女神がチートくれるってよ
「はじめまして、上条賢一さん。リムルアースの創造神、リムルネイトです。」
長い銀髪。美しい東欧系の顔立ちにややたれ目気味のサファイアブルーの瞳。白を基調として金糸銀糸で装飾された神官服の様な衣装。
スカウトの土地神に呼び出されて現れたのは見た目17~18歳、女神と言うよりは妖精と言った方が似合いそうな美少女だ。
「は、はじめまして。よろしくお願いします」
スカウトの土地神の女神も黒髪で綺麗な美人のお姉さんだけど、いま現れたリムルネイトと名乗る創造神はまさに女神様と言う美しさだ。緊張する。
彼女にするなら黒髪の女性が良いとずっと思っていたけど、格が違う。さすが創造神、これが神格の差か。
あ、土地神の視線がちょっと厳しくなった気がする。考えるのやめよう。
「賢一さん、タキヒメからはどこまで聞いてますか?」
「タキヒメってのは土地神、さまのことで良いのかな?」
スカウトの女神である土地神はタキヒメと言うらしい。確か地元でそこそこ有名な神社で祀ってる神様の名前がタキヒメだったような気がする。
「ちょっとだけ人より凄い力があるから異世界へ行ってみないかって感じの説明だけですね」
「そうですか・・・」
リムルネイト様が微笑みながらタキヒメを見ているがなぜか怖い。タキヒメは澄まし顔でお茶を飲んでるが、うん、触らぬ神に祟りなし。ツッコミは入れないぞ。
「では、あらためて私から説明させてもらいますね。私が管理するリムルアースは地球に比べると比較的新しい世界で、地球をモデルに構築しているので大まかには地球と似たような世界です。」
リムルネイト様の説明によると、地球との違いは人種の種族の数が多く、エルフとかドワーフ、獣人といったファンタジーで定番の種族が居るらしい。
あとは魔法。序盤での人類の生存圏の拡大を早めるために魔法を導入したのは良いけど、魔法が便利すぎて地球で言う中世辺りの文明で発展が停滞しているらしい。
地球でも文明の発展が停滞した暗黒時代と呼ばれる時代が1000年ほどあったと言われているが、リムルアースではすでに4000年ほど目立った変化が無いのだとか。
まあ、これには魔法の便利さだけでなく魔物の存在も影響しているそうだ。魔物か。ドラゴンとかいるのかな?
「リムルアースで何かやらなきゃいけないこととかありますか?魔王を倒せとか」
「いえ、特にはありませんよ。魔王と呼ばれる存在もいるにはいますが、倒さなければ世界が破滅すると言うような存在ではありませんし」
「一応いるんですね、魔王」
「倒しても良いですし、放置してもかまいませんよ。賢一さん自身が魔王になっても良いですし」
「そ、それはちょっと」
「停滞気味の世界にちょっと刺激を与えたいと言うのが今回の転生の目的なので特に何か使命がある訳ではありません。寿命まで好きに生きていただいて大丈夫ですよ。」
好きに生きて良いし魔王になっても良いとか、どんだけフリーシナリオなんだ。
野望と書いて夢と読ませる感じか?さすがに魔王になる気は無いが。
「えっと、転生ってことは子供、赤ちゃんからやり直しですか?」
「お好きな方を選べますよ。赤ちゃんから生まれなおすのと、今のまま転移するのと。転移と言っても既に死んでますので向こうの世界での肉体を新しく創りなおすことになるので実質転生ですが」
「それぞれのメリットとデメリットは?」
「転移の場合は、記憶に加えて現在のスキルを持ったまま転移できます。肉体を再構築する際に今持っている能力をスキルに変換する形になります。
赤ちゃんからやり直す場合は、引き継げるのは記憶のみとなります。スキルなどはイチから取得して鍛え直す必要があります。魂の力はそのままなので成長率は高くなりますから、同じ15歳になった時点で比べれば赤ちゃんからやり直したほうが強くなれる可能性は高いですよ。
むろん15年間の修行を怠れば今より弱くなる可能性もありますけど。」
今のままでもそこそこやれる自信はあるが、赤ちゃんからやり直してさらなる強さを目指すのもアリと言えばアリか。
しかし、スキルか。ゲームっぽいシステムだが、ラノベの影響でも受けてるんだろうか?
