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伯爵令嬢、ふわふわベッドで眠る

「さて、ここからの話だがカノン嬢はこれからどうしたい?」


「私のことはカノンと呼んでください。その方がしっくりきます。とりあえずは研究を再開したいです。『魔力病』の治療薬を早く大量に作ることもやりたいし、薬草園に寄れなかったので希少な薬草も持ってこれていないしそれに…」


「お嬢様、少し落ち着いてください!」


「あっ、ごめんなさい。研究所でもこんな感じでいつも喋ってたので」


「構わないよ。じゃあ、カノン。しばらくはこの邸で生活するという事でいいか?」


「いいんですか?私は薬草園さえあればいいから宝石を売って、街に小さい家でも買おうかと思ったんですけど」


「いやいや、カノンちゃんはすでにうちの国でも重要人物だから、街の家になんて住まわせられないよ」


「私はもうただの一般人ですけど?」


確かに研究者としてはそれなりかもしれないけど、いっぱいこの国にもいるよね。


「お嬢様、少し席を外します」


アーニャが席を立っていった。トイレかなと思ってたら鞄を持って帰ってきた。


「フィスト様を信頼してこちらをお見せします」


「アーニャ、それって私が研究所でしてた研究の資料だよね?」


「そうです。この国でのお嬢様の地位を確立するため、フィスト様たちにどれから生産するかを決めてもらおうかと」


「しかし、アーニャ。それではお嬢様がまた…」


「問題ありません。こちらはすでに開発が完了したものと、実際に製造までいったものと治験途中のものだけです。お嬢様が最低限しか関わらなくても問題ない分です」


アーニャが持ってきた資料をフィスト様とグルーエル様とで見ている。


ソワソワ


「お嬢様どうされましたか?」


「リーナ。ん~とね。今までは薬の発表って私がしてなかったから、こうやって直接見られるの恥ずかしいなって」


「お嬢様は大変な薬の発明がまるで子どもの宿題みたいに言わないでください」


「だって、緊張するよ~。『魔力病』のために色んな薬を作って試したから、すっごい無駄なものとかあるかもしれないし」


「フィストそっちはどうかな?」


「グルーエルお前の方は?」


「選ぶのは大変そうだよ。特にこの各種薬草や植物を混ぜた『美容及び健康改善薬』これは争いが起きると思うね」


「こっちは『時間を指定できる痛み止め麻酔の研究』だ。無駄に強力な薬を服用しなくて済む。いくら魔法で回復できるといっても、都合よくその場にいるとも限らないし、痛みの研究も重要だ。他にも『万能薬の調合』もある。こっちは現在の材料と違うものを使って、ほぼ同等の効果をもたらすものだ。市販品の価格を3割抑えると出ている」


「カノンちゃんって新薬だけかと思ったら、既存薬の研究もしてるんだね」


「最初は『魔力病』の体外に出ていく魔力の抑制が急務だったんで、魔力回復薬の改良の後、万能薬とか栄養剤とかで状態異常や体調の改善から始めたんです。それから徐々に体調が安定してきたので、本格的に治療薬の開発に入りました」


このくだりの部分だけは人に自慢できるところだ。一歩ずつ着実に目的に近づいていくことができたから。その過程で変な成長薬とかもできたりしたんだけどそういうのも成果になるのかな?


「他にも紙に書いてないだけで、色々ありますけど見ます?」


「紙に書いてないのに見られるのか?」


「はい!薬草園さえいただければ、薬草を見ながら配合を思い出せます!」


「そ、そうか。なら早いうちに薬草園の用意をしよう。だが、無理はしなくていい。それでどれくらいの広さが欲しい?」


「あるだけで結構です!」


「あるだけか…多少時間がかかるかもしれないが、すぐに手配しよう」


この時、私たちは認識の違いに気づいていなかった。研究所の予算はさほどなく畑の開拓、薬草持ち込みは当たり前の私に対し、侯爵領は自然が多く、邸の周りの土地も余っているぐらいだったのだ。


