パーフェクトドリーム 理想の世界と現実の社会
本作品は、投稿済の「リアルストーリー」が、決定版です。
そちらをお読みいただければ、と思います。
こちらは削除すればよいのですが、
オリジナルの記録保管と、自戒の意味で、画面上残しております。
様々な理想をリアルにもたらすパーフェクトドリーム。
理想の世界と現実の社会。
近未来架空歴史小説ということになります。
( ) 内が、昭和的な趣味によるネーミングです。
1.斯波史
斯波 史は十六歳だが、すでに将来を誓い合った恋人がいた。彼女の名前は朝香 愛夢、二学年上、十八歳である。
朝香愛夢は、「歴史的」「神秘的」というような最大級の形容詞をつけたくなるほどの美少女である。くっきりした二重の大きな目、さらさらと背中まで伸びた黒髪、華奢ではかなげな立ち姿。
そしてその美は、十八歳となっても、女性が大人になる前の短い期間でしか持ちえない清純なものを保ち続けていた。
性格も優しく穏やかで、いつも微笑みをうかべていた。
俗界に降り立った天上の美少女。それが朝香愛夢であった。
学園の男子生徒はみんな、いや女子生徒もまた朝香愛夢に憧れていた。
季節は初夏。放課後、斯波史は朝香愛夢とともに、制服姿のまま学園からほど近い小高い丘に登り、彼らが住む街を見渡しながら、並んで座った。
史は、愛夢に自分の夢を語った。
夢といっても壮大なものではない。
「僕が好きなのは、歴史と、文学をはじめとする芸術。それから哲学です。僕はそれらを学び続けていく人生を送っていきたいと思っています。学者になりたいのです。でも何か新しい理論や、学説を打ち立てたいという気持ちはないのです。これまでの人間の歴史で多くの偉大な人たちが創造し、遺した作品にふれ、学ぶことによって自らの精神を高めていきたいと思っています。
そして、世界の色々な場所を見て回りたい。そこで色々と感じてみたいと思っています。
愛夢さん、あなたといっしょに」
愛夢はうなづいた。神秘の微笑みとともに。
愛夢とともに歩むこれからの人生。それを思うと、史の心は喜びにふるえた。
が、史と愛夢は永遠に少年と少女のままで、年齢を重ねることはなかった。
2.神光優
甲子園に、天才少年選手が出現した。その名は神光優。兵庫県の愛優夢学園鳴尾高校(大日学院鳴尾)の一年生である。
夏の全国選手権大会兵庫県予選七試合で、投げてはパーフェクト一試合。ノーヒットノーラン三試合を含む全試合完封。
奪三振は、六十三イニングで百三十八個。
一試合平均十九・七個。
打っては、一番打者として三十三打席三十打数二十三安打。打率七割六分七厘。ホームラン八本。
驚異的な記録をひっさげて甲子園に登場した神光優は、開幕式直後の第一試合で、これまた一年生の天才選手、飛鳥優を擁する東京都の愛優夢学園早稲田高校(大日学院早稲田)と対戦した。
この試合で、神光優は究極の記録ともいうべき二十七三振のパーフェクトを成し遂げた。
打っては四打席四打数二安打二ホームラン。
二対ゼロで愛優夢学園早稲田(大日学院早稲田)に勝利した。
飛鳥優も神光優に打たれた二本のホームラン以外は二十七三振。
神光優からもふたつの三振を奪い、神光優の好敵手と称されるに充分な実績を残した。
この大会、愛優夢学園鳴尾高校(大日学院鳴尾)はあとの五試合にも勝利し優勝した。
神光優は投げては、パーフェクト二試合、ノーヒットノーラン二試合を含む全試合完封。
奪三振は、五十四イニングで百十二個。
一試合平均十八・七個。打っては二十八打席二十二打数十八安打。打率八割一分八厘。ホームラン十本であった。
神光優は高校は一年で中退し、プロ野球の世界に飛び込んだ。
神光優は、半宗教的思想団体「愛優夢」(大日会)の会長の次男であったが、この愛優夢が新たにプロ野球チーム「愛優夢ブルー」(大日ゴールデンボールズ)を誕生させた。
フランチャイズは、愛優夢ブルー鳴尾スタジアム。(大日ゴールデンボールズ鳴尾スタジアム)
準フランチャイズは、愛優夢ブルー早稲田スタジアム。(大日ゴールデンボールズ早稲田スタジアム)
神光優と、やはり高校一年で中退した飛鳥優は、ともに新球団愛優夢ブルー(大日ゴールデンボールズ)に入団し、その中心選手となった。神光優の背番号は2。飛鳥優の背番号は4。
新人であったそのシーズン。
神光優の投手記録は、三十六勝無敗。
三百二十四イニングで自責点は八。防御率0.22。
奪三振六百九十四。奪三振率19.3
パーフェクト二回。ノーヒットノーラン八回。
打撃成績は、五百二十七打数二百七十四安打。
打率五割二分。
ホームラン百二十七本。
打点二百九十三。
飛鳥優の投手記録は、三十四勝無敗。
三百六イニングで自責点は十四。防御率0.41。
奪三振六百十二。奪三振率18.0。
パーフェクト二回。ノーヒットノーラン五回。
打撃成績は、五百十打数二百三十九安打。
打率四割六分九厘。
ホームラン百十四。
打点二百五十三。
シーズンの百四十試合を全勝で優勝した愛優夢ブルー(大日ゴールデンボールズ)の日本シリーズの対戦相手は、昨年まで七年連続日本一の鳴尾アークトゥルス(フランチャイズ:鳴尾球場)。(鳴尾レインボー)
