男子は本番に強い?
『はじめまして。マコさんの投稿みてたんですけどなんかいい感じですね!興味を持ってるものが私と似ているかもしれません。フォローいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね〜』
カガ先生から嫌なことも言われてみるもんだ、とマコは思った。モヤモヤを文字にしたことで憧れの人から連絡が来るなんて。グレープフルーツジュースをすするミサキを尻目にマコは返信を打ち始める。興味があるものが似てるだなんて言われて光栄だ。むしろ私が興味がある人がインガンさんであったので、当然と言えば当然なのだが。
ネット上に投稿している文章を読む限りでは、インガンさんは医師になりたて、つまり医学部6年生のマコの一つ上の代ということになる。そう言った面でも、マコはインガンに親近感を抱いていた。
届いたメッセージに返信を打ち込んでいる間に、続けてインガンからメッセージが届いた。
『私も本当はマコさんみたいに、もっとフェミニズムに関することとか自由に言いたいし、昔はもっとしていたんですけど、フォロワー数増えてきてこう言うこと行ってると変に突っかかってくる人が出てくるんですよね… 余裕のある時は受け止め切れるんですけど忙しい時に絡まれるのが面倒になっちゃって、今は抑えてます。なので、マコさんのことすごい応援してますよー 私も余裕が出たら言いたいこと言おうと思います』
めっちゃ気持ちわかる、とマコはため息をついた。私はまだまだ弱小アカウントにすぎないのだが、粘着してくる人がちらほらいる。インガンさんほどの大きなアカウントであったらそれは大変だろう。マコは応援してもらえて光栄であること、粘着される大変さへの労いを込めた文章を何度も推敲し、返信した。
ほっとかれていたミサキが肩まで下ろした髪を指でくるくるしながら口を開いた。
「そのインガンさん?医師になりたてなんでしょ、案外近くにいたりしてね〜」
「そしたら絶対友達になりたい!てか近くにいなくても、友達になりたい〜!」
マコはボブの髪を揺らしながら宙に叫んだ。ドリンクショップのテラス席で叫ぶので、道を通り過ぎる人がマコたちの方に視線を向ける。
「ちょっとうるさいよー。とはいえ、まさかニェール大学も医学部女子入試差別してたなんてね…私たちの同級生になるはずだった女の子たちが今どうしてるかを考えると、辛いね。っていうか私も一回ここの大学落ちてるし。手応えあったのに、落ちたのおかしいとは思ってたんだよね。もしかするともしかするってことか。もしそうだとしたら私の一年間返して、って思うわ」
ミサキとマコはニェール大学から車で1時間くらいの同じ高校出身だ。ミサキは一浪、マコは現役で入学しており、同じ高校出身ということもあり、いつもつるんでいる。マコは、内心では医学部女子入試差別がなければミサキと友達になることはなかったのかもしれない、と思うと複雑な気持ちになったが、口に出すことはなかった。
マコは代わりに自分が高校生の時に言われた言葉を反芻した。
「そういえばさ、受験の時はよく『男子は本番に強い』なんて言われてたじゃん?それって、もしかして本番の試験では女子が減点されてきたからなのかな。むかついてきた」
「確かによく言われたわ。まあ高校の先生たちも女子減点のこと知らなかったとは思うけど。あー、自分が所属してるとこが女性差別してる大学なんて嫌すぎる」
「だね…ミサキがここ受かるために頑張ったことやお金が、女性って属性だけで差をつけられて、本当に最悪だよね…」
ほんと、とミサキは溶けた氷水までストローで飲み干した。