「じゃあ、カノンちゃんについてはとりあえずそれでいいとして、使用人の人たちはどうするの?」


「私とアーニャは出来ればこのままお嬢様につかせていただきたいのですが…」


「邸に一人ではカノンも寂しいだろう。用意をさせるから今後とも支えてやってくれ。給金はこちらからだそう」


「よろしいのですか?」


「使用人が少し増えて困ることもない。代わりにカノンが滞在してくれるなら何よりだ」


「それはそうかとは思いますが…。あと、ライグなのですが」


「ああ、料理人だったな。うちで働いてもらってかまわない」


「よ、よろしいのですか?」


「ああ、他国の料理を振舞ってもらえるなら俺もうれしいし、料理人たちも喜ぶだろう。何か得意料理はあるのか?」


「ライグは薬膳料理が得意なんです!」


「薬膳料理?」


「ああ、グレンデルの王都で最近見かけるようになった料理だね。なんでも健康にいいって評判の」


「実は薬膳料理はお嬢様と私が考案して、昔世話になった店に教えたものでして…」


「そうか、新しい料理でなおかつ創作者なら料理人たちも喜ぶだろう。ぜひお願いしたい」


「あ、ありがとうございます」


「そういえば、ライグって夫婦なんだよね。そこのメイドさんと」


「そうですが…」


「なら、これからここに住むならすぐ先にある家をあげればいいんじゃない?あそこ空き家だけど、侯爵家に近いから管理が面倒でしょ」


「あの家か。確かに商人にたまに使わせる程度で、そもそも前は引退した使用人が住んでいたところだったな。2人ともどうだろうか?」


「お嬢様だけではなく私たちにも過分な対応を頂いてよろしいのでしょうか?」


「これからのことを考えれば問題ない。陛下に奏上が叶えば、じきにカノンも見合った地位が得られるだろう。前祝のようなものだ」


「ええっ、パーティーとか呼ばれちゃいますか?」


「いくらかは出ないといけないだろうね」


「代理とか研究中で離れられないとかは…」


「流石にそれは無理かな。っていうかカノンちゃんはほんとに貴族らしくないねぇ。騎士生活が長い僕から見てもなかなかいないよ」


「お嬢様はある意味箱入りですから」


「そうなったらアーニャはどこに住むの?」


「私は独り身です。きちんとお嬢様のそばにいますよ。リーナ様の分まで」


「いえ、私も落ち着くまではこの邸に住まわせていただきます。さすがに2人だけにはできませんわ」


「では、そのまま客間の部屋を使ってくれ。来訪者も少ないから問題ないだろう」


「こんな立派なお邸に誰も来ないんですか?」


「僕らは外回り組だからね。基本的に身分があっても人気があるのは王都に勤める役職持ちの貴族なんだよ」


「私は街で国境警備隊は国防の重要な部分を担うという話も聞きましたが?」


「地方を行きかうから令嬢たちにはそこが下働きに見えるみたいでね。騎士団長や近衛騎士の方がまだ人気があるよ」


「じゃあ、フィスト様たちはまだ婚約者はいないの?」


「これでも僕は既婚者だよ。フィストはいないけど」


「俺だって別に作らない訳じゃない。ただ、この地は要衝だ。そのことが理解できないやつを迎えてもどうしようもないだろう」


「せめて、無駄なことをしないでくれたら助かるんだけどね」


「みんな婚約者には苦労するんですね」


「カノンほど苦労してる奴はそうそういないだろうがな」


その後もこまごまとしたルールの確認をして今夜はお開きになった。明日は私ができることもないしお休み。ライグとリーナは新居となる家を見るのと、使用人同士の顔合わせだそうだ。ちょっとの間は一人になるだろうからその時は資料でも眺めてよう。


「ん~、どうしようかな~」


「お嬢様どうされました?」


「アーニャ、私『魔力病』の薬を完成させたじゃない?そうなると次に作りたい薬っていうのがないの。他の人の分をとりあえずは一緒に作ればいっかって思ってたから」


「それは難しい悩みですね。時間がある時に邸の方に聞かれては?」


「ええっ!みんなお仕事中でしょ。そんなことして大丈夫かなぁ」


「自分の意見が形になるんです。きっと協力してもらえます」


「アーニャが聞いてくれないの?」


「お嬢様はこれまで人と接触が少なかったのです。これからお世話になるのですからそれぐらいは必要です」


「むむっ、アーニャがリーナみたいになってきてる」


「リーナ様は私たちと侯爵家の間を持ってくれます。それに家庭もありますし、無茶を言ってはいけません」


「…そうだよね。わざわざついてきてくれたんだし。でも、他の人たちどうしてるかなぁ」


「彼らなら大丈夫です。リーナ様もそうですがメイド長たちも経歴がいいですから。辞めた使用人にも良い職場を紹介してくれてますよ」


「なら、ちょっとは安心かな。お父様が暴れてそうだから」


「さあ、今日はお疲れでしょう。休んでください」


「は~い」


アーニャに促されてベッドに入る。これでようやく今日は終わりだ…zzz。




「どなたでしょうか?」


お嬢様が寝たことを確認してドア越しに声をかける。


「フィストだ」


「侯爵様。お嬢様はすでにお休みです」


「いや、君に用事だ」


何だと思い外に出る。すると、向かいの部屋に案内される。お嬢様の部屋に近づくものがいないことを確認してから部屋に入った。


「そう警戒しないでくれ。突然なのは悪いと思っているが、話していいか判らなかったのでな」


通された机の上には国境で置いてきた暗器セットが置いてあった。


「どうしてこれを?」


「信用の証だと思ってくれたらいい。全員が素性を知っているものか判らなかったのでな」


「お嬢様以外は伝えました。簡単にですが」


手元に戻ってきたそれらを身に着けていく。


「見事に隠れるものだ」


「ええ、ナイフ1本では心もとなかったので助かります」


そう言ってクルクルッと細身のナイフを取りだして見せる。これが私なりの信頼のお返しだ。


「まだ、持っていたのか…」


「体では守れないこともありますので」


ナイフをしまい部屋を出ていく。まだまだ、全員を信頼できない以上は気を抜く訳にはいかない。夜が明けるまで、私は椅子に座って眠りながら警護を続けるのだった。



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