ドッカナシ姫の演奏会
ある国に三つの城がありました。金の城にはキンナ姫、銀の城にはメーギン姫、銅の城にはリンドウ姫が暮らしていました。三人は幼なじみでとても仲良しです。
キンナは可愛い白ウサギ人で片目がありません。メーギンは片手片足の美しい黒ネコ人です。リンドウは綺麗な黄リス人で長い歯のせいで喋ることができません。この国ではどこかが欠けている者は「ドッカナシ」と呼ばれ、除け者にされていました。
ある日のことです。長旅で三年も外国へ行っていたメーギンと、重い病気が治って退院したリンドウが帰ってきました。喜んだキンナが「久し振りに金の馬車でお買い物に行きましょう」と二人を誘います。
そして三人は街までの道で胸を踊らせながら、再会の楽しい一時を過ごしました。
ところが、ドッカナシに気づいた人々が米やら水やら粉やらを投げつけてきました。「ミャッ、大変だわ」三人は真っ白になって一目散に自分の城へと逃げ帰りました。キンナはとても悲しみ、メーギンはひどく怒りました。
二日目。
今度は王族花畑に花を摘みに行きました。
楽しく遊んでいると、突然、花に隠れていた子グマ人が暴れだしたのです。
「ドッカナシ姫どもめ。帰れ帰れ」
投げつけてきた石が見事キンナの片目がわりの杖に命中。
「ひどいわ」
三人はなすすべもなく退散。どうしてこうなってしまうの、と思いながら、キンナは見えにくい目で白金の杖を作り直しました。
三日目。
今度は久し振りに大好きな王族演奏会に三人で出ます。
会場に着くと、集まった人たちに「ドッカナシ」とからかわれてしまいました。
「最近、姫の私たちも除け者にされるの。どうすればいいのかわからないのよね」
メーギンは怒り、リンドウは長い歯を食いしばりました。
三人がステージに上がると、客席から岩が飛んできました。ガチャン、ガン、ゴン。岩が当たってキンナのヴァイオリンとリンドウのフルートが壊れました。メーギンの車椅子までもペシャンコ。メーギンはよろめき、自分のピアノを壊してしまいました。
責任感の強いキンナは街で三つの楽器を直してもらおうとしましたが、バラバラに壊れていたため街の修理屋もお手上げ。
翌週。楽器がないので明日の王族演奏会には行けなさそうです。リンドウは悲しくて泣きながら銅の城の自分のベッドに横たわりました。
また昔のように一緒に演奏したいわ。
そんなことを考えているうちに眠りの世界へ。
リンドウはキンナとメーギンとともに泉の前にたたずんでいます。
よく見ると、金のヴァイオリンと銀のピアノと銅のフルートが沈んでいるではありませんか。
リンドウが泉からフルートをすくい上げて吹いてみると、世にも美しい音色が出ました。
目が覚めたリンドウはこのことを伝えに、二人のいる金の城へ行きました。
しかし彼女は喋られません。紙も忘れてきてしまったし、城の壁にも書けないわ。すごく頭を捻って手でジェスチャーをすることを思いつきました。そして、二人に向かってやってみたのです。二人はしばらく考えていましたが、キンナがこくりとうなずきました。
「泉へ行けってことなのね」
きょとんとしているメーギンをよそに、キンナは早々と馬車に二人を乗せて山の向こうの泉へと向かいました。
「まあ、綺麗な泉」
山に囲まれた澄んだ泉の中には夢と同じ三つの楽器が沈んでいます。
「あら、綺麗なヴァイオリン」キンナが金のヴァイオリンをすくい上げました。
「銀のピアノよ。まあ、車椅子までついているわ」
リンドウは微笑み、銅のフルートをすくい上げて吹きました。
「フロフィー」
みんなとても嬉しそう。
姫たちはもうすぐ始まる王族演奏会へと馬車を矢のように走らせました。
山を越えて会場の前まで来ると、米が飛んできました。前も見えません。
「どかないとどうなっても知らないわよ」
怒ったメーギンはキンナと運転を代わり、馬車で周りの人を蹴散らしました。今日のメーギン頼もしいわ、と思うリンドウ。
馬車はそのまま会場に突進していきます。
演奏会が始まりました。
「今日は姫たちがきておらぬ」金の王が悲しそうに告げます。その時、扉がバタンと開いて三人が現れました。
「私たち、演奏するわ」と言いながらステージに駆け上がります。
「帰れ、帰れ」
たくさんの大声が上がり、今度は巨岩が飛んできました。しかし、泉の楽器はそれをカーンと跳ね返してビクともしません。それでも大声は止みませんでした。
けれどキンナはひるまず、冷静にヴァイオリンを構えました。
「ギューッ」
金のヴァイオリンは今までと違ってピカピカと光るので見えやすく、やる気が出ます。
「ギャロロンギャアン」
銀のピアノは足でも弾けるためメーギンは嬉しくて大音量で弾きます。
「フィロフィーロ」
銅のフルートはリンドウの長い歯に当たらないので吹きやすく、目一杯息を吹き込んで大声をかき消します。
「ギュッ、ギャロロンギャン、ギュッー、フィッ、ギャン、フィロフィー」
三人の見事な演奏で叫んでいた人々は次第に彼女たちの音楽の力強さに引き込まれていきました。
曲が終わると巨岩ではなく拍手が飛び交いました。「素敵」「ブラボー」「ドッカナシ姫最高だわ」「凄い」「素敵」先ほどまで怒っていた人たちは口々に喜びの声を上げたのです。三人のドッカナシ姫もすっかり除け者にされていたことは忘れて認めてもらえた嬉しさと楽しく演奏できた喜びでいっぱいになりました。
キンナたちのおかげで、この国ではどこかが欠けている者は「ドッカナシ」から「ドコモナクナイ」という呼び名に変わり、一目置かれるようになりました。
今でも週に一度、三人のドコモナクナイ姫は楽しく演奏しています。
ほら、耳をすますと美しい音色が聞こえてくるでしょう。あれはドコモナクナイ音なのです。
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