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worms  作者: 宮沢弘
第二章: 開発-2
10/25

2−5: Leibniz ユーザー・ミーティング

 そして夏になった。もう何ヶ月かで、黒田(くろだ) (あゆむ) が一人で始めた worm についての作業は一年になろうとしていた。

 歩が通う大学のある土地でLeibnizのユーザー・ミーティングが開催されることになった。すくなくとも東海地方を範囲とするものであり、そこそこの規模は見込まれるものだった。もちろん、Leibnizのユーザー数からすれば、一般的な見方としては大規模とは言えないとしても。

 その主催者はαテストからの参加者であり、直接メールでの誘いだった。理由の半分は、歩の webページにある過去の端末に関しての記載からであり、もう一つは worm だった。

 誘ってもらった時、歩は考えた。歩自身は、Leibnizを購入したいとは思っていたものの高価であることもあり、持ってはいなかった。ただユーザの話を聞き、実物を見るだけでも楽しそうであったし、誘いの文面にもそれでかまわないとあった。だが、インターネットの今後の可能性についての話をともあった。それは、wormについて話して欲しいという意味だと歩は判断した。

 Leibnizそのものにはネットに接続する機能はない。カードとカプラによって接続はできることはできた。ただ、できるということと、その話題がミーティングに即しているかとは別の問題であるようにも思えた。もちろん、Leibnizユーザであればパソコン通信を行なっているだろうし、場合によればインターネットへの接続環境も持っているかもしれなかった。だとしても、Leibniz ユーザー・ミーティングという趣旨から外れてしまうことに変わりはなかった。

 Leibnizそのものではなく、PCが小型化し、あるいはLeibnizが高機能化し、インターネットへの接続環境を持ち歩けるようになることは想像できたし、それは——一般的ではないとしても——存在していないわけでもなかった。携帯電話は効果だったが、PHSがその役割には——通信料金を無視すれば——充分だった。だが、どこまで現実的な話として受け取られるかにも疑問があった。

 Leibnizユーザは、Leibnizを特別なものと見ている傾向があることは知っていた。同時にLeibnizの未来を見通している人がいることも知っていた。

「だとしたら……」

 つまり携帯できる端末がPCそのもの、あるいはそれ以上のものでありうること、Leibnizの思想は生き残るものの、それは別のものになるかもしれないと示せればいいのかもしれなかった。

 歩は、先頃ネットを介して譲ってもらったRefalloを取り出した。それは、PCそのものがすくなくともここまで小さくなることを示すものであり、またカードによって機能の拡張が——それ自体はLeibnizでも可能だった——可能であることを示すものであり、PCそのものであることから通信が、とくに無線での通信が広がる可能性を示すために適当なものであるように思えた。ただ一点、Leibnizではないことを除けば。

 問題は、wormの探索結果の画面をどうやってOHPシートに移すかという点だった。研究室にPSプリンタはあったが、ワークステーションのスクリーン・ショットをどうにかしてPSに変換する必要があった。だが、それは可能だろうし、だとしたらOHPシートの構成をどうするかの方が問題だと思えた。

 OHPシートの構成は、いつもどおりLaTeχを使って書くことにした。その際に問題がなかったわけでもなかった。LaTeχにスクリーン・ショットを入れるならば、PSではなくEPSにする必要があった。なんとかツールを調べ、それが可能になり、持って行くOHPシートはできた。


 そして当日、歩が登壇する順番が周って来た。

「Leibnizから話題がずれてしまうのが申し分けないのですが。現在情報処理研究所で次期ネットワーク基盤の規格が検討されています。それによって直接の恩恵を受けるのは、まだ限られた人になるとは思いますが。その一部としてこういうものの規格も検討されているという紹介を。とは言え正確には次期ネットワーク基盤の一部ではないのですが、こういうものによる通信量も検討に入っているという紹介です。ただ、これ自体は次期ネットワーク基盤に先行して情報処理研究所が共有サービスを始める予定です」

 歩は15分間、wormについての概要を話した。参加者の反応は悪くないように思えた。Refalloを示したこともよかったようだった。歩が示したRefalloを、そのままLeibnizに、あるいはLeibniz以後に現われるだろう機器に置き換えて、理解してもらえたようだった。それには歩が持ち出したPHSも一役買っていたようだった。PHSはデジタル回線を持つ一種のコンピュータであるという説明もよかったのかもしれない。安価な通信で、いずれはインターネットにそのまま接続できる機器が登場するだろうという歩の予想そのものが受け入れられたかというと、参加者は半信半疑だったかもしれない。だが、可能性はあると考えてもらえたようだった。

「その形状はどうなると思ってますか?」

 質問があった。

「おそらく、Leibnizと同じようなものではないかと思います」

 それは嘘だった。Refalloを見ればわかるように、すくなくともLeibnizよりも小さいだろうと歩は予想していた。だが、現状の足枷となっているバッテリーを考えると、そうは言えなかったし、なによりLeibnizに華を持たせる必要があるように思えたからだった。

「というと、Refalloのリングにつけるキーボードのようなものではなく、Leibnizのタッチパネルのような?」

「あぁ。その点は間違いないでしょう。外付けのキーボードはやはり存在するだろうと思いますが、メインはタッチパネルではないかと思います」

 それは嘘ではなかった。スクリーンの大きさと筐体の大きさを適切に保つためには、それしか方法はないと考えていた。

「手書き文字の認識は?」

「そこはどうなるか…… スクリーンがそれなりに大きく、またタッチパネルの方式にもよりますが、ソフトウェア・キーボードが搭載されるかもしれません。使用感としては、Refalloでもいいのですが、あるいはHB100を想像してもらうと、似ているものになるかもしれません。ただし、基本ハードウェア・キーボードはないという前提でですが」

「すべて音声コマンドになるという可能性は? Abbleのアシスタントやナビゲーターではけっこう音声コマンドで済ましていますよね?」

 この質問に答えるのには注意が必要だった。歩の研究も直接ではないものの、それを範囲に含んでいた。Leibnizの後に現われる機器において、いつごろそれが可能になるだろうか。すくなくとも現在のLeibnizの直系の後継機において、それが実装されることは困難であるように思えた。

「2,000年を超えた頃か、2,010年を超えた頃なら可能性は無視できないと思います。最初は限定された範囲になるだろうと思いますが」

「けっこう先だなぁ」

 その一言に、会場は笑いに包まれた。

「たしかにまだ先ですが。音声コマンドが広く使われるようになっても、あるいはならなくても、スクリーン上で直接操作する入力手段がなくなることはないと思います。現在タッチを感知できるのは一点のみですが、これが複数になるのはそれほど先ではないと思います。そうなれば、スクリーン上での操作によって画面の拡大縮小など、音声コマンドよりも直感的に行なえるようになると思います。そういう理由もあって、直接操作がなくなることがあったとしても、それはかなり先ではないかと思います」

 それはただの歩の想像ではなかった。bid誌に掲載された研究でもあった。

 歩は会場を見渡した。

「では、私からはこれくらいということで。もしβテストに興味があり、環境を構築できるという方がいましたら、ご連絡いただければ」

 歩が一礼すると、拍手が響いた。


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