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第2王子の病を治したら婚約破棄されたので、伯爵令嬢の身分を捨てて国外逃亡します!!  作者: 弓立歩


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エピローグ

あれから3か月が経ちました。婚約発表は2か月前に済ませましたが、マナー講習などで大忙しでした。本当はもっと大々的にやりたかったので時間をかけたいとフィストが言っていたのですが、貴族たちから私を見せろとうるさいから出来なかったと怒っていました。


そして今日は―――。


「きれいですわ、お嬢様…なんと、なんと申し上げたらよいのか…」


「リーナ様、ほら、また涙が…」


「では、時間もありませんし、代わりに仕上げは私がしましょうか?」


「駄目です!」


「では、早く支度を終わらせませんと」


「分かっています。そうなんですが…お嬢様に仕え、早10年。このような日が迎えられようとは…」


「いや、でも、一応は第2王子の婚約者でしたよね?」


「あの王が王子以外に興味を持つとは思えません。きっと、息子の衣装だけ豪華にして、貴族との差を見せびらかしたに違いありませんわ」


リーナはあれ以来本当に王族が嫌いになってしまって困ります。さすがにあの王様もそんなことはしないと思いますけど。


「どうだい?カノン、準備は進んでいるかな?」


「ま、まだです。フィストは入って来ないでください。着替え中だったらどうしたのですか!」


「い、いや、すまない。じゃあ、待ってるよ」


「あの男は全く…」


「アーニャは最近、フィストに冷たいわね」


「当然です。私の主をかっさらおうなどと不届きな。稽古をつけてやります」


まあ、フィストも剣の練習になるって言っていたし、ケガしないならそれは別にいいかな。だけど、ほんとにアーニャは多芸だと思う。護衛もできるなんて、初めて知った時は驚いてしまった。だから、街での情報収集もやってくれていたんだね。


「もう少しで完成ですからね」


「いつもありがとう、リーナ。これからもよろしくね」


「当り前です。お嬢様のお相手は中々できることではありませんから」


「それでは、行きましょうかお嬢様」


「はい…」




「あ~あ、今頃は式が始まってますよ。侯爵くん」


「おい!誰が聞いているか判らないんだぞ、めったなことを言うな」


「そんなにもう気にしてないですよ、きっと」


「式が挙げられるようなやつに出会ったという事だろう。俺はそれだけ分かればいいんだよ」


「素直じゃないですね」


「うるさい。こっちはまだ20人しかいないんだ。薬の開発も遅れてるんだから、きびきび働け」


「あ~あ、新所長はきびしいです~」


「それと『侯爵くん』と今後は呼ぶな。兄上が継ぐのも間近になった今、変な噂が立つだろう」


「じゃあ、なんて呼んだらいいでしょうか?あ、本名以外で」


「…お前な。そんなに言うならお前が考えろ!」


「私がですか?ほんとにいいんですか?」


「当り前だ。ただし、おかしな名前にはするなよ」


「それじゃあ…サブライムで!」


「なんだそれは?」


「いいから、それでいきましょう」


「まあ、あいつといいお前といい期待はしてないから構わない」


「じゃあ、今日からサブライム所長ですね。よろしくお願いします!」


「こっちこそな」


今日はむかつくぐらいにいい天気だ。あいつを祝福してるならなおさらだ。だが…。


「それで幸せな思い出になるんならそれもいいかもな」




この扉の向こうには招待客もいるのよね。ほとんど知らない貴族ばかり。お義母様は仲のいい方をお呼びしたとおっしゃられていたけれど、それでも緊張する。


「緊張してるのか?カノン」


きれいに着飾ったフィストが私を心配して見つめてくる。


「当り前よ。こんな盛大な場所に出るのは初めてよ。あっ、一度だけあったわ」


「パーティー嫌いの君が?」


「王子との婚約セレモニー…」


「あっはっはっ、確かにそれは盛大だったろうな。俺との婚約パーティーも結局は小さい規模になってしまったからな」


「笑わないでよ。でも、今日はあの時と違ってうれしい気持ちで迎えられてるの」


「そうだな。太陽すら君の味方だ、カノン」


「そうかな?」


「きっとそうさ。ほら、時間だよ」


ギィィィィ


目の前の扉が開いていく。私は親族がいないので、最初からフィストと一緒に入場だ。最前列ではお義母様たちが待ってくれているはずだ。


「さあ、行こうか」


「はい!」


たくさんの人に拍手で迎えられながら進んでいく。その中を進んでいくのがなんだかすごく恥ずかしくなって、足元ばかりを見てしまう。出て行く時にはきちんと顔を見ないと。せっかく来て下さったのだから。