今シーズンも通算三百三十六勝の真柴(今シーズン二十三勝五敗)をはじめ、
真木(二十六勝三敗)、
椎名(ニ十一勝六敗)の三人の二十勝投手。
通算七百二十三本のホームラン記録をもつ白鳥(今シーズン三割三分八厘、ホームラン五十二本)。
首位打者を七回獲得している朝比奈(三割五分三厘、三十六本)。
高校卒業三年目二十歳の首位打者となった美馬(三割七分二厘、十八本)。
早稲田大学のエース兼主砲で、大学通算、四十勝六敗。ホームランは、三十四本の、東京六大学の新記録を打ち立てた新人、沢渡(十八勝。三割一分九厘、四十五本)。
強力な投手陣、打撃陣を擁し、百十二勝二十五敗三引き分け、独走で八年連続リーグ優勝を果たした。
日本シリーズ第一戦(於:愛優夢ブルー鳴尾スタジアム)(大日ゴールデンボールズ鳴尾スタジアム)
先発メンバー(年齢はシーズン開始時)
鳴尾アークトゥルス(鳴尾レインボー)
一番 ピッチャー沢渡(敬介) 背番号22 22歳 .319 45本
18勝
二番 レフト 美馬(靖夫) 背番号10 21歳 .372 18本
三番 サード 白鳥(明) 背番号6 35歳 .338 52本
四番 センター朝比奈(稔) 背番号4 37歳 .353 36本
五番 ファースト秋葉(敏治) 背番号8 32歳 .324 34本
六番 ライト 日夏(伸通) 背番号9 25歳 .303 39本
七番 ショート 賀集(正次) 背番号2 25歳 .318 23本
八番 キャッチャー高梨(浩介)背番号5 26歳 .275 41本
九番 セカンド 遊佐(充) 背番号1 31歳 .257 12本
その他のシリーズ出場選手
ピッチャー 真柴(輝幸) 背番号20 33歳 23勝5敗
ピッチャー 真木(久司) 背番号19 19歳 26勝3敗
ピッチャー 椎名(智清) 背番号21 22歳 21勝6敗
ピッチャー 御厨(昌一郎) 背番号18 25歳 12勝5敗
ピッチャー 南雲(泰輔) 背番号14 27歳 9勝5敗
DH 岩倉(正彦) 背番号3 31歳 .258 15本
愛優夢ブルー(大日ゴールデンボールズ)
一番 ピッチャー 神光優 背番号2 16歳
36勝 .520 127本
二番 センター 飛鳥優 背番号4 16歳
34勝 .469 114本
三番 レフト 朝香旅人(多人) 背番号6 16歳
16勝 .372 38本
四番 ライト 秋月槙(牧) 背番号8 16歳
12勝 .336 29本
五番 ファースト 朝比奈光(輝一) 背番号40 18歳
3勝 .312 31本
六番 ショート 朝比奈翼(陽三) 背番号42 16歳
8勝 .326 24本
七番 サード 白鳥翼(忠) 背番号64 16歳
6勝 .297 32本
八番 キャッチャー 朝倉翼(虎三郎) 背番号22 16歳
.272 15本
九番 セカンド 朝比奈翔(昇二) 背番号41 16歳
1勝 .296 12本
その他のシーズン出場選手
ピッチャー 日高純(順) 背番号24 16歳 10勝
ピッチャー 立原美継(実嗣) 背番号26 16歳 7勝
ピッチャー 秋里稜(了) 背番号29 16歳 6勝
ピッチャー兼野手
芦名聖(清) 背番号25 16歳 1勝
.275 8本
野手 結城翔(正) 背番号9 16歳 .308 4本
野手 雨宮歩(鮎太) 背番号20 16歳 .272 2本
野手 椎葉真幸(雅紀) 背番号48 16歳 .291 3本
野手 平沼隼人(速人) 背番号28 16歳 .280 1本
鳴尾アークトゥルス(鳴尾レインボー)をもってしても、神光優、飛鳥優の二人の天才少年選手のいる愛優夢ブルー(大日ゴールデンボールズ)の敵ではなかった。
日本シリーズは、第一戦、第三戦は神光優が、第二戦、第四戦は飛鳥優が完封し、愛優夢ブルー(大日ゴールデンボールズ)が四連勝で日本一になった。
このシリーズで神光優は四本、飛鳥優は六本のホームランを打った。
半宗教的思想団体「愛優夢」(大日会)は、団体をあげて歓喜の祝賀会を挙行した。
そこには会長である神光。
会長夫人 神愛優。
会長の長男、神光聖。
長女、神光愛。
次女、神光夢。
三男、神光翔の姿もあった。
いずれも絶世の美男、美女。美少年、美少女である。
神光優、飛鳥優の野球人生は、その一年で完結した。
「愛優夢」(大日会)もまた、その活動を終えた。
(以下 2024年6月11日記)
鳴尾アークトゥルス
シーズン 111勝22敗3引分
一番 ピッチャー沢渡 颯 背番号11 22歳 .359 57本
17勝
二番 レフト 美馬 背番号10 21歳 .341 12本
三番 サード 白鳥 翔 背番号1 35歳 .338 52本
四番 センター朝比奈 一 背番号17 37歳 .353 31本
五番 ファースト秋葉 背番号3 32歳 .324 34本
六番 ライト 日夏 背番号7 25歳 .295 39本
七番 ショート 賀集 背番号2 25歳 .318 23本
八番 キャッチャー高梨 背番号5 26歳 .275 38本
九番 セカンド 遊佐 背番号6 31歳 .257 12本
その他のシリーズ出場選手
