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第2王子の病を治したら婚約破棄されたので、伯爵令嬢の身分を捨てて国外逃亡します!!  作者: 弓立歩


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サイドストーリー ジェシカとアルフレッド

私はジェシカといいます。ローラント侯爵家に仕えて3年目です。その前は養成所にいました。養成所は『影』を育てるところで、そこから諜報・暗殺者の両方の才能があるものが認められて最終的に基準を満たしたものが配属されます。


「まさか『影』になる前にあんな大物に出会うなんて…」


私は未だどれでもありません。今年の末に私と同年数の戦闘訓練を積んだメイドは何か役割を与えられる。『影』に選ばれなくとも、そこそこの金額で雇われ貴族の戦力になる。その間、ここで自分を磨いている最中です。


午後に再び会うと思うけれど、アーニャとはどんな人だろう?昨日の感じとはもう違った見方をしてしまうだろう。リーナ様とライグ様の使用人への紹介も終わり、お二人が戻っていく。入れ替わりで彼女が来るまで、昨日集められた子達も戦々恐々としている。


「今後お嬢様のメイドとしてお世話になるアーニャです。よろしくお願いします」


彼女はスッと挨拶をする。無駄のないメイドとして完璧な挨拶だ。アルフレッド様の言う通り敵意はないみたいだ。


「こちらからメイド長の…」


アルフレッド様が彼女に一人ずつ紹介していく。最後が私だ。


「そして、彼女がカノンお嬢様につくジェシカです。挨拶を…」


「ジェシカです。よろしくお願いします…」


「よろしく。早速ですが邸を案内してもらえますか?」


彼女の言葉に従って邸を案内する。


「ここが昨日の食堂、その横に広間があって、使用人は1階の裏口手前の横から奥にあります」


「そう…」


彼女はきょろきょろしながら私の後をついてくる。邸の作りなんてどこも似たようなものだと思うけど…。その後は普通に案内を終えた。


「少し裏庭を見てもいい?」


「は、はい。構わないですが」


特に何もないようなところに何の用事だろうか?そう思って裏庭に出てドアを閉める。ちょうどこの場所はカノンお嬢様の部屋の反対側で特に気になるところもないと思うのだが。


ヒュッ


その時すさまじい殺気とともに、何かが迫る音がした。


バッ


「何者!?」


身をひるがえしてすぐに対応しようと構えようとする。しかし、その途中で腕を決められ首元にナイフが突きつけられた。


「お嬢様のメイドとしては戦闘力が足りませんね。暇な時は私の相手をしなさい」


「ひっ、は、はい」


ナイフを首元から外された私はほっとしておしりから庭に崩れ落ちる。動くそぶりも直前まで殺気もなかった。そもそもナイフだってどこから…。あんな短時間で出せるなんて、この人の稽古を受けるなんて私死んじゃわないでしょうか…。


「おや、裏庭でどうなさっていたので?」


アルフレッド様が裏庭から戻る私たちを見つけて話しかけてきた。一体どうやって答えよう?


「少し彼女とお互いの経歴について話をしていただけです。ご心配なく」


あれが語り合ったと。しかも、ちょっとだけですか。その後は他の仕事も上の空でその日の仕事も終え、部屋で着替えようとしていた時だった。


コロンコロ


「ん?」


なんだか音がしたような気がする。私は気配や音には敏感だ。その他は普通だけど、そこはよく教官にも褒められていた。音の方に向かうと裏口へのドア前に小さな球体が落ちている。


「なんでしょう?こんなもの見たことないからアルフレッド様でしょうか?」


コンコン


「なんだね。ジェシカ?」


私の訪問だと分かったアルフレッド様が部屋から出てくる。


「アルフレッド様、失礼します。こちらはアルフレッド様のものでしょうか?」


「この球体は知らないですな。他には誰かに話しましたか?」


「いいえ、てっきり…」


「おや、もう見つかった後でしたか」


「ああ、アーニャさんでしたか。これはどういうものですか?」


「裏口など普段利用のないところに仕掛けておいて、その落下音で侵入を察知する道具です。しかし、私の部屋からはやや遠いのか聞こえませんでした」


「では、なぜこちらに?」


「そろそろ戸締りの確認の時間だと思いまして、どうなったかの確認に」


「誰かに伝えてもらって試せばよかったのでは?」


すごく冷たい目を向けられた後、アーニャはこういった。


「一応は今が大体の戸締りの時間と分かっていて集中してます。本来、侵入者が来るのは突然ですので、今の時点で音が聞こえるかどうかが大事です」


「まあ、そうですな。そこまで来られるかはともかく、その後の対応が決め手になることもあるでしょう」


「しかし、ジェシカさんはどの位置から聞こえたので?」


「自分の部屋です。奥から2つ目の部屋ですね」


「…ふむ。アルフレッド様、彼女の部屋を裏口の横にしてもよろしいでしょうか?」


「構いません。明日中にでもさせましょう」


「い、いいのでしょうか?」


「アーニャさんの意見でこの邸の安全が確保できるのです。そうだ、他にも何かありませんかな?」


「あとは絶対音のなる床の作り方ですね。これは、普段近づかない部屋がない邸では無用ですが。あとは簡単な結界ですね。古びてぼろぼろのように見せかけて探知できるように作れます」