「異世界転生に付き物のチートは貰えないんですか?」
「チートと呼べるかは判りませんが、転生特典として翻訳スキルの異世界言語と創造神の加護をお付けしましょう。転移を選ぶ場合は新しい肉体に服などの初期装備品もお付けしますよ」
未来から来た液体金属製の殺戮アンドロイドじゃあるまいし、異世界に裸で放り出されても困るので服は普通に付けて欲しいぞ。むしろ服以外の初期装備品がちゃんとしてるのかが気になる。
「異世界言語は定番だとして、創造神の加護ってどんなのですか?」
「すべてのステータスが2割増しになります。種族固有スキルを除く全てのスキルが取得可能で、取得のしやすさと習熟速度にも2割の補正が付きます。すべてが2割り増しですよ。」
「魔法も?」
「全属性の魔法が使えて習得スピードも熟練スピードも2割アップです」
リムルネイト様がドヤ顔で言う。ドヤ顔も可愛い。けどそれって、
「凄いけど、それって器用びんぼ・・・いえ、何でもありません」
器用貧乏って言いかけたとたんリムルネイト様の笑顔が怖い笑顔になったのであわてて口をつぐむ。
しかし、創造神の加護で全スキルを取得できるらしいが、どんなスキルがあるのかもわからないし、転生してから取得方法を探して修行するのは正直面倒くさい。
「えっと、できればもう少し判りやすい、例えば鑑定とかアイテムボックスみたいなスキルは無いんでしょうか?」
「ありますよ。多くは無いですが、スキルを所有している者はそれなりにいます。どちらも1000人に1人ぐらいですね。」
「くっ それも1000人に1人。1000人に1人繋がりで最初から鑑定とアイテムボックスのスキルを付けてもらうことは出来ませんか?」
1000人に1人のスキルを2つ持ってたらそれはすでに1000人に1人ではないのだが、そこは敢えて触れずに頼んでみる。しかし、1000人に1人って基準、リムルネイト様の趣味なんだろうか?
リムルネイト様は少し考えたあと、
「では、転移を選んだ場合は肉体を再構築する際に鑑定とアイテムボックスを付けておきましょう。赤ちゃんからやり直す場合にはスキルの取得方法を記憶としてプレゼントしましょう」
やった、創造神の加護で俺TUEEEEEするにはかなり修行が必要そうだが、鑑定とアイテムボックスがあれば楽に生きては行けそうだ。
「ありがとうございます!あと、出来ればなんですが、背を今より少し高くしてもらうことは出来ますか?せめてリムルアースの人の平均程度に・・・」
俺的にはこれが本題だ。ぶっちゃけ、スキルだの魔法だのは努力で何とかなる。努力で何とかなるなら神頼みするべきは努力でカバー出来ない範囲。ズバリ身長だっ!
「では、創造神の加護で身体の成長率にも補正が付くようにしておきましょう。転移後すぐは今と同じ身長ですが、成長率に補正を加えて数年でそれなりの身長になるようにしておきましょう。ところで、生まれ直しではなく転移でよろしいのですか?」
「はい、転移でお願いします」
「わかりました。では転移で賢一さんをリムルアースへとご招待しますね」
正直、背が低いことで軽く見られることが多く、舐められない様にするために武術の修行に打ち込んだ面もある。
なので新しく赤ん坊から生まれ直して今と同じように修行を続けられるかと言うとちょっと自信が無い。身体的なコンプレックスが無ければ今生のようには修行に身が入らないような気がするのだ。正直言って面倒くさい。
今でも武術の腕には多少の自信があるし、成長補正で人並みの体格になれるのなら十分だ。
「他に聞いておきたいことはありますか?」
「リムルアースに俺以外の転生者はいますか?」
「過去には何名かいましたが今は賢一さんだけですね。条件に合う方で、なおかつ転生に同意してくれる方はなかなか少ないのです。」
1000人に1人なら日本だけでも12万人、全世界でなら結構な人数がいそうな気はするが、スカウトしてる神様はそんなに多くないのかもしれない。
まさかスカウトがタキヒメだけってことは無いだろうけど。
「リムルアースにリムルネイト様以外の神様はいますか?」
「リムルアース世界の管理を担当する神は私を含めて8柱。創造神である私が主神であり代表ですね。その他、世界の管理には携わってないけれど神格を有している存在が約40柱ほどいますよ。」
「意外と多いんですね」
「地球の神ほどではないと思いますよ」
「特に日本なんて八百万もいるしね」
今まで空気と化していたタキヒメが急に合いの手を入れてきた。
そりゃ日本の八百万の神々に比べたらな。そう言えばギリシャ神話でもざっくり100柱ぐらいはいた気がするし、そう考えると総数で50柱ほどは少ない方か。
「さて、そろそろ転生に移りたいと思いますが、他に希望や質問などはありますか?」
「いえ、大丈夫です。」
本当はもっと色々聞きたかったが、つい遠慮して大丈夫とか言ってしまった。ま、いいか。
「私はもう会うことは無いと思うけど達者でね」
タキヒメが手を振りながら言う。
「タキヒメ様も、ありがとうございました。リムルネイト様、よろしくお願いします」
「はい。それでは、良い旅を」
女神様の言葉とともに身体が光に包まれ、視界が白く染まると同時に身体が浮遊感に捉われた。
やっと異世界へ