ピッチャー 真柴 背番号18 33歳 20勝3敗
ピッチャー 真木 背番号19 19歳 21勝3敗
ピッチャー 椎名 背番号21 22歳 18勝4敗
ピッチャー 御厨 背番号14 25歳 15勝4敗
ピッチャー 南雲 背番号15 27歳 12勝5敗
DH 岩倉 背番号8 31歳 .258 5本
愛優夢ブルー
シーズン 114勝19敗3引分
交流戦 愛優夢ブルー3勝 ー 鳴尾アークトゥルス3勝
一番 ピッチャー 朝香 旅人 背番号1 18歳
23勝 .376 48本
二番 レフト 秋月 槇 背番号17 18歳
12勝2敗 .326 14本
三番 センター 神 光優 背番号11 18歳
17勝3敗 .339 42本
四番 キャッチャー 飛鳥 優 背番号71 18歳
15勝1敗 .336 19本
五番 サード 朝比奈 光 背番号3 20歳
3勝1敗 .293 35本
六番 ショート 朝比奈 翼 背番号10 18歳
11勝3敗 .316 27本
七番 ライト 白鳥 翼 背番号73 17歳
7勝1敗 .308 16本
八番 ファースト 芦名 聖 背番号5 18歳
1勝 .279 15本
九番 セカンド 朝比奈翔 背番号7 18歳
1勝1敗 .274 12本
その他のシーズン出場選手
ピッチャー 日高 純 背番号18 18歳 9勝2敗
ピッチャー 立原 美継 背番号16 18歳 7勝2敗
ピッチャー 秋里 稜 背番号19 18歳 8勝3敗
野手
朝倉 颯 背番号2 18歳
.275 5本
野手 結城 翔 背番号9 18歳 .291 4本
野手 雨宮 歩 背番号6 18歳 .272 1本
野手 椎葉 真幸 背番号8 18歳 .291 2本
野手 平沼 隼人 背番号4 18歳 .280 1本
日本シリーズ
鳴尾球場
第1戦 愛優夢ブルー 3ー1 鳴尾アークトゥルス
○朝香 ●沢渡
ホームラン 朝香
第2戦 愛優夢ブルー 3ー2 鳴尾アークトゥルス
○神 ●真柴
ホームラン 飛鳥 沢渡
愛優夢鳴尾スタジアム
第3戦 愛優夢ブルー 5ー1 鳴尾アークトゥルス
○飛鳥 ●真木
ホームラン 神 白鳥翔
第4戦 愛優夢ブルー 7ー3 鳴尾アークトゥルス
○秋月、朝比奈翼 ●椎名、御厨、沢渡
朝香
ホームラン 白鳥翼(椎名)、朝比奈一(朝比奈翼)、
朝比奈翼(御厨)、朝香(沢渡)
沢渡 颯
早稲田大学
大学通算 51勝3敗 .403 ホームラン37本
在学中の早稲田大学
1年春 10勝 5勝 7本
1年秋 10勝2敗1引分 7勝 3本
2年春 10勝1敗1引分 6勝 3本
2年秋 10勝3敗 7勝1敗 5本
3年春 10勝1敗1引分 7勝1敗 3本
3年秋 10勝2敗 7勝1敗 4本
4年春 10勝 5勝 7本
4年秋 10勝 7勝 5本
(以上 2024年6月11日記)
(以下 改定版 2025年1月4日、5日記)
年齢はレギュラーシーズン開始時
鳴尾アークトゥルス
シーズン 91勝42敗3引分
七番 ピッチャー沢渡 颯 背番号11 22歳 .267 12本
2敗
二番 レフト 美馬 背番号9 21歳 .341 8本
六番 サード 白鳥 翔 背番号1 35歳 .263 22本
八番 センター朝比奈 一 背番号17 37歳 .253 5本
四番 ファースト秋葉 背番号3 32歳 .324 34本
三番 ライト 日夏 背番号7 25歳 .285 39本
一番 ショート 賀集 背番号2 25歳 .318 23本
五番 キャッチャー高梨 背番号5 26歳 .255 38本
九番 セカンド 遊佐 背番号6 31歳 .257 7本
その他のシリーズ出場選手
ピッチャー 真柴 背番号18 33歳 15勝6敗
ピッチャー 真木 背番号19 19歳 18勝4敗
ピッチャー 椎名 背番号21 22歳 14勝7敗
ピッチャー 御厨 背番号14 25歳 16勝5敗
ピッチャー 南雲 背番号15 27歳 10勝8敗
DH 岩倉 背番号8 31歳 .258 5本
愛優夢ブルー
シーズン 82勝49敗5引分
交流戦 愛優夢ブルー3勝 ー 鳴尾アークトゥルス3勝
七番 ピッチャー 朝香 旅人 背番号1 18歳
3敗 .251 3本
二番 レフト 秋月 槇 背番号17 18歳
8勝4敗 .291 4本
三番 センター 神 光優 背番号11 18歳
6勝8敗 .269 20本
五番 キャッチャー 飛鳥 優 背番号21 18歳
9勝4敗 .280 9本
四番 サード 朝比奈 光 背番号3 20歳
3勝2敗 .272 25本
一番 ショート 朝比奈 翼 背番号10 18歳
6勝4敗 .296 12本
八番 ライト 白鳥 翼 背番号23 17歳
2勝4敗 .218 5本
六番 ファースト 芦名 聖 背番号5 18歳
4勝3敗 .259 7本
九番 セカンド 朝比奈翔 背番号7 18歳
1勝2敗 .254 2本
その他のシーズン出場選手
ピッチャー 日高 純 背番号18 18歳 16勝4敗
ピッチャー 立原 美継 背番号16 18歳 12勝5敗
ピッチャー 秋里 稜 背番号19 18歳 15勝6敗
野手
