プロローグ
ーーーーいつも意識している、家でも学校でも、山でも海でも、朝起きてから夜眠るまでーーーー
「彼女」を手に入れるために、何が必要だろう?
整った容姿?知性と教養?紳士的な振る舞い?
例えすべて揃っても、叶わないのだろう。
彼女は俺の、姉だから。
彼女は幼い頃から俺を可愛がってくれた。
物心ついた時から、両親よりも彼女に付いて回っていた。
いつも俺の前で笑顔で手を引いてくれた。
「好き」という気持ちは当然ずっとあった。
だけどいつからか、「好き」は少しずつ形を変えていった。
距離感も変わった。
ずっとくっついてるわけにはいかない。
成長した身体と心が、それを許さないのだ。
たまにやってくる切ないような寂しいような、胸が締め付けられる感じ。
その時いつも視線の先に彼女がいる。
思春期特有の何かなのだろう。
時間が経てばきっと元に戻る。
歪んだ「好き」が、真っ当な「好き」に戻る。
だけどーーーーーー
伝えたい衝動が日に日に強まる。
家族のために、自分のために、そして何より彼女のために、この気持ちだけは表に出してはいけない。
そう、自分に言い聞かせる毎日だ。
伝えたところでどうするんだ?
それは家族として明確な裏切りだ。
「貴女を家族として見ていません」という、弟であることを放棄する卑劣な行為だ。
それを彼女に突きつけたところで、傷付けるだけだ。
わかっている。
腰ほどまであるビロードのような黒髪、陶器のように滑らかで透明感のある色白な肌、星のように澄んだ瞳に、艶やかな唇。
そして女性らしい曲線を描くシルエット。
彼女を形作る全てのものが魅力的で、蠱惑的だ。
ああ、心底気持ちの悪い弟だな。
こんな眼で見られてるなんて夢にも思ってないだろう。
彼女以外を想うことができない、彼女で埋め尽くされた俺の頭はとうに壊れているんだ。
思春期だからって限度があるだろう。
こんな弟を持って心底不憫でならない。
彼女はもう受験を控えた高校3年生だ、俺も今年同じ高校に入学した。
一緒にいられる時間はもう、限られているのかもしれない。
さて、今日も1日を始めよう。
どんなアトラクションより、映画より、音楽より、スポーツより、ゲームより、刺激的で夢中になれる存在と過ごせる、貴重な1日を。