前に進んでいき、神父様の前で止まる。


「これより、フィスト=ローラント侯爵とカノンドーラ=ライビル子爵との結婚式を執り行う。一同、神の御許に礼を…」


この国の方式に則り、式が執り行われていく。神父様のありがたいお話を聞きいよいよその時が訪れる。


「汝、フィスト=ローラントはいついかなる時も、カノンドーラ=ライビルとともにあることを誓いますか?」


「誓います」


「汝、カノンドーラ=ライビルはいついかなる時も、フィスト=ローラントとともにあることを誓いますか?」


「誓います」


「では誓いのキスを…」


ヴェールがめくられ、私と彼の距離が近づいてくる。


チュ


軽く触れるだけのキス。だけど、とても温かく唇に残るその感触…。


「カ、カノン、次!」


「はっ!」


「それではここに新たな夫婦が生まれましたことを宣言いたします!新郎新婦に拍手を!」


私たちは会場に向き直り、歩いて出ていく。リーナやアーニャにジェシカ。アルフレッドさんに、ライグ。みんなが祝福してくれる。だけど、貴族の方が手前にいるのが少しだけ残念かな?


バタン


「ふぅ~、疲れたね~」


「疲れたねじゃない。あんな顔をして…」


「どんな顔してたの?」


「バカなことを言っていないで着替えるんだろ」


「分かりました。じゃあ、また後で!」


そしてもう一度、着替えのために控室に戻る。


「そういえば、リーナもアーニャも中だけど誰が着替え手伝ってくれるんだろ?」


ガチャ


中に入ると、1人の女性が立っていた。


「お嬢様…美しくなられて…ううっ」


「お嬢様って…もしかして、メイベル?」


「そうです。乳母をしておりましたメイベルです。ご立派になられて…」


「メイベルがここにいるってことは、ひょっとしてあなたが着替えを手伝ってくれるの?」


「私のようなものが申し訳ございませんが、リーナたちもぜひとのことだったので」


「ううん、急にやめてしまって心配していたの。元気な姿が見れてうれしいわ」


「さあ、では早速ですが、皆さんお待ちいただいておりますので着替えましょうか」


そうして、まるで伯爵家にいたころのようにメイベルはてきぱきと着替えさせてくれた。


「青地に白のグラデーションがかかったドレスがとても素敵ですわ。お嬢様」


「ほんとに?」


「ええ、そのネックレスが似合うようにしたデザインなのでしょうね」


「初めてフィストに買ってもらったものだから絶対につけたかったの」


「ふふ、邸にいたころとはずいぶん違いますね。あの頃は研究ばかりで…」


「ほんとにね。じゃあ、行きましょう、メイベル!」


「私は一目会えただけで満足ですよ。お嬢様」


「ううん。メイベルには今の家族を見てもらいたいの!」


「おお…ありがとうございます」


私はメイベルと一緒にもう一度、入り口まで戻る。そこにはもう着替え終わったフィストがいた。


「待たせてしまったわね」


「いいや、メイベルも一緒に連れて行くんだな?」


「うん、ありがとう」


「なんのことだか」


ギィィィィ


開いた扉を前にもう一度私たちは進んでいく。そこには色とりどりの食事が並べられている。立食形式のパーティーだ。ちなみに疲れた人達のために奥にはきちんと休憩所も用意してある。


「おめでとうございます。侯爵様」


「おめでとうございます」


まずは貴族の方とのあいさつ回りから。侯爵家と縁の深い方たちだから、きちんとお礼を言わないとね。


「ありがとうございます。若輩者ですがこれからよろしくお願いいたします」


「いや~、しかし、これまで多くの縁談を断られてきた侯爵様のお眼鏡にかなったのが、今噂の令嬢とは羨ましいですな」


「そうですね。私にはもったいない位です」



「大体回り終えたかしら?」


「そうだな。では、あっちに行くか?すまないがカノン、俺は少し用があって抜ける」


私は目立たないようにアーニャたちのいる方へと向かう。フィストはまだ国境警備隊関係であいさつ回りがあるのかもしれない。リーナとジェシカは私のメイドとして。アーニャは何とグレンデル王国の男爵令嬢として参加している。私の友人として特別に呼んだとなっており、みんな興味はあるけれど声はかけ辛そうだ。


「アーニャどう?」


「はい、不審者もいませんし、料理もおいしいですよ」


「そうじゃなくて、いい人はいなかったの?」


「お嬢様、自分が見つかったと思ったら、もう勝った気ですか?」


「えっ、まさか…」


「きちんと捕まえていますよ」


「捕獲…じゃないのよね?」


「やはり私たちは主従の関係を深くするためにも話し合いを…」


「ごめん、冗談だから」


「あら、楽しそうね。カノン様」


「えっ!」


声をかけられた方を見ると、見知らぬきれいな女性が立っていた。だけどどこかで見たような…。


「あら、ひどい方ですね。友人の顔を忘れるなんて」


「もしかして、ルラインツ子爵令嬢様!」


「相変わらず、レラとは呼んでくれないのね。あと、私は嫁いだのだからもう違う家名よ」


「始めまして、ローラント侯爵夫人。魔導王国よりこの度、お祝いを申し上げに参りました、グレッグ=ノーマン侯爵と申します。昨年侯爵に上がったばかりの成り上がりものですが、どうかよろしくお願いいたします」