朝倉 颯 背番号2 18歳
.275 5本
野手 結城 翔 背番号9 18歳 .291 4本
野手 雨宮 歩 背番号6 18歳 .272 1本
野手 椎葉 真幸 背番号8 18歳 .293 2本
野手 平沼 隼人 背番号4 18歳 .287 1本
日本シリーズ
鳴尾球場
第1戦 愛優夢ブルー 2ー1 鳴尾アークトゥルス
○日高 ●真柴
ホームラン 秋葉
第2戦 愛優夢ブルー 4ー2 鳴尾アークトゥルス
○秋里 ●真木
ホームラン 朝比奈光 高梨
愛優夢鳴尾スタジアム
第3戦 愛優夢ブルー 6ー4 鳴尾アークトゥルス
○立原 ●御厨、南雲
ホームラン 結城(南雲) 日夏 賀集
第4戦 愛優夢ブルー 4ー3 鳴尾アークトゥルス
飛鳥、秋月、○朝比奈翼 椎名、●南雲
ホームラン
沢渡 颯
早稲田大学
大学通算 29勝8敗 .295 ホームラン20本
在学中の早稲田大学
1年春 9勝2敗 2位 4勝1敗 2本
1年秋 9勝4敗1引分 1位 5勝2敗 3本
2年春 10勝1敗1引分 1位 6勝 1本
2年秋 10勝3敗 1位 6勝1敗 3本
3年春 10勝1敗1引分 1位 5勝1敗 1本
3年秋 8勝3敗 2位 3勝2敗 4本
4年春 10勝2敗 1位 1敗 4本
4年秋 10勝1敗 1位 2本
(以上 2025年1月4日記)
3.秋月槙(牧)
「アレキサンダー大王の親友で、ペルシャ王の母が・・・」
「ヘファイスティオン」
「ナチスの機関紙・・・」
「フェルキッシャー・ベオバハター」
「ロセッティが見出し、ラファエロ前派の女神と・・・」
「ジェーン」
「谷崎潤一郎の小説「細雪」の四姉妹の名前・・・」
「鶴子、幸子、雪子、妙子」
「相撲で勝ち名乗りを受けた力士が行う手刀は・・・」
「天御中主神、高御産巣日神、神産巣日神」
「ニックネームは王様。野球のメジャーリーグのオールスター・・・」
「カール・ハッベル」
「織田信長の傅役で・・・」
「平手政秀」
「山縣有朋が京都に・・・」
「無鄰菴」
「プロティノスを・・・」
「新プラトン主義」
「聖徳太子が執筆した三経義疏・・・」
「勝鬘経、維摩経、法華経」
ことごとく、秋月槙(牧)が解答した。
数多くあるクイズ番組の中で最も権威のある「クイズマスターズ」。
その中で「クイズマスターの称号をもつ強豪のみを集めた「グランドマスターズ第一回大会」で、特別参加の十六歳の少年が優勝した。
秋月槙(牧)がクイズ番組に出場したのは、そのときだけであった。
4.神王(神ノ花)
大横綱神剣(みつるぎ:本名、神光)(神乃山)の長男、二代目神剣(神光聖じん・みつきよ)(神川)は、中学卒業と同時に大相撲に入門し、初土俵、序ノ口以降全勝を続け、無敗のまま横綱に昇進した。
新入幕以降六場所全勝で迎えた春場所。従弟にあたる、大横綱 桜舞(桜山)の長男早桜舞(はやおうぶ:本名桜早飛(速雄))(小桜)が、中学卒業と同時に大相撲に入門。
前年の全日本選手権で優勝し、幕下付け出しであったが、幕下、十両とも全勝で一場所で通過。新入幕の名古屋場所以降の三場所も全て全勝したが、いずれも優勝決定戦で神剣(神川)に敗れた。
翌年の初場所、プロ野球チーム「愛優夢ブルー」(大日ゴールデンボールズ)に入団していた、大横綱神剣(神乃山)の次男、神光優が神王(神ノ花)と名乗り、三男で中学二年生の神光翔が神翔(神錦)を名乗り、天才少年力士、高校一年生の朝香旅人(多人)が若旅人(若毛野)を名乗り、大相撲に入門した。三人はいずれも幕内付け出しで遇された。
さらに、ともに金髪碧眼の二人の格闘技の天才少年もまた、入門し、やはり幕内付け出しで遇された。四股名は青翔(黒竜)、神優(神ノ洋)。
新たに入門した五人と、神剣(神川)、早桜舞(小桜)は、
横綱の芙蓉峯、獅子王。(白根山、獅子吼岩)
大関の北斗王、安曇野、高千穂。(北都王、信濃川、韓国岳)
関脇の飛鳥王、萌黄野。(若飛燕、印南野)
小結の雪桜、月桜 (雪錦、月錦)
などの強豪力士に勝利し、いずれも全勝した。
七人の力士による優勝決定戦。
身長 体重
神剣 18歳 192 138 (神川)
早桜舞 16歳 192 145 (小桜)
神王 15歳 194 120 (神ノ花)
神翔 13歳 194 126 (神錦)
若旅人 16歳 196 134 (若毛野)
青翔 17歳 198 138 (黒竜)
神優 16歳 195 152 (神ノ洋)
勝利 敗北
神王 神翔 (神ノ花 神錦)
若旅人 早桜舞 (若毛野 小桜)
青翔 神優 (黒竜 神ノ洋)
神王 神剣 (神ノ花 神川)
若旅人 青翔 (若毛野 黒竜)
若旅人 神王 (若毛野 神ノ花)
優勝 若旅人 (若毛野)
その場所を最後に七人は相撲界から去った。
(以下 2024年6月10日記、一部2024年6月11日記)
神剣(みつるぎ 神 光) 191cm 137kg 優勝17回 全勝7回
桜舞 191cm 153kg 優勝19回 全勝5回
獅子王 195cm 173kg 優勝23回 全勝5回
芙蓉峰 191cm 153kg 優勝26回 全勝7回
若旅人(わかたびと 村里 歩) 197cm 126kg