「それは素晴らしいですな!早速明日にでも張りましょう」


「でも、いいのでしょうか?そういう技術はご実家で受け継がれてきたものでは?」


特にこういった技術の流出は門外不出として常に秘匿されるものです。大丈夫なのでしょうか。


「私はお嬢様の『影』です。その他一切は無用。家族の命だろうが受け継がれてきた技術だろうが、守るために役立たなければ意味がありません。お嬢様がいるうちは私の技術はすべて伝えます。もちろんジェシカさん、あなたにはお嬢様を守れるだけの技量を身につけてもらいます。お嬢様を守るための盾や剣はいくつあっても困りませんから」


私は今まで漠然とした目的で腕を磨いてきました。もちろん、国のため未だ見ぬ主のためと思ってはいましたが、ここまで主にひたむきにはなれません。一体何が彼女をそうさせるのか、そして私にもいつかあんな目ができるようになるのかと思ったら自然に口をついて出ていました。


「アーニャ様、私にもアーニャ様と一緒にカノン様を守るお手伝いをさせてください」


「はっ?いや、ジェシカさん、あなたと私では立場が。それに年下ですし呼び捨てで…」


「関係ありません!あなたのような素晴らしいメイドを呼び捨てになど、それとも師匠とお呼びした方が!」


「…それだけは絶対にやめてください。わかりました。様付けでも構いませんが、お嬢様に説明はなさらぬように。あの方は何も知りませんので」


「はっ!!」


「おやおや、アーニャさんにも苦手なものがおありなのですな」


「我が家は常に単独行動ですので…」


その後は暇を見て罠講習や新しい罠の考案会を戦闘経験のある者たちで集まって行うこととした。




私はアルフレッド。先代様より家令として大任を頂いております。先代様が領地の奥に引きこもられて2年。当代のフィスト様にも少し変化ができたようでございます。


「フィスト様、昨日お話になられていた薬草園の件ですが、どのように致しましょう?」


「アルフレッド。彼女はよほどこれまでの研究生活で苦労を重ねてきたのだろう。予算の乏しい王国の研究所では力を発揮出来ないと言ったのだ、それに耐えうるものを最短で建てるぞ!」


いえ、多分カノン様の性格からしてそのような大規模な要求ではないと思いますが。まあ、研究成果からして無駄な投資になることもないですし黙っておきましょう。


「広さはどうなさいますか?」


「邸の周りの土地も余っているし、盛大にやりたいところだが、研究成果やカノンの安全を考えるとどうしてもこの程度になりそうだ」


そこにはすでに大方の構想が書いてある配置図があった。わざわざ直筆の手紙を先代様に書くといい、どうもこれまでとは違う様子ですな。


「これでは予算はどう致します?工期も1週間となっておりますが、どちらもかなりの難題ですが…」


「工期はこっちにある紙の通りにすれば何とかなるだろう。それとこっちの小さい建物は魔石を使うから先に手配だ。予算は以前、どこにも遊びに行かず消費しないと嘆いていたものがあるだろう。それを存分に使うといい」


「わかりました」


それから数日してグルーエル様からの使いのものが来ました。もっとも、領地のものではなく密偵の方ですが。


「グルーエル様からのご伝言です。カノン様の所属していた研究所に大量離脱の動きありとのこと。確保するかどうかの相談をしたいと」


「ふむ、フィスト様は受け入れるでしょうが念のため、素性の調査を怠らぬようにお願いします。明日にでも打ち合わせ出来るように伝えておきます」


「はっ!」


「ああ、そうそう。それと出来るだけ変装してしばらくは門から入ってきて下さい」


「よろしいのですか?」


「いいというかカノン様のメイドがおりまして、今もあなたにいつでも襲いかかれるように構えているのです」


密偵が後ろを見るとヒッと声を上げる。今まで気配も感じなかったところに気づいたら殺気を放つメイドが居るのだ。密偵なら最も恐ろしい瞬間だろう。


「わ、わかりました。他の者にも…」


「ぜひ、そうして頂ければ」


その後はフィスト様とグルーエル様との話し合いで以前所属しておられた研究者をこちらで雇用し、新しくグルーエル様の領地の研究者と、この国の『影』関連の者も数名入ることになった。まあ、あの研究成果を見れば仕方ありませんな。密偵のことも話をして刺激しないようにとあらかじめ顔合わせがいりますな。


「さすがに私も初日に研究者の首が飛んだとは日誌に書けませんね」



「そういえばアルフレッド、警備はどうなっている?カノンの居場所はまだばれてはいないと思うが、近く子爵位の叙爵があるのだ」


「その辺は大丈夫でございます。アーニャが新しく罠を教えてくれたので、感知力はかなり強化されました。また、ジェシカとの訓練を見た者がやる気を出しているようです。少しずつですが、安全になっていくでしょう」


「そうだったのか。彼女がそこまでしてくれるとは。研究所が出来次第そちらも頼む。しばらくは研究所員の身元の保証や薬草の大量仕入れの件で手が回らないからな」


「存じております。万事お任せを」


それから完成した研究所を皆様と一緒に回りました。アーニャも寒冷地の部屋で防寒着を着なかったのですが、寒くないかと聞きました。


「主の身を守るために過剰な服装は厳禁です」


ブルブル


さすがと言うべきでしょう。ジェシカは迷わず着たのですから。多少震えていたというのがなんともですが。むろん、私もやせ我慢です。主を守ることが家令の一番の仕事ですからな。


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