キャラクタークリエイト
初めての投稿となります。
よろしくお願いします。
その世界には、たくさんの『獣』たちが暮らしていました。
彼等は、とても穏やかな世界で、平和に暮らしていました。
そんな、ある日のこと。
この世界に、一人の『悪魔』がやってきました。
『悪魔』は、穏やかに暮らしていた『獣』たちにささやきました。
「ねえ、もっとおいしいものを食べたくない?」
「もっと、素敵なものが欲しくない?」
「もっと、もっと、いろんなものを―――君たちは望むべきだ」
『悪魔』は、『獣』たちに『欲望』を吹き込みました。
他のモノよりも、もっと、もっと、もっともっともっともっと――――
「さあ、そのために『進化』しよう。君たちの未来を選び取れ。そうすれば君たちはもっと、素敵なものになれる」
その世界の神様は驚きました。
穏やかに暮らしていた『獣』たちは、すっかりと姿を変えて互いに争うようになってしまったのです。
全ては、あの『悪魔』のせいで。
《……ですので、どうかお願いです。あの忌まわしい『進化の悪魔』を倒してください》
いかにも神々しい雰囲気を纏った女性が、長々と語っていた物語もひと段落したようです。
正直スキップしても良かったと思いますが、女性の物語と合わせるように流れてきた自然や動物、そして幻想的な映像美には一見の価値がありましたね。
意識をデータとして仮想世界に送り込むダイブ型VRゲームがこの世に生まれて既に半世紀以上。世界には星の数ほどのVRゲームが広まっていました。
これはその中の一つ。
かつて1世紀近く前に存在したという多人数による同時接続型RPGをベースとして、多くのプレイヤーが同時にその世界を体感できるように調整された、VRMMORPGという種類のゲームです。
タイトルは『Beast Eden Online』と言います。BEOと略されることも多いそうですね。
《それでは、まずこの世界で暮らすための体を作ります。基礎データを端末からロードしますか?》
所謂、キャラクターデータの作成というやつですね。
基礎データというのは、このゲームを動かしているウェアラブル端末に保管された、現実での僕の情報のことだそうです。
身長、体重などの外見的要素に、各種健康診断結果、体力測定記録、果ては学校の成績まで保管されていて、多くのVRゲームではこの基礎データを使ってキャラクターを作るようになっているという事です。
ちなみにこのゲームは少し変わっていて、基礎データを一切使わずに設定することが出来るようになっているそうですが、かなりの手間がかかるとのことです。
面倒くさいのでさっさと基礎データで作ってもらいましょう。「YES」……っと。
《データロード中……ベースアバターを作成しました。よろしければ、『確認』ボタンを押してください》
目の前に出てきたのは、現実の僕を少々デフォルメしたような姿のアバターです。
この状態からさらにいろいろ設定を触れるようですが、このゲームはこの後の設定の方が重要ということですので、ここはそのままでも良いでしょう。『確認』……っと。
《あなたに適性のある種族を抽出します…………完了しました》
僕とアバターの間にスクリーンが浮かび、そこに3種類の選択肢が出現しました。
『リザードマン』
『デュラハン』
『デーモン』
このゲーム、『Beast Eden Online』は少々変わったキャッチフレーズが特徴のVRMMOです。
『もう一人の自分を選び取れ』
VRゲームでは一般的に、意識と感覚のずれを極力少なくするため、基礎データから大幅にデータを弄ることが出来ないようになっているものが多いと言われています。
ですが、このゲームはあえてその逆――基礎データからかけ離れたアバターを作ることを特徴としているそうなのです。
なんでそんなことになったのかの詳しい話は正直覚えていないのですが、確か開発者の方が妖怪とか怪物が好きだったとかいう話をしていたような気がします。
「性別や体格が現実とかけ離れたものにできる、というのは少々面白そうですよね。まあ、代わりにそもそも人間という種族が存在しないという訳の分からないゲームなんですが……まあ、そこは置いておきましょう。珠樹姉さんの薦めてくるゲームですからその程度は覚悟しませんとね」
唯一の救いは、四足歩行のようにあからさまに動きの違うものが「なるべく」排除される、といったところですか。よちよち歩きから始めろとは流石に言えませんでしょう。
ただし、あくまでも「なるべく」なので、動きが違うものが「無い」わけではないあたりが嫌らしいところです。まあ、好き好んで選ぶ人もいないでしょう。
さて、それでは適性があるという三種を確認してみましょう。
まず『リザードマン』は……蜥蜴というより恐竜と言った方がいい気がしますね。直立歩行の恐竜がボディビルディングを重ねたような姿とでも言いましょうか。
全身を鱗で覆われた体格の良いパワーファイターと説明があります。アバターの身長は2mを大きく超えるほどに大きくなり、筋骨隆々な体躯は非常に頼もしく感じます。蜥蜴そのものの顔もなかなか格好いいですね。
次に『デュラハン』……首なし騎士をモチーフにされた怪物のようですが、どう考えても防御部位に問題のありそうな体のライン丸わかりな鎧を纏い、小脇に自分の頭を抱えて――うん。これはなしですね。だいたい僕に女装の趣味はありません。却下。
最後に『デーモン』……ぷかぷか浮かんでいる女の子……っていうかまた女装ですか。しかもほぼ全裸に近い趣味の悪いコスプレにしか見えません。こうしたゲームには少なくない数こういった趣向の衣装があるとは聞きますが、個人的にあまり好みません。そもそも自分で着るとか怖気が走ります。却下です却下。