優勝17回 全勝11回
青翔 197cm 137kg 優勝11回 全勝7回
神剣(みつるぎ 神 光聖 かみ こうせい) 191cm 131kg
優勝7回 全勝3回
神王(しんおう 神 光優 かみ みゆ) 193cm 117kg
優勝3回 全勝3回
神翔(しんしょう 神 光翔 かみ みと) 193cm 127kg
優勝11回 全勝5回
早桜舞(はやおうぶ 桜 早飛 さくら はやと) 191cm 145kg
優勝1回 全勝1回
神優 195cm 151kg 優勝3回 全勝1回
神剣(みつるぎ 神 光) 191cm 137kg 優勝17回 全勝7回
桜舞 191cm 153kg 優勝19回 全勝5回
獅子王 195cm 173kg 優勝23回 全勝5回
芙蓉峰 191cm 153kg 優勝19回 全勝7回
14勝1敗(青翔) 14勝1敗(青翔) 12勝3敗(神翔、若旅人、青翔) 13勝2敗(神剣、青翔) 14勝1敗(神王) 15勝
(82勝8敗)
13勝 14勝 13勝 13勝 12勝 12勝(最終年77勝13敗)
若旅人1ー0芙蓉峰
青翔 4ー0芙蓉峰
若旅人(わかたびと 村里 歩) 197cm 126kg
1月生まれ
優勝1回 全勝1回 7勝 15勝 15勝(19歳4ヶ月) 通算37勝(幕内通算15勝) 若旅人1ー0青翔
青翔 197cm 137kg
7月生まれ
優勝3回 全勝3回
7勝 7勝 7勝 7勝 15勝 15勝(19歳6ヶ月) 15勝(大関昇進 19歳9ヶ月) 14勝1敗 15勝(20歳) 横綱昇進(20歳1ヶ月)
通算102勝1敗(幕内通算59勝1敗)
神剣(みつるぎ 神 光聖 かみ こうせい) 191cm 131kg
1月生まれ
優勝2回 全勝2回
11勝 15勝(初優勝 20歳2ヶ月) 大関昇進(20歳3ヶ月)
11勝 9勝 13勝 11勝(70勝20敗)
12勝 13勝 12勝 14勝 横綱昇進(21歳7ヶ月) 13勝 14勝(78勝12敗)
13勝 14勝 15勝 15勝 15勝 15勝(最終年87勝3敗)
神剣8ー15芙蓉峰 優勝決定戦を含めると 神剣8ー16芙蓉峰
神王(しんおう 神 光優 かみ みゆ) 193cm 117kg
3月生まれ
優勝3回 全勝3回
6勝1敗(青翔) 6勝1敗(青翔) 6勝1敗(青翔) 7勝 7勝
6勝1敗(若旅人) 13勝2敗(若旅人) 11勝4敗(若旅人、青翔、芙蓉峰) 11勝4敗(青翔、芙蓉峰) 11勝4敗 13勝2敗(芙蓉峰)
15勝 14勝 15勝 14勝 15勝 14勝(最終年87勝3敗)
(幕内通算133勝17敗)
若旅人3ー0神王(幕内1ー0)
青翔5ー0神王(幕内2ー0)
神王3ー0神翔(全て優勝決定戦)
神王2ー0神剣(全て優勝決定戦)
神王7ー3芙蓉峰 優勝決定戦を含めると 神王7ー4芙蓉峰
●●○●○○(●)○○○○
神翔(しんしょう 神 光翔 かみ みと) 193cm 127kg
3月生まれ
優勝1回 全勝1回
7勝 5勝2敗 7勝 5勝2敗
7勝 3勝4敗 7勝(十両昇進 16歳3ヶ月) 11勝4敗 7勝8敗 13勝2敗(幕内昇進 16歳9ヶ月)
11勝4敗 11勝4敗 7勝8敗 11勝4敗(関脇昇進 17歳5ヶ月) 7勝8敗(小結 17歳7ヶ月) 13勝2敗
15勝 14勝 13勝 14勝 15勝 15勝(最終年86勝4敗)
(幕内通算146勝34敗)
神翔1ー0神剣(優勝決定戦)
神翔4ー6芙蓉峰
○●●●○●●●○○
初場所 優勝決定戦
神王○ 神翔●
神王初優勝
神王(19歳10ヶ月)、神翔(17歳10ヶ月)大関昇進
春場所 優勝決定戦
神王○ 神翔●
芙蓉峰○ 神剣●
芙蓉峰○ 神王●
芙蓉峰19回目の優勝
夏場所 優勝決定戦
神王○ 神剣●
神王 2回目の優勝
神王(20歳2ヶ月) 横綱昇進
名古屋場所
神剣 2回目の優勝
神翔(18歳4ヶ月) 横綱昇進
秋場所 優勝決定戦
神王○ 神翔●
神王○ 神剣●
神王3回目の優勝
九州場所 優勝決定戦
神翔○ 神剣(22歳10ヶ月)●
神翔 初優勝
早桜舞(はやおうぶ 桜 早飛 さくら はやと) 191cm 145kg
神優 195cm 151kg
(以上 2024年6月10日記、一部2024年6月11日記)
(以下 改定版 2025年1月4日、27〜29日記)
神剣(みつるぎ 神 光) 190cm 138kg 優勝16回 全勝6回
桜舞 191cm 156kg 優勝18回 全勝5回
獅子王 195cm 174kg 優勝23回 全勝5回
芙蓉峰 192cm 154kg 優勝20回 全勝6回
15勝 14勝1敗(青翔) 13勝2敗(青翔、神剣) 14勝1敗 14勝1敗 14勝1敗
(84勝6敗)
13勝 13勝 13勝 14勝 13勝 13勝(最終年79勝11敗)
若旅人0ー1芙蓉峰
青翔 2ー2芙蓉峰(優勝決定戦を含めると 青翔2ー4芙蓉峰)
若旅人(わかたびと 村里 歩) 188cm 126kg
1月生まれ
7勝 15勝 12勝3敗(19歳4ヶ月)
通算34勝3敗(幕内通算12勝3敗) 若旅人0ー1青翔
