街へ
馬車は森を抜けて草原を西に進む。
行く先にあるのは最寄の街であり、この馬車の元々の目的地でもあるミッドエスト。
フォルテン王国の南部、ミッドエスト辺境伯領の領都である。
目立った産物は無いが、複数の交易路が交差する交通の要所の街として栄えているそうだ。
馬車の持ち主である商人ジェイムズ氏の本拠地もあるらしい。
残念ながら本人は盗賊に襲われ物言わぬ躯となっている。今は同じく躯となった護衛の2人と共に荷台に横たわっている。
御者はジェイムズ氏の護衛の生き残りのアレンがしている。冒険者だ。
ジェイムズ氏の遺体の傍にはもう1人の生き残りであるジェイムズ氏の娘のカレンが座っている。
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名前:カレン
年齢:10歳
種族:人族
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ほんの数時間前に父親を亡くしたばかり。
少し落ち着いてきたようだが、まだ啜り泣きを続けている。
カレンを見るともなく眺めながら、これからのことを考える。
街に着いたら、テンプレ的にはまずは冒険者登録かな。
ジェイムズ氏が生きていれば色々と話も出来たんだが、残念ながら助けに入った時にはすでに殺されていた。
娘は助けることが出来たが、この先どうなることやら。少なくとも当てには出来ないだろう。
その前に入街手続きがあるか。
身分証とか無くても入れるパターンだろうか?
素性とか聞かれると、困りはしないが説明に困るな。正直に転移だの転生だの言っても信じてもらえないだろうし。
幸いこの世界は魔法がある。
転移魔法の暴走か何かで遠くの国から飛ばされたことにでもしてしまうか?
魔法はまだアイテムボックス魔法の異空間収納しか身に着けていないが。
異空間収納魔法は属性的には時空魔法となっている。まだ覚えてはいないが時空魔法には空間系魔法の定番、転移魔法もあるだろう、きっと。あると良いな。あって欲しいな。
つらつら考え事そしていると泣き疲れたのか、いつの間にかカレンは眠ってしまっていた。
起こさないようにそっと御者台の方へ移動する。
ついでなのでアレンも鑑定してみる。
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名前:アレン
年齢:22歳
種族:人族
状態:普通
称号:Cランク冒険者
スキル:剣術(2) 長剣術(2) 見切り(1) 気配察知(1)
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Cランク冒険者か。
Cランクが凄いのかどうか今の俺にはわからないが、盗賊3人を相手に凌いでいたのだから、剣の腕はスキルレベル以上にありそうな気がする。
「この辺りは盗賊が多いんですか?」
「いや、この辺りは領都のお膝元だからめったに盗賊はいない。ハズだったんだがな」
「今回は違ったと」
「ああ。盗賊が出たこと自体は、珍しくはあるけどおかしくはないんだ。だが普通、6名程度の少人数の盗賊は護衛のいる馬車や商隊には近づかないんだ」
「そうなんですか?」
「抵抗されたら割に合わないからな。しかも今回は交渉もなしに襲い掛かってきたんだ」
「物騒ですね」
「最初から皆殺し前提で襲うこともなくはないんだがな。しかし・・・」
そう言うとアレンは考え込んでしまった。
深入りすると面倒に巻き込まれそうなので話題を変えることにする。
「ところで、俺身分証持ってないんですが、街に入れますかね?」
「ん?犯罪とかを犯してなければ、入場料を払えば入れるが、ケンイチはどこから来たんだ?」
「ニホンって判りますか?」
「いや、聞いたことないな。どこにあるんだ?」
「やっぱりそうですか。俺にも判りません」
「どう言うことだ?」
「事故か罠かは判りませんが、遺跡の調査中に転移魔法のようなもので飛ばされてしまった様なんです。」
「転移魔法?話には聞くが、おとぎ話だぜ?」
転移魔法はおとぎ話レベルなのか。いっその事ど田舎から出て来たことにでもしておいた方が良かったか?
まあ、言ってしまったものは仕方ない。今回はこのまま押し通そう。
「俺も実際に経験するまでは信じてませんでしたよ」
「ま、そりゃそうか」
「俺も国にいたときはフォルテン王国なんて国名、聞いたこともなかったですからね。かなり遠くに転移させられたみたいです。」
「そうか。確かに黒髪に黒目ってのはこの辺りじゃ珍しいからな。で、これからどうするんだ?」
「考え中です。旅をしながら帰る方法を探すか、あきらめてどこかに定住するか。どちらしろ、まずはお金を稼がないと」
帰る方法を探すなんて言ってるが、実際は探すつもりなんてない。
俺は地球で死んで、女神によってこの世界に転生(転移)させられた存在だ。
帰る方法など無いだろうし、あっても戻りたいほどの未練もない。単なる片思いで告白もしないまま死んだしな。
「そうか。なら冒険者にならないか?」
「冒険者?」
アレンのステータスで見たからあるのは知っているが、初めて聞いたふうを装って聞いてみる。
「冒険者ギルドに登録することで、色んな仕事を請け負える」
「アレンさんみたいな護衛とかですか?」
「護衛も依頼の1つだな。他にも色んな依頼がある」
「例えばどんなのが?」
「薬草採取や配達といった雑用から魔物討伐まで色々だな」
「なるほど」
「それに、ほとんどの国にギルドの支部があるから、旅をしながら稼ぐことも出来るし、ギルドカードがあれば身分証にもなる。旅が楽になるぞ」
「それは便利そうですね」
「盗賊を倒す腕前を見たが、ケンイチなら十分やれるはずだ」
「ありがとうございます」
その後も、雑談がてら周辺の地理や文化について教えてもらいながら街へと向かった。
太陽が西へ傾き始めた頃、遠くに街の城壁が見えてきた。
やっと街へ。
書きたい場面までなかなかたどり着けない…