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記憶の向こう

 涼花は目の前に広がる光景が先程まで目にしていたものとは明らかに違うことに気付き、慌てふためいた。なんで?ここ、どこ?神社じゃないじゃん……いや、神社だ。でも、さっきの神社じゃない……


「ねえ、あんたんちって、ここだっけ?」


 聞きながらおかしなことを聞いているという自覚はあった。が、自分が目にしていることの説明が必要で、それを聞ける相手は今はこの子だけだと思った。


「あれっ?」


 声をかけ自分の左側に目を向けると、手をつないでいたはずの男の子がいつの間にか手を離れていた。


「いつの間に……」


 涼花は先程の男の子の姿を探し目を先に向けると、男の子は涼花の立つ本殿前の参道の向こう、鳥居のある辺りに立っていた。そこまで目をやったところで小さな違和感を覚えた。


「あれ?……ここ、見覚えがある。どこだっけ?」


 涼花は記憶を頼りに自分のいる神社の全体を見るように、立っている場所でぐるっと一周してみた。そうして目にした自分の真後ろの神社の本殿に目をやり、そのすぐ後ろに見える山の近さ、ここ、知っている神社だと思い当たり、自分の記憶を確かめるように本殿前の数段の階段を下り、参道の途中を外れた脇道から伸びる短い坂に一歩足を進めると、やはりそうだと思い当たった。小さな、本当に小さな小川がそこにあり、記憶の中では、子どもの頃には幾度となく遊んだ場所だ。そうだ、ここは母の田舎の神社だ。子どもの頃にお狐様参りの日に来ていた場所だ。


「なんで?……どういうこと?」


 自分が今なぜここにいるのかが理解できず、その答えはあの男の子が知っているような気がして、神社の鳥居の辺りにいる男の子のいるほうへ向かった。


「ねえ、なんでここにいるの?さっき、あんたんちの神社にいたよね?」


「ぼくんちじゃなくて、お父さんとお母さんのとこにいたんだよ」


「は?意味わかんないんだけど。だったらあんたんちじゃん」


「ぼくんちはここ。あんたのこと放っておこうと思ったんだけど、あそこで会っちゃったからさ、ま、いっかと思ってね」


「なに言ってんの?意味わかんないんだけど」


「大事なこと忘れてたんじゃない?だからぼくに気付いたんだと思うよ」


「だ・か・ら!なに言ってんの?わかるように説明してよ!」


「こっちきて」


 ちゃんと説明してよと言う間もなく、男の子は涼花の手を引いて鳥居の真ん中のところまで連れていかれた。


「ちゃんとぼくの手を掴んでいて。鳥居をくぐるから」


「え?ダメよ。鳥居は真ん中を通るものじゃないんだから!真ん中を通れるのは神様だけで……って、それよりちゃんと説明を……」


そこまで言うと、思い男の子に目を向けた。


「えっ?」


 涼花の目に飛び込んできたその姿は、男の子ではなく……


「狐?……えっ?えっ?えっ?」


 涼花は自分の目がどうにかしちゃったのかと、パチパチ繰り返しながらこすってから再び男の子を見た。


「ねえ、今、あんた……」


「しっ、黙って。ぼくの手を掴んで目を閉じて。くぐるから」


「ちょっと待ってよ、ちゃんと説明を……」


「行くよ。ちゃんとしないと戻れなくなるよ」


 その声は、今までと違って大きな男の人のような強い響きがあり、その強硬さに何故か恐怖を感じ、涼花は目を閉じて男の子の手を掴んだ。


 引かれるまま数歩進むと、「もういいよ」という声がして目を開けた。


「忘れてたこと、ちゃんとしたほうがいいよ。ほら、あそこにいるから」


 男の子が指さす方に目をやると、そこに涼花がいた。あの時の、お狐様参りができなかった日の涼花とイトコたちが小川で遊んでいた。


「あそこに行って、ちゃんとお参りしてきなさいって言ってやれば?」


「えっ?なんで?さっきは誰もいなかったのに……っていうか、私?」


「ずっと心に引っかかってたんでしょ?そもそもぼくは誰にもばちなんか与えないよ。ばちは自分の心が与えているものだと思うよ。だけど気になってしょうがないみたいだから教えてあげようと思ってね。あんたはちとせの命の欠片をちゃんと集めているから……ぼくの姿が見えたんだから、大サービスだよ」


「なにを言っているの?意味がわからな……」


「早くしないと、あの子たち帰っちゃうよ」


 その指差す方向に目をやると、涼花たちはすでに小川の上流に向かうところで、自分の記憶に強く残るその光景では、確かに時間はそう残っていない。


 それに気づいた涼花は男の子の手を放し、急いでその小川に小走りで向かった。


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