若旅人0ー1 芙蓉峰
若旅人1ー0 神剣
若旅人2ー1 神王(幕内 若旅人0ー1 神王)
若旅人1 ー0 神翔
青翔 196cm 142kg
大関
7月生まれ
7勝 7勝 7勝 7勝 14勝1敗 14勝1敗(芙蓉峰)(19歳6ヶ月) 14勝1敗(神剣) 14勝1敗(神翔)大関昇進(19歳11ヶ月) 14勝1敗(芙蓉峰)
通算98勝5敗(幕内通算56勝4敗) その他優勝決定戦3敗
青翔 3ー1 神剣(優勝決定戦 青翔0ー1 神剣 )
青翔 4ー1 神翔(幕内 青翔3ー1 神翔)
青翔 2ー0 神王
神剣(みつるぎ 神 光聖 かみ こうせい) 189cm 134kg
1月生まれ
優勝3回
11勝 13勝(初優勝 20歳2ヶ月) 大関昇進(20歳3ヶ月)
11勝 9勝 13勝 11勝(68勝22敗)
12勝 13勝 14勝 横綱昇進(21歳5ヶ月) 11勝 12勝 14勝(76勝14敗)
12勝 13勝 14勝 13勝 14勝 14勝(最終年80勝10敗)
神剣6ー17芙蓉峰(優勝決定戦を含めると 神剣6ー18芙蓉峰)
神王(しんおう 神 光優 かみ みゆ) 188cm 120kg
3月生まれ
6勝1敗(青翔) 6勝1敗(青翔) 6勝1敗(青翔) 7勝 7勝
6勝1敗(若旅人) 13勝2敗(若旅人) 12勝3敗(青翔、芙蓉峰) 11勝4敗(芙蓉峰、青翔) 11勝4敗(芙蓉峰) 13勝2敗(芙蓉峰)(47勝13敗)
14勝 13勝 14勝 13勝 14勝 12勝(最終年80勝10敗)
(幕内通算127勝23敗)
若旅人2ー1神王(幕内 若旅人0ー1 神王)
青翔5ー0神王(幕内2ー0)
神王0ー3神翔(全て優勝決定戦)
神王0ー2神剣(全て優勝決定戦)
神王0ー10芙蓉峰 (優勝決定戦を含めると 神王0ー11芙蓉峰)
●●●●●●(●)●●●●
神翔(しんしょう 神 光翔 かみ みと) 187cm 128kg
3月生まれ
優勝2回
7勝 5勝2敗 7勝 5勝2敗
7勝 3勝4敗 7勝(十両昇進 16歳3ヶ月) 11勝4敗 7勝8敗 13勝2敗(幕内昇進 16歳9ヶ月)
10勝5敗 12勝3敗 7勝8敗 11勝4敗(関脇昇進 17歳5ヶ月) 7勝8敗(小結 17歳7ヶ月) 13勝2敗(60勝30敗)
14勝 13勝 11勝 13勝 14勝 14勝(最終年79勝11敗)
(幕内通算139勝41敗)
神翔1ー1神剣(優勝決定戦)
神翔3ー7芙蓉峰( 優勝決定戦を含めると 神翔3ー8 芙蓉峰)
●●●●○●(●)●●○○
初場所 優勝決定戦
神王● 神翔○
神翔初優勝
神王(19歳10ヶ月)、神翔(17歳10ヶ月)大関昇進
春場所 優勝決定戦
神王● 神翔○
芙蓉峰○ 神剣●
芙蓉峰○ 神翔●
芙蓉峰19回目の優勝
夏場所 優勝決定戦
神王● 神剣○
神剣 2回目の優勝
神王(20歳2ヶ月) 横綱昇進
名古屋場所
芙蓉峰 20回目の優勝
秋場所 優勝決定戦
神王● 神翔○
神翔● 神剣○
神剣○ 神王●
神剣3回目の優勝
神翔(18歳6ヶ月)横綱昇進
九州場所 優勝決定戦
神翔○ 神剣(22歳10ヶ月)●
神翔 2回目の優勝
早桜舞(はやおうぶ 桜 早飛 さくら はやと) 190cm 149kg
関脇
神優 194cm 158kg 関脇
(以上 2025年1月4日、27〜29日記)
5.エルサーナ(チャガタイ)
アルーサ(突厥)の王子、十六歳のエルサーナ(チャガタイ)は、愛する白馬エターナル(ナイスケイチャ)に跨り、
国王である父エルラス(キプタヌイ)、四歳上の兄エルラシオン(オゴタイ)とともに十八万騎の軍団の先頭に立った。
かなたには五十万の大軍の先頭に立つ帝国ラグーン(ホアキン)の皇太子、十八歳のラサリオン(イワン)の姿があった。ラサリオン(イワン)とエルサーナ(チャガタイ)は、その容姿の美。その頭脳の天才。その性格の完全さにより同時代人から半神的な目で見られていた。そのふたりが初めて会いまみえた。
が、同時代人が半神と見ていたもうひとりの人物、天上世界を現世に顕現させる十六歳の少年ユーム(パウロ)が、ふたりの中間にその姿を現した。
ユームの元にラサリオン(イワン)とエルサーナ(チャガタイ)が近づき、三人は至近の距離でお互いを視た。三人が微笑み、そこに光とともに、ユーム(パウロ)が顕現させていた世界よりさらに高次の天上世界が顕現した。
その場に終結したひとびとだけでなく、世界中のひとびとが、完全なる歓喜につつまれ、至高の美をみた。
永遠に等しい一瞬ののち、天上世界は消滅し、同時にエルサーナ(チャガタイ)とラサリオン(イワン)とユーム(パウロ)もひとびとの視覚と記憶から消えた。
「昨日と同じ、今日と明日」
義雄は、ヘッドホンをはずした。そのヘッドホンは現実世界と何ら変わることのない仮想世界を、使用者の脳にもたらすシステムツール「パーフェクトドリーム」につながっていた。
久しぶりにほぼ半日を「パーフェクトドリーム」がもたらす仮想世界での観念遊戯に費やした。
「パーフェクトドリーム」が誕生して、すでに相当な年数が経過したが、近年の「パーフェクトドリーム」の進化はすさまじい。
