第12話 指も笑いも転げ回った日
「『トランペット吹きの休日』か、面白いチョイスじゃん。」
「いいねぇ、じゃあコレ大和くんがトップね!」
「ちょ、別にやりたいとは……まぁいいっスけど。」
運動会などでよく流れている、軽快で軽やかな曲だと思う。これを聞くと運動会の思い出が……うん、考えるのはやめよう。思い浮かんだ内容を振り払うように軽く首を振って、改めて楽譜を見遣る。どの曲にも言えることだが、きちんと3人で綺麗にアンサンブルいかないと美しく聞こえない難しい曲だ。というか、そもそもこの曲は「休日返上」やら「休日出勤」と揶揄されるほどに、忙しいというか大変な曲である。この曲のトップか、更に要求されるレベルは高そうだ。
スコア譜をぱらぱらと捲りながら、そういえば中学生の時も同期とお遊びで吹いていたなぁと思い出していた。愉快な仲間たち、だったなと感傷に浸る。
「さっ、とりあえずコレ練習しよ!満月は2ndね。」
「えぇー、3rdでいいよ?」
「これに関しては、真ん中の方が目立たなくていいでしょ。」
そういうもんかなぁ?と首を傾げる秋葛センパイや二ノ宮センパイは、楽しげであった。とりあえず書き込めるようにパート譜をコピーしに行き、個々人で練習することになった。既に音出しは済ませているので楽譜と向き合うが、改めて見ると音が飛び交っていて大変だなと顔が引き攣る。これは選択を誤ったかもしれない、と思いつつ気合を入れて練習し始めた。
「っだー!何コレ、誰だコレやろうって言ったの!」
「センパイがいいじゃんって言ったんじゃないですか。」
「いやいや、大和くんが選んだんでしょー。」
選んだつもりはないっス、とセンパイ達に言い返しながら手を止める。ちょっと行き詰まったので、休憩しようと楽器の中の唾を捨てて、相棒を抱えたまま椅子に浅く腰かけ背もたれに体重を預けた。
「これ、シングルじゃキツいかもねー。ダブルかなぁ。」
「いやいや、気合いでシングルでしょ。」
「気合論で話されても……。」
センパイ達も行き詰まったのか、曲の話をするという名の休憩が始まる。しかし二ノ宮センパイが、気合論を語るのだがこの人ホント気合論が多い。頑張ればなんとかなる、みたいなのが多いのだ。別に構わないが、こちらを巻き込まないで欲しい。
ふぅ、と暑くなってきたのでセンパイ達に倣ってブレザーを脱ごうかと相棒を隣の椅子に置く。ブレザーを脱いで、ネクタイに手をかけたところで手を止めた。視線を感じたのでそちらを見れば、勢いよくそっぽ向くセンパイ達。よく見ると秋葛センパイは、肩が震えていて笑いを噛み殺しているようだ。
なんなんだ、一体。
「なんなんスか、ホント。」
思った事が、そのまま口をついて出た。女子ってホント分からない。