ブルームーンとギムレット
6月の末にブルームーンを呑む。
叶わぬ恋心を奥底へと沈ませるために。
7月から去り行く彼女への未練を断つように。
ブルームーンを静かに呑む。
淡い紫色の液体。それは夜空のように色づいている。
バイオレット・フィズとジンで作ったカクテル。完璧な愛から叶わぬ恋を産み出すとは。
皮肉というのはこのことではないのか。自虐しながら静かに呑む。
誰かの妻であり自ら産んだ子の母。彼女はそんな存在だった。
私が彼女に惹かれたのは彼女に母性があったからだと思う。
早くに母を亡くした私にとって、年下だった彼女に惹かれていたのはそれが理由だったのかもしれない。
しかし、誰かの妻を奪うなど私には考えられなかった。ゆえに自ら退き彼女の幸せを願うのみだ。
彼女が離婚し、再婚し、そしてまた繰り返し、また再婚したとしても。
勇気の無い私は彼女の幸せを願うのみだ。
彼女の子はどう思うのだろうか。物心ついた時から父親が変わっていく日々を過ごして。
母である彼女の苦悩をどう感じるのか。私には分からない。第三者であるゆえに。
成長して聞かされた時、どう感じるのか。母に寄り添うか。反発するのか。誰にも分からないことだ。
ダーティーマザーとしてみるか。ゴットマザーとしてみるか。それは彼女の子次第だろう。
ブルームーンが空いてしまった。次に吞むのはギムレットにしよう。
7月から彼女にはもう会えない。それは紛れもない事実。だからこそギムレットを呑むのだ。
長いお別れを意味するギムレットを。沈めると決めた恋心に別れを告げるように。
ただ願うのは彼女の幸せのみ。離婚と再婚を繰り返すことなく愛する人との幸せな月日を重ねていくこと。
それだけが今の私が願うことなのだ。彼女への未練を断ち、純粋な幸せを願い、別れを告げた私が願ったこと。
彼女に対する唯一の願いであるゆえにー-。
《終》