「ご丁寧にありがとうございます。カノンドーラ=ライビル子爵です」


「カノン様、今はもうローラント侯爵夫人ではなくて?」


「えっ、ああそうでした」


そうか。式自体はもう終わったんだから夫婦なんだな…。


ペシッ


「いたっ」


「また意識が飛んでおりましてよ。もう少ししっかりしないと」


「ごめんなさいレラ様」


「なんだか姉妹みたいだね」


「そうですわ。私がカノン様を好きだったのにあなたとの婚約で泣く泣く別れたのです」


そんなことを言っているけどレラ様と旦那さんは仲がいいみたいだ。


「レラ様は愛する人には出会えたの?」


「どうでしょう?少なくとも本人の前では言えませんわね」


「手厳しい」


「そう言うカノン様は出会えたようですわね」


「はい。レラ様が教えてくれた、愛する人だわ」


「はぁ~、残念ですわ。最初に婚約破棄のことを聞いたときは私、喜びましたのに」


「悲しまなかったのですか?」


「仮にも外交上の婚約でしたから私も王城には何度か行きました。その時にあの王子の性根は見ていましたから。その上で、今回は国王陛下に願い出てわが国で保護しようと思っておりましたのに…」


「婚約破棄の時の報告を受けたレラの様子を見せてあげたかったですよ。喜んだあとに、王子の対応に怒って扇子は折る、魔力があふれてものが飛び交うと大変だったのですから」


「余計なことは言わなくていいです。でも、幸せだと聞いて安心しましたわ。残念ながら、グレンデル王国をはさんで反対側ですけど」


「そうですわね。簡単には会えませんね」


「ですので、子供ができたら必ず、どちらかの国に留学させましょう!約束ですよ」


「ええっ、今からそんな話を?」


「はい。カノン様はそうやって早め早めに言っておかないといつまで経ってもしてくれませんからね」


「でも、まだ子供がいないから約束はできないけれど、仮にね」


そう言って私たちは指切りをする。


「そういえば、レラ様はよくこの国に来られたわね」


「ああ、それはカノン様のおかげですわ。あなたの発明した薬の評判がわが国でも大変な評価で、グレンデル王国を通して交流できないかと言われましたの」


「でも、直接来てますよね。レラ様は」


「ですから、陛下にこう言いましたの『私の大切な方は国で奴隷のような扱いを受け、友人も私以外にはおりません』と。それならば直接行った方がより良い結果になるだろうとなって、来ることができましたの」


「そう…ですね。私、友人なんて今もいませんものね…」


「あら、でも先ほどの方は友人なのでは?」


「アーニャはうちのメイドです…。警備も兼ねてあの格好でいてもらっているのです」


「…ごめんなさい。でも、これから作ればいいではありませんか。あなたならきっとたくさん友人ができますわ」


「そうですか?」


「ええ、まずはこの場で馴れ初めなどをあちらの令嬢方に説明していらっしゃいな」


トン


背中を突かれてちょっと離れたところからこちらを見ていた令嬢たちの輪に入ってしまった。振り返るとレラ様は頑張ってと言っているように見えた。


「あの…」




「やれやれですわね」


「良かったのかい?もっと話したかっただろう」


「ええ。ですが、彼女はもうこの国の人間ですもの。私とのことに時間を使ってしまってはいけませんわ」


「昨日あれだけ紙に書いていたことを半分も話していないだろう?」


「いいのですわ。それに未だ他国の友人は私一人。理由をつければいつでも会いに行けますもの」


「じゃあ、いつかこの国と国交を結ぶことになった時には大使の申請を出すよ」


「本当ですか?最短で頼みましたよ。旦那様…」




私はレラ様のおかげで今日出席されていた令嬢たちと仲良くなることができた。これまでは研究所とマナーだけで、出かけることも少なかったけれど、これからは忙しくなるだろう。


「もういいのか?カノン」


「気を使ってくれてたんですね。大丈夫です、フィスト。だけど、離れないってお約束でしたわ」


「それはその…」


「じゃあ、このパーティーが終わるまではひとまずこのままで…」


くるっと彼の腕に手を回して離さないようにしっかりつかむ。横では令嬢たちがキャーと色めきだっている。ふふっ、私のだんなさまは素晴らしい方なのだから、みんなに見せないとね。


「恥ずかしくないのか?」


「少しだけ。でも、それより素敵なあなたをもっとみんなに見て欲しいから…」


私を助けてくれただけじゃない。生きる意味を、新しい世界をくれた一番大事な『愛する人』のためなら、きっとこの先も頑張ることができるし、きっと私の人生も幸せだろう…。




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