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第2話 僕は今日、再び出会った

 家に帰ってきて、部屋の隅にあった元相棒を見遣る。中学時代の相棒であり、今となっては黒歴史とも言える相棒。なんとなく気になって、黒革の存在感のあるケースを開けてみた。そこには、それなりに手入れをしてあるシルバーのトランペットが鎮座している。中学のあの時までは、肌身離さず持っていたし練習していた相棒だ。最初は上手く鳴らすこともままならなかったのだから、人から褒められるようにまでなったのは自分でもすごいと思う。


 今となっては、どうでもいいことだが。



(久しぶりに、手入れするか……。)



 触らないでいると、音色を決めるピストンが動かなくなってしまう。だから定期的にオイルを差したり、メンテナンスをする必要があるのだ。



『七ツ河って、スカしててムカつくよね。』

『僕は優等生なんでー、みたいな?』



 雑音が聞こえてくる。



『次のコンクール、3年に差し置いて出るとか無いよね?』

『無いでしょー、人数的に。』



 雑音がどんどん大きくなる。



『でもさ、先生が……──。』



 バタンッ。手入れを素早く終わらせて、ケースを荒っぽく閉めた。


 これ以上は余計な雑音を聞きたくなくて、ヘッドフォンを耳に宛ててiPodの電源を入れる。入っている曲をスクロールして、お気に入りの曲を選び流すと、ベッドに転がった。視界の端に黒革のケースが見えるのが嫌で、目を閉じる。

 軽やかな、心地よい音が跳ねて転がって、耳が快く心地好くなっていく。やはり音楽は良い、気分が軽くなっていくのがわかる。



(高校は、部活どうすっかな……。)



 取り留めもないことを考えながら、意識が揺蕩たゆたうのに身を任せた。



 ***



 鏡の前に立つと、やる気のない表情をしていて真新しい制服が似合ってない男が写っていた。つまり、僕のことだ。成長するはずだからと少し大きめに作られた制服に、着られているような、なんとも言えない気分になった。残念なことに制服はこれしかないので、諦めてこのままいくしかないようだ。



「大和ー、そろそろ出ないと間に合わないわよぉ?」

「わかってるよっ、今行く!」



 母親に呼ばれて玄関に向かえば、両親が揃っている。父親は、父さんは入学式に行けないけど楽しんで来い、と珍しく優しい顔で言うから戸惑って曖昧に返事をした。入学式ってだけで大袈裟な、と思ってしまう自分がどこかにいるのかもしれない。


 外に出ると、清々しいほどに晴れていて逆に憎たらしい程だった。



「───では、2列に並んで!今から体育館で入学式なので騒がないように。」



 高校に着いたら、クラスを確認して母親と別れてから教室で担任やクラスメイトと顔合わせして、と目まぐるしく過ぎていく。そしてこれから、やっと入学式になるらしい。大人しく言われた通りに並んで、体育館に入っていく。


 その時の、BGMが吹奏楽部の演奏だった。曲名は、確か……威風堂々だっただろうか。有名な中間部を演奏している。その中には、つい最近久しぶりに会った二ノ宮先輩も居た。真剣な表情で演奏している姿に、ああ変わらないなぁとぼんやり思う。

 僕の中学時代の吹奏楽部より、やはり高校生はレベルが高かった。ピッチがかなり綺麗に揃ってる、木管楽器のリードミスは聞く限りない、金管楽器の主張しすぎるケンカもない、皆で足並みが揃っているように感じた。

 軽やかな、心地よい音が跳ねて転がって、耳が快く心地好くなっていく。


 甦るのは、過去の記憶。



『七ツ河くんは、上手いけど周りに合わせるのが苦手だね。もっと周りの音を聴いてごらん。』



 僕に足りなかったのは、コレ(・・)だったのかもしれない。


 クラリネットや中音域のパートが奏でるゆったりとした堂々たる主旋律メロディー

 スネアの盛り上がりからのトランペットとフルートに主旋律は移り変わっていく。

 そのメロディーは、力強い低音域のパートの音が支えていて。壮大で優美な音楽が流れていく。


 それは英題の正式名称のように、『壮麗、華麗』であり『儀式張った、物々しい』音楽であった。なぜだか、出来得ることなら永遠に聞いていたいとさえ思う。泣けてきそうなくらいだ。


 僕はそっと、目を閉じて音に身を任せた。

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