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伯爵令嬢、暇潰しをする

「起きてください、お嬢様」


「ん~、もう行く時間~?」


「寝ぼけてますね。ここはローラント侯爵家ですよ」


「侯爵家…こうしゃくけ…!」


がばっと布団をめくる。そうだった、昨日からフィスト様のところにお邪魔してるんだった。


「早く用意しないと皆さんお待ちです」


「はい!」


パッと立って着替えを済ませる。着替えはリーナとアーニャがやってくれる。こういうところは伯爵家と一緒だ。最後に鏡でチェックしたらおしまい。


「さあ、参りますよ。お嬢様」


リーナに連れられて廊下を歩いていく。リーナもアーニャもすぐに間取りを把握したようだ。お仕事とはいえすごいな。


「おはようカノン」


「フィスト様おはようございます。待たせちゃいましたか?」


「いや、昨日は遅くまで付き合わせて悪かった。昨日話したことはできるだけ早く実現するようにするから、しばらくは不自由だと思うが我慢してくれ」


「いいえ、久しぶりにゆっくりできるので楽しみです。書類や資料もまとめる暇がなくて…」


「お嬢様!私がいない間もちゃんと休んでくださいね」


「リーナの言う通りだ。まずは体を休めてくれ」


フィスト様がそういうと朝食が運ばれてくる。豪華さでいえば昨日ほどではないけど、うちではパーティーとかでないと見たことのない料理だ。



「朝食はどうだった?」


「はい!とっても豪華でおいしかったです。でも…」


「何か嫌いなものでもあったか?」


「いえ、量がちょっと多かったので毎回はちょっと」


「ああ、そういう事か。確かに令嬢には少し多いかもしれないな。残しても構わない」


「せっかく作ってもらうのですから、残したくはないので少し減らしてもらうようにお願いできますか?」


「分かった。料理人に伝えておこう。ライグも明日から働いてもらうから、彼に聞くようにも言っておく」


「ありがとうございます。フィスト様は今日はお出かけですか?」


「そうだな。数日は休暇をもらっているのだが、少し手配があるので出かける。1週間ほど周りがうるさくなるかもしれないが、我慢してくれ」


「何かあるのですか?」


「できたら見せるから楽しみにしておいて欲しい」


朝食はそこで終わって、私は一旦部屋に帰る。リーナとライグはこれからアルフレッドさんに家を案内してもらうそうだ。気に入ったら荷物も使用人の人が運んでくれるらしい。前からライグは新居の話をしていたから念願かなって良かったね。


「アーニャは一緒に行かなくてよかったの?」


「私が行くとお嬢様が1人になります。使用人の顔合わせも別に行いますから安心してください」


「別に私だって子どもじゃないんだから大丈夫なのに…」


「フィスト様は給金を出すと言われましたが、私たちの主は変わらずお嬢様です」


「かたいなぁ~、アーニャは。さて、まずは資料の整理からっと」


持ってきた資料をまとめる。昨日アーニャが持ってきた内の一部はすでにグルーエル様経由で提出することが決まっている。なんでも、薬に詳しい知り合いがいるそうだ。薬草もそっちから回してくれるのはありがたい。私は残った資料をどうまとめるか考えだした。


「ねえアーニャ。資料だけど材料ごとに近いものでまとめるか、効果ごとにまとめるかどっちがいいと思う?」


「もうお仕事ですか?少し休まれては。ですが、そうですね…効果ごとの方がいいのではないでしょうか?何がしたいかで検索できると助かりますね。ただ材料ごとに何に使えるかのものもあるとより使いやすいかと」


そこまで言ったところでアーニャが口に手を当てる。


「いえ、とりあえずお休みしましょうか?」


「良い案をありがと!早速やるぞ~」


机に陣取った私は紙を取りだしてとりあえず思いつく薬草を書き出す。まずはこの中で希少性の低いものから順番に並べて行こうかな?それとも名前順かな?…名前順にしよう!