ええと、結局のところ『リザードマン』しかまともなものがないじゃありませんか。『鬼』とか『ウェアウルフ』とかあると聞いてたんですが……
《種族の再抽選を行いますか?》
おや、再度選べるのですか。
うーん……『デュラハン』や『デーモン』は正直気に入りませんが、『リザードマン』は悪くありません。
再抽選してこれより良いものが来るのかと問われると、悩ましいところです。
よし。このままで行きましょう。僕が深く悩んだところで碌な目にあったことがないですからね。
説明書では『種族』も条件次第で変更できると書いていますし、まあ、何とかなるでしょう。
『リザードマン』を選択すると、アバターはすぐさま蜥蜴の姿へと変わります。僕自身はもともと身長もあまり高くないので、こんな大柄な視点は非常に斬新です。
《『リザードマン』が選択されたため、初期ステータスが決定されました》
《次に、基礎スキルを選択してください》
目の前に取得できるスキルの一覧が表示されます。これは事前にある程度決めていましたから、手早くとってしまいましょう。
【ナックル】【シュート】【気配察知】
一緒に始める二人とあらかじめ役割は相談済みです。僕の役割は完全な前衛兼斥候ですから、これで最初はどうにかしましょう。
《種族『リザードマン』によりスキル【鱗装甲Ⅰ】を取得します》
《基礎データよりスキル【スラッシュⅠ】を取得します》
おや? 何かスキルが追加されましたね。
そういえば基礎データを使ってVRゲームのアバターを作る際に、記録されている情報から自分の特徴をゲームに反映させるシステムがあると聞いたことがあります。基礎データを使わなくてもいいとか言っているくせに、このゲームでもそのシステムがあるとは意外ですね。
《取得スキルに種族特性による変更が加えられます》
《【ナックル】が【スケイルナックルⅠ】に変化します》
《【シュート】が【ヘヴィシュートⅠ】に変化します》
《【気配察知】が【直感Ⅰ】に変化します》
あれ、微妙に記載が変わってしまいました。まあ、要は殴ったり蹴ったりできればいいだけの話ですので細かい事はいいでしょう。
正直、それほど詳しくもないので聞いてもわかりませんし。
そういうわけで、このような形になりました。
アバター シン
種族 リザードマン
レベル 1
職業 なし
HP 568
MP 0
STR 35
VIT 35
AGI 20
MAG 10
LUC 0
スキル
【スラッシュⅠ】【スケイルナックルⅠ】【ヘヴィシュートⅠ】【直感Ⅰ】【鱗装甲Ⅰ】
基準がよくわかりませんが、説明書きを見る限り上から体力、魔法力、攻撃力、防御力、素早さ、魔力、運……まあ、多ければいいんでしょこういうのって?
強いて言えばやたらとHPが多いですねこの蜥蜴の身体。まあこの図体なら納得といったところでしょうか。
ですが、MPはまだしもLUCが0とはこれ如何に……?
《スキル【スラッシュⅠ】を取得しました。初期装備を変更できます》
ステータスの不備(?)に首を傾げていたところに、装備についてのメニューが開きます。
初期装備
右手武器:ショートソード → 斬馬刀(劣)
左手武器:バックラー → なし
どうやら片手剣と盾の代わりに両手剣を選択できるようです。
折角体の大きなリザードマンなのです。ここは景気よく両手武器を振り回すのも面白いかもしれません。是非とも変更しましょう。
変更してみると、不意に背中に重さを感じます。
突如として背中に出現したのは、無骨な拵えの幅広の刀でした。背の高いリザードマンでさえ背負わなければまともに持ち歩けないような長さです。
大きな武器はいいですね。男の浪漫という奴でしょうか。
《初期出現位置を設定します。種族固有スタートと市街スタートのどちらかを選択してください》
む、いけません。浪漫に二ヤついていたら次の選択肢が出現していました。
ええとこれは……どうするんでしたっけ? よくわからないのでデフォルトになっている種族固有の方を選んでおきましょう。
……珠樹姉さん何か言ってましたっけ……? いけません。よく覚えていませんでした。ま、種族固有という事は他にもリザードマンを選んだ人がいるかもしれませんしね。何とかなるでしょう。
さて、初期ステータスについて少々言いたいことはあったのですが、目の前の神々しい女性――通称女神様――は結局のところ只のAIです。
文句を言いたければ運営にメールしてくださいという事を物語調に言われてしまいました。ご丁寧に視覚ジャックの上通報手順チュートリアルまでついてきました。
「折角教えてもらいましたからダメもとで連絡して……と。それじゃ女神様。お手数おかけしました。」
《では、シン。貴方の行く先に光あらんことを》
テンプレのような台詞とともに、視界が一気に漂白されます。
強い光に思わず目をつぶり、開くとそこはすでに異世界となっていました。
「これはまた……綺麗なところですねえ」
目の前に広がるのは、澄んだ水を滾々とたたえた大きな湖でした。
見回してみると、鬱蒼とした森を抜けた先に広がる湖のほとり、というのがこの場所のシチュエーションのようです。
「……さて、長閑でとてもよい場所なのですが、人っ子一人としていません……か」
困りました。
せめて他にどなたかおられたのであれば、人の沢山いそうな場所に向かえたでしょうに。
……はい。普通に考えれば、市街スタートの方を選ぶべきですよね? 僕は何をとち狂っていたのでしょうか。
これ、ひょっとしなくても、最初の選択を間違えましたという奴でしょうか?
どうしましょう……
読んでいただきありがとうございました。