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worms  作者: 宮沢弘
第四章: コンソーシアム
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4−2: 開発者たち

 どこから知ったのだろう。すくなくとも黒田(くろだ) (あゆむ) も情報処理研究所も、この短かい期間の間に伝えたことも、公にしたこともなかった。

 だが、 yorm の作者と、 xarm の作者から連絡が入った。それぞれの開発者チームのメンバーの連名で、すくなくとも情報処理研究所が、そしてできるなら黒田 歩が牽引しない限り、 worm の仕様を尊重する理由はなく、尊重するつもりもないと文部省に伝えたということだった。

 ありがたい援軍ではあった。だが、それが功を奏するかは別の問題だった。

 これもまた、どこから知ったのだろう。すくなくとも情報処理研究所が、そしてできるなら黒田 歩が worm を牽引しない限り、日本においてはブラウザの新しいバージョンが動作しないようにすると文部省に伝えたと、ブラウザを作っている会社から連絡が入った。それは、本来秘密である情報を伝えているからということでもあったのかもしれない。だが、それが功を奏するかは別の問題だった。とくに官庁においては、その会社のブラウザを使っていないはずだった。ブラウザに関する秘密を得ることができる関係にある。そういう意図が伝わるかはわからなかった。

 それらに文部省がどう対応したのかはわからなかった。返信すらしなかったかもしれなかった。

 だが、文部省のホーム・ページに、黒田 歩と情報処理研究所からの依頼により、 worm の開発およびメンテナンスの権利が、その天下り教官に委譲されたというニュースが公開された。

 yorm の開発者からも、 xarm の開発者からも、ブラウザの開発会社からも、「黒田と情報処理研究所からの依頼により」という点が事実かと問われた。「そんな覚えはない」と、黒田も情報処理研究所も答えた。

 yorm の開発者も、 xarm の開発者も、そしてそれぞれの開発者チームも、そしてブラウザの開発チームも、全員の連名で声明をネット・ニュースとメーリング・リストに公開した。同じ内容を文部省にもメールで改めて送ったとのことでもあった。天下り教官にも送ったということだった。その声明には、「意味をなす回答が得られないなら、 worm の暗黒面も明らかにした文書を公開する」ともあった。そして、「それらは委譲された教官の責任になる」とも。

 念のためにと、その文書の草稿も送られて来た。 yorm の作者と xarm の作者が共著となった文書で、 “Making Black Worms” というタイトルになっていた。その文書では、 perl で worm の実行系を構築する方法が書かれていた。そのこと自体は、適切な選択ではあると思えた。サーバ・サイドのJavascript 実行系の存在に依存せず、どこにでもインストールされている perl を使っていたため、あらゆる拡張という点では yorm の方が有利だったかもしれない。

 だが、問題は別のところにあった。それらは worm の実行系を作る指針というだけではなかった。 worm を作るツール・キットも含まれてはいた。しかし、そのツール・キットは、ただ worm の実行系を作るためのものではなかった。考えられる様々な拡張が、コメント・アウトされてはいたものの、記述されていた。まさに、様々な拡張の可能性が示されていた。そこには、もちろん、危険な拡張も含まれていた。

 それらの暗黒面は黒田も情報処理研究所のチームのメンバーも承知していたものだった。何回も検討を重ねた問題だった。

 作る人は、その文書があろうとなかろうと Black Worm を作るだろう。しかし、この文書は、その敷居を下げるだろう。

 黒田と情報処理研究所は、公開を待ってくれるよう連絡した。できる限り、文部省と天下り教員とこちらで交渉するとも連絡した。

 だが、交渉は遅々として進まなかった。「あちらに聞いてください」であるとか、「決まったことですから」とか、定型の返信が文部省からも天下り教官からも返ってくるだけだった。

 そうしたやりとりを通して、やっと情報処理研究所には見えて来たことがあった。それは黒田にも伝えられた。

 つまり、「業績のない天下り教官に業績を付けるため」というものだった。その前提で状況を眺めると、天下り教官が民間に声をかけている様子が見えて来た。そしてそれは、天下りという一段を通しての、文部省と大学との予算配分の話や、民間との癒着を示唆していた。


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