その仮想世界に登場させるキャラクターは、使用者の希望の精緻な部分までも具現化し、時に使用者自身も気づいていない理想像をもシステム自身が生み出すようになった。
今日、義雄は、最近特に時間をかけて詳細な背景世界を作り上げ、お気に入りとなっていた五つの仮想世界で、思うさま遊んだ。
義雄は、中学卒業をもって、「パーフェクトドリーム」を使うことはやめようと決心していたからである。
「今日が最後」の決意のもと、義雄は、最後を飾るにふさわしいと自分が思う、五つの理想世界で遊んだのであった。
思想団体の会長家族の名前と、天才兄弟力士の名前が重なったな、と思ったが、ずっと、そのままにしてきたのだから、仕方がない。
クイズの天才のキャラクターのときの、問題はなんだったのだろう。
たしかに義雄が興味を持っているジャンルからの出題ばかりだったが、現実の義雄には全く分からなかった。
「パーフェクトドリーム」でのキャラクターとストーリーの詳細設定の中で、クイズの天才少年が並み居る強豪を打ち破って勝利するのにふさわしい問題とインプットしたら、ああいう問題だった。しかも、そこまで聞けば正解が推測できるポイントで答えるというご丁寧さだ。
「あれでは、僕自身のクイズの力量アップにはあらないな」と義雄は思った。
そして、朝香愛夢と無敗の天才力士たち。理想の美少女と理想の力士。最高のものにふれると、その感動に義雄の胸は高鳴る。
だが、その感情は一時のもので充分だ。書物はいう「ドラマッチクなものを求める心を抑えよ」
と。
最高のもの、理想にふれたあと。
現実の世界はいとおしく、万象に対しやさしい気持ちになる。
それは義雄が何度か味わってきた感情だ。
義雄は翌日の自分の予定を思い浮かべ、ひとり微笑んだ。
浜甲子園団地の中にあるアパートの三階が義雄の自宅である。
季節は三月。土曜日の早朝、義雄は自宅を出て、阪神鳴尾駅に向かった。
駅での待ち合わせの相手である道子は、同じアパートの五階に住んでいる。しばらく歩き、見通しのよい道路に出ると、百メートル程先を歩く道子の背中が見えた。
義雄も十分前には駅に着くようにアパートを出ている。
「うーむ」義雄はうなった。
「やっぱり道子さんはいいなあ」
駅に着くころに追いつけるよう、歩くペースをやや速めた。
駅に向かう途中で、道子が後ろを歩く義雄に気が付き、軽く手をふって、義雄が追いつくのを待った。
「おはようございます」
「おはよう、義雄君」
義雄は先日、中学校を卒業した。
道子は高校一年生。
道子が一学年上だが、義雄が三月生まれなのに対して、道子は六月生まれなので、ほとんど二歳の年齢差がある。
二人が付き合っているのは、近所に住む幼馴染であることとともに、共通の趣味を持っていることによる。
「あっ、道子さん、今まで見たことのないブラウスを着ていますね」
「うん、先週、出屋敷の古着屋さんで買ったの。八百五十円よ。」
「へえ。もしかして、今日、僕とデートだからですか」
「そういうことにしておくわ。似合っているかしら」
「はい、とっても。素敵です」
「ありがとう。義雄君もそのオーバーとセーター、素敵よ」
「ごっつぁんです」
今日の義雄の装いは、道子も何度か見ているはずだが、道子に素敵と言われれば、嬉しい。
電車の窓から、臨海部の緑に囲まれた工場群を眺めていると各駅停車の電車は尼崎駅に着いた。尼崎で急行に乗り換え、梅田に到着。義雄にとっては、久しぶりの大阪だ。
梅田から地下鉄に乗り難波駅で降りた。
地上にあがってしばらく歩き、ふたりは目的地である大阪府立体育館に着いた。
建物は相当に古いが、体育館としては堂々たる大きさである。
体育館で開催されているのは、大相撲の春場所。今日は十四日目である。
ふたりは、二百円出してそれぞれ自由席の当日券を買い、館内に入った。
館内全体でもお客さんは、まだ十名に満たない。土俵にもまだ誰もいない。取組開始までまだ十五分ある。
折角、当日券を買って相撲を見るのだから、一番最初から全部見ましょう。と数日前に義雄と道子はふたりでそう決めた。二百円で朝の九時から夕方の六時まで楽しめるのだから、結構なことである。
相撲に興味を持ち始めた幼稚園の時から、義雄は春場所開催中、毎年二回か三回は相撲を見物する。
幼いころは家族で来ていたが、二年前からは、道子とふたりで見にくることが多い。
ふたりの周りの親しい人の中に、彼らと同等のレベルで相撲が好きで、相撲に詳しい人物はいない。
相撲は、自分と同じレベルで、好きで詳しい人と一緒に見るのが一番楽しい、というのは、これまでの経験から、義雄が実感していることである。
過去に別の男友達と二回、ふたりで見に来たことがあったが、一回は、相手が退屈しているのを感じて、何かと気を使った。
もう一回は、色々と質問してくるので、そのことは嬉しかったから、義雄は丁寧に答えたが、土俵の取り組みに集中できなかった。
自由席は客席の一番上の数列だが、ふたりは一番前の桟敷席に陣取った。今日は土曜日だから満員御礼の垂れ幕が下がるだろうが、客席が埋まってくる幕下の取り組みの途中辺りまでは、桟敷席で見続けることができるであろうことは、これまでの経験で分かっていた。
