有弥「お互い様だよ」
葵「まあ………愛し合ってるし、ね?」
有弥「……………ん……」
葵「顔赤いよ」
有弥「うるさい、早く行け」
葵「あははっ」
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シャワーを交代で浴びて、2人で並んで俺の部屋のベッドに転がっている。
姉ちゃんの部屋のベッドは、色々あったせいで使えないから。
明日は学校だから、早く寝ないと。
隣の人はもう寝てる。
気楽なもんだ。
でも、この健やかな寝顔を守った自分を、少し誇らしく思う。
あのまま最後まで続けていたらーーーーーー
俺に向ける「姉」としての純粋な笑顔は、もう見れなかった気がする。
今はもう何も言うことはない。
大好きな家族であり、大好きな女性と、初めてのキスをして、一緒に寝る。
俺の人生のピークは、今かな。
見ろよ、この可愛い寝顔。
………………………
今日もたくさん泣いたね。
ごめんね。
ああ。
君と結婚したいな。
無理だよね。
愛し合っても一緒にはなれないなんて
悲しい世界だね。
おやすみ。
葵。
今度一度だけ言ってみよう。
怒るかな?
これで第二章「怪物」は終了です。
読んで下さっている方々、本当にありがとうございます。
三章から目線が変わって、また違った趣になります。




