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月の帳  作者: 是空
二章 怪物
10/37

9話


真っ暗な部屋。




「フーーー、フーーーー」




まるで野生の獣のようだ。




目が慣れてボンヤリとシルエットが浮かぶ。




床で這いつくばる俺を見下ろす眼光。





なぜ?





考えるのは後だ、扉は怪物の奥。





逃げ場がない。





思考を巡らす刹那ーーーーーー




それは俺にのしかかってきた。




その行動の荒々しさとは対照的に、




甘い香りと柔らかい感触が身体を包み込む。




こちらも目覚めてしまう。




アイツが。




あっ




首筋をーーーー




「ぺろ………ちゅっ………ちゅぱっ……」




卑猥な音が室内に響く。




「姉ちゃ…………し、しっかり……しろ……」




意識が遠のく中で、消え入るような声は彼女には届かない。





唾液が糸を引き、潤んだ唇がゆっくりと離れる。






悠々と、そして大胆に、俺を見下ろす"何か"。






まるで獲物を捕らえた獣のようなーーーー






勝ち誇ったその表情は、全てが手遅れなことを象徴していた。






「やめっ………」






言葉を塞ぐように






唇に唇が重なった。






初めてのそれはーーーーー





「ちゅっ……………ちゅっ………れろっ……」





とても甘美で雄大で野性的でーーーーー





「はぁっ……むちゅっ……はっ………れろっ………はぁんっ…」






発情したメス猫のような彼女の吐息や






全てを味わうように口腔内を暴れまわる舌






それらは






残されたわずかな意識を






遥か彼方に追いやるには十分過ぎた








もうーーーーーーーーダメだ。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





肉体はもう、とうに俺の支配下にはない。




けど、情報だけは入ってくる。




怪物と怪物のまぐわいの様相だ。




どうやらお互いに上は裸になり、彼女が毎日眠るベッドでお互いの唇を貪りあっている。




手は、彼女の露わになった胸を揉み、腰や大腿部を躊躇なく撫で回す。




俺の背中に回った彼女の腕は這い回り、時折激しく抱き寄せる。




腰が蛇のようにうねりながら、焦がれるように擦り付いてくる。




もうパンツの中は、何かでぐっしょりだ。




なんとか俺の意識を手や足に伝えようともがくが、言うことをきかない。





もう両親も寝静まった深夜だ。





止める手立てなどない。






この2頭のまぐわいを、俺と彼女は眺め続けるしかないのだ。





彼女ももう、出てこれないだろう。







ふと、目が合った。






あっ






姉ちゃんだ。






忙しく動く互いの両手や唇とは裏腹に、目だけはお互いを認識していた。





涙を流してる。








助けてーーーーーーーー







目が叫んでいる。







まだ怪物は下は脱いでない。





間に合う。





今ならまだ。






動け、動け。






動け、身体。





俺の大事な人の身体を、好き放題にまさぐるな。






動けーーーーーーーーーーー!!





念じるのも虚しく、コイツは彼女の下半身に手を伸ばし、パジャマをずり降ろす。





相手は相手で腰を浮かせて、脱がされることを喜んでいる。





彼女自身の意志とは裏腹に。






ついに下着にも手をかけた。





そこを越えるともう、おしまいだ。





それだけは許さない。





絶対に。





片腕だけでいい。





俺に返せ。






返せ。





彼女の全てを、オマエになんかやらない。






返せ!!!!!!!







動く。







「ピッ」





取り戻した片腕で押したのは、





部屋の照明のリモコンだった。





突然明るくなった室内に、2頭の怪物も一瞬困惑する。





そしてーーーーーー





怪物が怯んだ隙に、再び手を伸ばした。





手に取ったそれをーーーーー





2頭の視界に入るようにーーーーーー





それはーーーーーーーーーーーー






家族写真。






姉ちゃんの部屋には、ずっと置いてある。






幼い俺と幼い姉ちゃんと、笑顔の両親。






効果は






言うまでもない。






2頭は意識のずっと奥に





引っ込んだ。




失っていた感覚が戻ってくる。





「はあっ…………はあっ…………はあっ………」





「ハァ………………ハア……ハア……」





ずっとノイズがかかっていたような音声がクリアに戻り、お互いの息遣いが聞こえる。




身体中が汗と何かでグッショリだ。




帰ってこれた。





涙が溢れる。




姉ちゃんが下から、俺を抱きしめた。





「……………………本当に………」






「……………………」






「助けてくれた………………」




彼女の涙を手ですくい、再会を噛み締める。






ああ。





俺、頑張ったよ。





だから、いいよね。






「……………っ………」




そっと、唇を重ねた。






怪物同時のソレじゃない。





優しい優しい、口付け。





初めてにふさわしいそれを





彼女もそっと受け入れて





目を瞑った。



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