ふたりが、家から持ってきた水筒に入れていた熱いお茶を飲んで体を温めていると、土俵の上の照明がともり、呼び出しが拍子木を合わせて鳴らす析の音が館内に響き渡った。
先ずは、まだ番付に載っていない今場所が初土俵の力士の取り組みである。
春場所は学校の卒業の季節なので、一年六場所の内、最も入門する力士の多い場所だが、十四日目ともなれば、大半の力士は既に、来場所序ノ口に四股名が載るのに必要なだけの勝ち星をあげ、出世を果たしており、以降は、今場所はもう登場しない。
土俵下には、東西ふたりずつが立っている。五十八人入門した今場所で、最後に残された四人ということになる。
だが、彼らの表情にさほどの悲壮感はうかがえない。相撲部屋は、稽古はかなり厳しく、番付順による序列も守られているが、年齢が上の力士であれば、関取でなくてもそれなりに敬意を払われるし、色々な雑用もみんなで分担している。
男社会だが、部屋の雰囲気は、学生たちの合宿所に似た雰囲気のようだ。序列としては、部屋の力士の中で最も下になる新弟子であっても、毎日は結構楽しそうだ。
二十世紀の終盤、ソビエト連邦をはじめとする社会主義国家の崩壊により、冷戦時代は終わった。
世界史的にみれば、戦争の時代であった二十世紀に対して、来るべき二十一世紀は平和の時代になる。当時そのように予想し、未来に希望をもったひとは多かったであろう。
だがそうはならなかった。二十一世紀になっても世界は混迷を続け、国家による、あるいは企業による大競争社会となっていったのである。
日本もまた、世界経済の渦の中に巻き込まれていった。ひとびとは、人生の様々な場面で、否応なしに競争に加わらざるをえない。
勝ち組、負け組という言葉が生まれ、かつては一億総中流社会と言われていた日本は、格差社会となっていき、その格差は広がっていった。
連日残業を続け、休日もほとんどなく働き続ける会社員。
上流社会の一員となることを目指し、過酷な受験勉強を続ける学生。
一方、競争社会から脱落していく多くのひとびと。
学校内に蔓延するイジメ。緊張を要する人間関係。
「もっと住みやすい世の中にすることはできないのか」
それは多くのひとの心の中にある叫びであったろう。
しかし、その社会は一方で、活気に満ち溢れ、日々興奮に包まれ、ますます便利になっていく様々なものに囲まれた社会でもある。
今のこの社会以外にどんな社会がありえるのか。その時代に生きるひとびとにとって、別の社会を想像することは難しかった。
2020年代。
別のありえる社会を示すひとびとが世にあらわれた。
最初の人がだれであったのか、を特定することはできないが、別のありえる社会を唱えるひとの数は増えていき。社会に対し、徐々に影響力を持ち始めた。
彼らの主張の一部を列挙すると、次のようになる。
・世界経済から離脱した一国完結経済体制の樹立(経済に限定した鎖国主義)
・上記を実現するための食糧自給率100%、原子力にもよらないエネルギー自給率100%の達成
・上記を達成するための、第一次産業従事者の会社型組織化。脱石油エネルギー社会を実現させるまでの期間分の原油の備蓄
・時代の最先端技術を求めることは継続しつつも、それを実現化させる分野の限定
・ひとびとが生きていくうえで本当に必要な職業はなにか。その峻別と、余剰職業の段階的縮小による国民全体の総仕事量の軽減
・エコ社会の実現。社会全体の物量の抑制
・私有物の削減
そしてこのような社会を実現させるためには、ひとびとに望まれる資質として
・穏やかであること
・和を尊ぶこと
・創造よりも伝統、古典を重んじること
・勝利に大きな価値を求めないこと
・家族、地域を愛すること
・年長者に対する敬意をもつこと
・ドラマチックなものを求める心を抑制し、日常を愛すること
といった点をあげた。
またこのような社会であっても
・勤勉であること
・自らの職業に対する責任感をもつこと
は、不可欠であり、それがなくなれば、怠惰に流れ、単に退嬰的なだけの社会になる危険を秘めた主張であるということも述べられた。
隠れた主張としては、
ひとびとの中に生来的にある、自己実現、創造性、競争における勝利、理想を追求してやまない心などは、進化を続けるIT技術がもたらすバリエーションに富んだ仮想現実社会にて実現させることが奨励された。
ひらたくいえば
「現実の世の中に疲れたら、退屈したら、仮想現実社会の中で、思うままにふるまって、すっきりさせる。それからまた現実社会に戻って、穏やかに過ごしてください」
ということである。
社会にこの主張の支持者が徐々に増加していった。
穏やかな社会の実現を求める。その主張に共感、賛同するひとびとは、やがて政党を作った。その政党の名前は「保守平和党」
いくどかの総選挙を経て、保守平和党が第一党となり、政権を担うことになったのは、今の世の中を「住みにくい」と感じるひとびとが「住みやすい」と感じるひとよりも、多くなっていたことによるであろう。
保守平和党が使っていた標語で最も有名になったのは、
「昨日と同じ、今日と明日」
であった。