第4話 非日常から始まる高校生活
翌朝、僕は相棒片手に家を飛び出した。まるで、風は僕と一体化したかのように背を押してくれている気がした。
「で、吹奏楽部が廃部の危機ってどういうことっスか?」
朝とは対照的に、がっくりと項垂れる僕。
廃部になりそうと告げた二ノ宮先輩は小憎たらしく、てへっと可愛く笑ったのだった。
***
そもそもの事の始まりはというと。
高校生初日と呼ぶべきか二日目と呼ぶべきか。入学式の翌日である今日、僕は無難にこなして帰り支度をしていた。誰かと帰ろうとしたところで、二ノ宮先輩に捕まえられて。
「3年生が卒部するから、残るのは2年生である私ともう1人だけで廃部しそうなんだよねぇ、なーんて……。」
「そうっスか、じゃあ頑張ってください。」
「まあまあ、そう言わずに、ね?」
更には、僕は非常にやさぐれていた。理由は、トランペットが吹けないからでもなく、二ノ宮先輩に捕まったからでもなく、吹奏楽部が廃部の危機という大問題でもない。なぜか、僕は他の1年生へ吹奏楽部勧誘のビラを配らされているからである。
どうしてこうなった。
「っていうか、僕、センパイにクラス教えた記憶ないんスけど。」
「入学式にこっそり七ツ河のクラス確認しといたの。めっちゃ助かるぅ!」
「助かるぅ、じゃないっスよ……。」
ご機嫌で愛用のトランペットの用意をする二ノ宮先輩を横目に、はぁ……と溜息ついた。
そもそもの元凶、二ノ宮先輩によるとこうだ。吹奏楽部としては、新入部員獲得のために二手に分かれることにしたらしい。部室で新入部員を待つ人と、帰ろうとする1年生にビラを配る人だ。
二ノ宮先輩は外でビラ配りする側になったらしい。ただ、外でビラ配りするだけでは、他の部活に埋もれてしまう。だから、トランペットを吹いてアピールしながらビラを配りたい。しかしながら、部員は2人だけでさらに二手に分かれていて1人。これでは実現不可能だが……そうだ、宛がある!と、白羽の矢が立ったのが僕という訳だ。
改めて言うが、どうしてこうなった。そう、ぼやきながら手元のビラの束に目を落とした。僕は1年生であり、吹奏楽部に勧誘される身であるはず。……はずだよね?
「さて、やりますか!」
先輩は準備が終わったらしく、トランペットらしい元気な、勇ましい有名な曲を次々に吹きこなしていく。吹いている本人はとても楽しそうだ。身体を揺らしながら、奏でている。
僕も成り行きとはいえ、手伝うことにしたのだ。興味のありそうな雰囲気を出してる気がする、1年生の軍団に近づいて行った。
結果からいえば、1年生の反応はあまり芳しくなかったけれど。二ノ宮先輩としては、それなりに満足いく結果だったようだ。
「いやぁー、七ツ河ありがとう!ホント助かったよ。」
「それは良かったっス。それじゃあ、僕はこれで……。」
真っ直ぐ帰宅する1年生がほぼ帰りビラ配りも粗方終わったということで、帰ろうとした次の瞬間。
ガシッ。そして、にっこりと笑みを浮かべる二ノ宮先輩。掴まれた自分の腕を見下ろして、僕は再びがっくりと項垂れた。