領都ミッドエスト
田舎のバス停のような、簡素な長椅子だけが置かれた待合室。
バス停と違うのは屋内であること。
壁の上の方に明かり取りの小窓がいくつかあるが窓はない。
出入り口は入ってきた所と奥へ向かう扉の2つ。
まだ夕暮れには十分早い昼下がり、俺たちは領都ミッドエストに着いた。
領都ミッドエストは城塞都市だ。高さ3メートルぐらいの石造りの壁がぐるりと街の周囲を囲っている。
総延長を考えると結構な労力だったろうな、などと思ってしまう。
街の人口は公称5万人らしいが、門の警備はそんなに厳しくない。
入街手続きも身分証の提示か入街料の支払いだけ。門番の兵士も4人と、規模の割には少ない気がする。
領主の政策なのか単に危機管理が緩いのか。
そんな訳で、事前に心配していた身分証を持っていない件については、入街料として銀貨1枚を払うだけであっさり済んだ。
素性や出身を聞かれたら面倒だと思っていたが、俺の気にしすぎたのだったのだろうか?
単にこの街の警備が緩い可能性もあるが。まあ、結果オーライと言うことにしておこう。
入街の手続きの際、ついでに盗賊討伐の申告を行った。
いまは盗賊に賞金が掛かっていなかったかの調査を待っているところだ。
賞金が掛かっていれば通常の討伐報奨に加え賞金が出るらしい。
10分ほどで手続きをしていた門番の兵士が戻ってきた。
残念ながら賞金首はいなかったらしい。
6人分の討伐報奨として銀貨6枚を受け取ったが、これが多いのか少ないのかは判らない。
まだこの世界での相場がわからないからな。
1人頭がこの街の入街料と同じと言うことは、少なくとも割りの良い額ではなさそうだ。
なお、盗賊は生きたまま捕らえれば犯罪奴隷となり、奴隷としての売却額の半分が報酬として支払われるそうだ。
奴隷制度。
地球でもほんの100年ほど前までは普通に奴隷制度があったわけだし、中世で止まっているこの世界ではあっても不思議じゃない。むしろ異世界もののラノベでは定番とも言える。
個人的には小説や映画など物語の中でしか奴隷を知らないので奴隷制度そのものには特に思うところは無い。奴隷狩りのような理不尽な理由で奴隷になったのなら憤慨もするかもしれないが、犯罪奴隷であれば刑罰のひとつとしか感じない。
今のところ積極的に奴隷をどうこうしようとは思わないが。
待合室から馬車へと戻り、アレンとカレンと3人で銀貨2枚ずつ分配する。
基本的に盗賊の討伐報酬はまるまる護衛の取り分とすることが多く、今回のようなケースでは助けに入って窮地を救った俺が総取りしてもおかしくは無いらしいのだが、なんとなく独り占めするのが気が引けた。
そこで本来の護衛であるアレンと、親を殺されたカレンへの見舞いを兼ねて3等分することにしたのだ。
アレンに変わった奴を見る目で見られたが、自己満足なので気にしないことにする。
アレンはジェイムズ氏が仕入れや行商の旅に出るたびに護衛についていて、そこそこ長い付き合いだったらしい。
その関係でカレンとも知らない仲ではないそうで、このままジェイムズ氏の家まで付き添うそうだ。
「ケンイチはこれからどうするんだ?」
馬車の準備が出来たところでアレンが聞いてくる。
「思ったより早く着いたので宿を探して冒険者ギルドにでも行ってみようかと思います」
「そうか。良ければジェイムスさんの家まで一緒に行かないか?助けてもらった礼もあるし、その後でギルドにも案内するぞ」
「あぁ、いや。陰気なのは苦手なのでここで別れましょう。また会うことがあったら飯でも奢ってください」
着いて行っても良かったのだが、なんとなく避けた方が良いような予感がしたので断っておく。
こう言うときは直感に従っておいた方が良い気がするのだ。
アレンに冒険者ギルドの場所だけ聞いて別れる。
二人の乗った場所を見送ってから門を抜けると、街を横断するように敷かれた石畳の大通りが続いている。
大通りには人も多く、領都と言うだけあってそれなりの都会のようだ。
多いといっても、前世で住んでいた街の駅前の通りと同じか少ない程度であり、さらにはテレビで見た東京や大阪の人通りに比べればかなり見劣りする。
通り沿いには煉瓦造りの家が多く、中世ヨーロッパと聞いて思い浮かべるような街並みだ。
イタリアやエストニアの観光地のような異国情緒を感じる。
実際に行ったことは無いのでテレビや映画で見たイメージだけだし、そもそも異国どころか異世界なわけだが。
まだ陽はあるとは言え、土地勘の無い場所であまりゆっくりするべきではないだろう。
俺は屋台や露店を冷やかしながら、冒険者ギルドへと向かった。
ちょっと短いです。
もしかした後で加筆修正するかも。