カキカキカキ


困り顔のアーニャもなんのその、私はつらつらと薬草名を書いては何の材料かを書き込んでいく。これ結構スペース開けとかないと、汎用性の高いものはすぐ埋まっちゃうな。


コンコン


「はい」


「アーニャ。お嬢様は?見学も終わって今ライグたちに荷物を運んでもらっているんだけど…ってこれは?」


「リーナ様。申し訳ありません。お嬢様に不用意に発言してこのありさまに」


「こうなったら、動きませんから諦めましょう。以後注意するようにね。運び終わったら先に顔合わせをするからまた知らせに来るわ」


「はい、手間をかけます」


バタン


ちらりとお嬢様を見る。先ほどの会話など聞こえもしていないようだ。一心不乱に薬草の用途を書かれている。つい自分でも薬を使用する機会があるので不用意な発言をしてしまったが、横から見る限り大変役に立ちそうな内容になっている。書式を真似て自分の分も書き出しておこう。



「ん~、薬草もないし薬もない。今の段階だとこれぐらいかな?」


10数枚の紙を書き終えた私はとりあえず満足してペンを置く。それにしてもこのペンもいい書き味だ。実家で使っていたものよりスラスラと書ける。研究所の物は安い市販品だったからさらに使い心地が悪かったし。


「お嬢様、お茶にしますか?」


「えっ、いいよ。これから書き出した薬草から作れる薬の説明とか書いてくから」


その後も私は書き続けて、7枚ほど書き終わったところで周りを見る。


「あれ、リーナ?アーニャは?」


「アーニャは顔合わせに先ほど行きましたよ。聞いておられなかったのですか?」


「気にしないで一言、言ってくれればいいのに…」


「一言どころか私も交代しますと言いましたよ。お嬢様、もう少し周りを見るようにしてくださいませ」


「そうだったんだ。気を付けるね」


はぁ~とため息をつくリーナ。やっぱり見慣れない使用人さんと顔合わせに疲れたのかな?その後は私もちょっと気になったので、リーナとライグの家を見せてもらった。立派なお家で手入れもずっとされてたみたいだ。庭にも花が咲いている。


「この庭は薬草園からちょっと薬草を分けてもらって色々と家で料理を研究したいと思ってるんです」


「ライグったら。こんなにきれいな花が咲いてるんだからそのままにしておいたら?」


「私もそうしたいんですが、ライグの料理の情熱を考えると仕方ないかと諦めました」


「もったいないな~」


そんな話をしてまた邸に戻る。今日はお昼も夜もフィスト様はお出かけのようで帰ってこなかった。当主不在でご飯を食べるのはなんだか悪いと言ったら、領地を持つ貴族の邸はこれが普通ですので、とアルフレッドさんに言われた。でも、ちょっぴり寂しそうだった。




「陛下、ローラント侯爵より火急の書状が届いております」


「ほう?フィストからとは珍しい。どこかの領で挙兵の兆候でもあるのかな」


「陛下!めったなことを…」


「宰相よ。分かっておる、書状をその者に」


手紙を持ってきた兵に近衛騎士へ手紙を渡させる。


「では、陛下。私も見てよろしいですか?」


「そうだな。彼が火急というぐらいだからな」


侯爵は若くして継いだにしては中々頭が切れる。何より、国境警備隊副隊長の本来の役目を知っている辺り、信頼に足る人物だ。興味深く書状を確かめる。


「ほう?」


「これは…ある意味一大事ですな。侯爵の言う通り、直ぐにでも侯爵家の養女に…」


「慌てるな、宰相」


「しかし、陛下。かの者は周辺国では知らぬほど名声のある人物です。グレンデル王国も居場所を知ればきっと返還の申し立てが来るかと」


「それはそうだ。だが、養女にしてどうする?書いてある通りなら世間知らずのようだし、下手な貴族の元にはやれん。それならいっそ平民として、ここにある『魔力病』の治療薬開発の功績をたたえて子爵位をやればよい」


「それでは領地などはどうするのです?王都に呼び寄せるのは危険かと思われますが?」


これだけの実績がある若い研究者だ。閉じ込めておけば長年の成果が得られると考える貴族も出てくるだろう。


「子爵位のみで領地は与えずに、代わりに研究棟と薬草園を与えればいいだろう?場所はフィストの侯爵領だ。これなら領から動かさず研究もさせられるし、他の貴族も手出しは出来まい」


「た、確かに。さすがは陛下!」


「まあな。それにな…」


いたずらっぽく宰相に語りかける。


「あのフィストがこのような身の上でぜひとも保護したいと言ってきたのだ。養女より貴族同士の方がこれから面白そうだろう?」


そういえば陛下はローラント侯爵にいくつも縁談を持ちかけていたなと宰相は思い出した。うまくいかないのが悔しいのだろう。まあ、陛下の思い通りになれば我が国にも大きな利益だ。


「そうと決まれば早速、返事を書きます。あくまで彼女はこれまで独自に『魔力病』を研究していた。そしてこの度、その治療薬を開発した平民という事でよろしいですな?」


「ああ、そうしてくれ。あの国に身請け金や賠償金など払ってやるものか」


流石に臣下の手前、同じ親として虫唾が走るとは言えなかったが、今後の外交でもびた一文負けてやらんと思った国王だった。




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