愛犬
「君は、誰かを好きになったことがあるかい」
犬小屋なんて言えない、家と家の間の冷たいコンクリートの通路、小さな毛布の上で小さくなっている愛犬に呟く。まあ飼い主は祖母だが。
「くーん」
「そうかあるのか」
ほんの数年前までは僕の手を噛むほどに元気だったのに、もうすっかりおばあちゃんだ。
「僕はね、ないんだよ。だからそれがどんな感情か教えてくれないかな」
口を動かし何かを告げようとも見える彼女の言葉を必死で聞く
「ううん、違う。あんなの全然、恋なんかじゃないんだよ」
僕は目を逸らして言う。すると、それを咎めたのか、体はだるそうなのに、力強く、そうだ、ちょうど僕の手を噛んだ時のように低く吠えた。だから、また、噛まれたように感じてしまった。
「んー、そうなのかなぁ。まあ、君が言うならそうなのかもしれないね」
これ以上ここにいては彼女もしんどいだろう
「ありがとう、また来るよ」
僕は彼女の頭を本当に、そっとだけ撫でた。
最後まで読んでいただきありがとうございます
埋もれていた感情と小説のネタを