第11話 からっと晴れた日には
5月初旬のとある日の放課後、音楽室。秋葛センパイは、暑いのかリードを咥えたままブレザーを脱いでいる。ちなみに、二ノ宮センパイは既に脱いでいた。暑がりなのだろうか。とボーッと考えながら、マッピで口慣らししていた。
「ねぇねぇ、なんか目標っていうか、なんか考えない?」
「そうねぇ、ダラダラと基礎練しててもツマラないよね。」
ね?と話を振られたので、イイんじゃないっスかと返す。じゃあ楽譜探してくる、とパタパタと楽譜庫に走り出す二ノ宮センパイ。なら私はネットで探してみるねぇ、とのほほんと言う秋葛センパイ。僕はどうしようかと悩みながら、スマホを取り出そうとすると秋葛センパイに止められた。
「大和くんは、なっちゃんの手伝いしておいでー。」
「……うぃっス。」
秋葛センパイは何だろう、僕に二ノ宮センパイの元へ行くよう指示することが多い気がするんだが。なんというか、うん。歯になにか詰まったような感覚がする。
何だかんだ大騒ぎしつつ吹奏楽部に入部した僕は、センパイ2人に振り回されながら楽器の練習に精を出す日々を送っていた。本当に振り回されるというか、活動のひとつ!とか言ってコンサート見に行ったり休日潰されまくっている気がするが。勉強になっているから、まあいいかと流せるが思い付きであーだこーだ言うのは……まあ嫌いではないからいいのか。
楽譜庫を覗き込むと、二ノ宮センパイの近くに小さな山ができていた。トランペット2本に、クラリネットで、どうやったらこんなに曲が見つかるのだろうか。というか、こんな組み合わせ聞いた事がないと思う。
「──ん?七ツ河、どうした?」
「秋葛センパイにあっち行けって言われマシタ。」
「あー、でもほら、もうだいたい見ちゃった。」
ほら、と言いながら小さな紙の山を持ち上げて見せてくる二ノ宮センパイから、その紙束をひょいと取り上げた。とりあえず秋葛センパイのところに戻るかなー、と思ったら後ろからどつかれた。文字通りどつかれて、転ぶかと思ったが踏ん張る。だって僕も男ですし。
「……ばーか。」
「はぁ、そうっスか。」
「そこ、イチャついてないで戻っといでー。」
ば、ばかぁっ!と叫びながら秋葛センパイに突撃している二ノ宮センパイを横目に見ながら、紙の束を適当に置くと中身を見てみる。中は、トランペット三重奏やクラリネット三重奏がたくさんあった。なるほど、トランペットもクラリネットも、in B♭だから、書き換えする必要もなく吹けるのか。うんうん、と頷いていると秋葛センパイがひょいと僕の持っている譜面を覗き込んできた。
「あー、その辺を持ってきてくれたんだぁ。なっちゃんのオススメあるー?」
「んー、そうねぇ……。とりあえず平等に、トランペット三重奏とクラリネット三重奏の1曲ずつとか?」
「えぇー、みんな平等にトップ吹けるように3曲じゃない?」
わいわいと騒いでいるセンパイ達の横で黙々と何の曲があるか漁っていたが、手が止まる。これは、懐かしいかもしれない。
「七ツ河どうし……あぁ!懐かしいね、コレ!」
「んんー?ああ、有名だよねぇ。」
僕の手には、「トランペット吹きの休日」のスコアが握られていた。