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女神からのスカウト

目を覚ますと、天井はなくどこまでも青い空が広がっていた。


なんでや?


拳銃の様なもので撃たれて意識を失ったはずなのだが、どうみてもここは病院ではなさそうだ。

そもそも青空が広がっている時点で屋内ですらないのだが。


身体に意識を向けてみるが、痛みや違和感はない。


もしかして死んだのか?


体を起こし辺りを伺う。

白い部屋とでも言えば良いのだろうか。壁がないので部屋というのも違う気がするが、空は相変わらず青空が広がっているのに辺りは一面真っ白。なのに屋内に居るような感覚という不思議な空間。

そこに俺は居た。


「目が覚めましたか?」


背後からの声に振り返ると、女神がいた。

いや、女神かどうかはわからないが、女神のような美しい女性だ。長い黒髪に切れ長の黒い瞳が印象的な、巫女装束に似た和装の文句なしの美女だ。


「ど、どちらさまでしょうか?」

「ふふ、神様です。女神でも間違いではないですよ。」


女神と名乗る美女は微笑みながら答える。


「まずは、こちらへどうぞ。少しお話しましょう。上条賢一さん。」


そう言うと女神は手招きをする。

気づくといつの間にか女神の足元が畳に変わり、卓袱台まで現れていた。


いろいろ考えることや思うことがあるはずなのだが俺の頭は思考を停止していた。


並外れた読書量による知識と大人ぶった言動で友人やネットのチャット仲間には年齢詐称少年とか中の人は30代とか言われているが、俺はまだ15歳。不思議空間と女神の雰囲気に当てられて思考停止してもおかしくない。

もちろん中の人など居ない。


招かれるまま卓袱台の傍に移動し腰を下ろす。


「さて、何からお話しましょうか。そうですね、上条賢一さん、あなたは死にました。」


何から話そうかという割には迷いなく死亡宣告をぶち込んできた。

そうか、やっぱり俺は死んだのか。


「そうですか。ここは、死後の世界というやつですか?」

「意外に冷静ですね。普通はもっと取り乱すものなのですが。ここは私の神域です。現世と死後の世界の間のようなところだと思ってください。あ、お茶どうぞ」


この不思議空間は女神の神域らしい。

どこからとも無く卓袱台の上にお茶の入った湯のみが現れる。神域と言うか、やっぱり不思議空間だな、うん。


「なるほど。ところで、俺が死んだ後どうなりました?」


お茶を啜りながら、ふと気になって聞いてみた。山本泉美は無事なのか。あの不良はどうなったのか。


「山本泉美さんは無事ですよ。」

「不良は?」

「彼は死にました。」

「死んだ?」


あの不良も死んだのか。あのあとで周りの野次馬どもに袋叩きにでもされたか、それとも捕まって死刑にでもなったのかと思ったが違ったらしい。


「ええ、賢一さんの投げたナイフが彼に命中して、それが元で死にました」

「俺が、いや僕が、殺したんですか?」

「俺でかまいませんよ。ええ、見事な腕前でした」


そういって女神はにっこりと微笑んだ。笑顔で殺人の腕を褒められてもちょっと怖いぞ。


結果を見ることなく意識を失ったので実感はないが、俺が不良を殺したらしい。まあ、それは良い。悪党に生きる資格はないし、何より俺も殺されてるしな。と言うことは相討ちか。


しかし、子供のころ忍者に憧れて手裏剣の修行をしたのは無駄ではなかったようだ。

たくさん齧った武術の中の1つ、手裏剣術。アニメや時代劇によく出てくる十字手裏剣ではなく、クナイや五寸釘を投げる実戦的な棒手裏剣だ。ナイフ投げとの相性も良い。


「賢一さんは多才ですよね。現代の日本では役に立たなそうなものばかりですけど」


この女神、優しげな雰囲気なのにツッコミがキツイな。なぜか左胸が痛む。撃たれた痕がまだ治ってないのだろうか?


「そう言えば、あの不良なんで拳銃なんて持ってたんです?」

「彼は暴力団組員の息子で、親の目を盗んで家から持ち出したようですね。以前、街中で泉美さんをナンパして袖にされたので脅して言うことをきかせようとしてたみたいです」

「なんと言う考えなしのはた迷惑な」

「彼も死にましたし、拳銃を隠し持ってたことで彼の親も逮捕され、所属していた組にも捜査がはいりましたからね」

「お礼参りの心配はなさそうか。まあ、俺はもう死んでるけどな」

「派手にニュースにもなったのでその心配は無いでしょう」

「それで、話というのは?」


一通り気になったことが聞けたので元の話を促す。


「そうそう、賢一さん。お話というのはですね、異世界へ逝ってみませんか?」

「え?」


女神が出てきた時点でなんとなく予想はしていたが、そのまんまかよ。行くのアクセントと言うかイントネーションが気になったが本題はそこじゃない。

もしかして山本泉美を助けたからそのご褒美で流行の異世界転生にご招待ってことなのか?


「いえ、スカウトですよ。」

「スカウト?」

「ええ、別に人を1人や2人助けたぐらいで異世界転生なんてしませんよ。ラノベじゃあるまいし」


と言うか今、心の声に答えたよな。もしかして心が読めるのか?異世界転生物のラノベの導入部などでは定番だが。


「私の神域の中でだけですけどね。なので無理に畏まった話し方をする必要もありませんよ」

「そ、そうですか。」


やっぱり読めるらしい。あんまり変なことは考えられないな。


「ちなみに、異世界転生を断ったら?」

「普通に記憶をリセットして転生ですね。次の転生先は地球か異世界か、人に生まれるか魚に生まれるかも判りませんけどね」

「地獄とか天国とかは?」

「そう言うのは、似たようなものは無くもないんですけど、普通はどちらも余程のことがなければ逝きませんね。簡単に天国だの地獄だのに送ってたらすぐに魂が溢れちゃいますから」


ひどく傷ついた魂が癒しのために逝くのが天国で、逆に極端に穢れてしまった魂が行くのが地獄らしい。どちらも魂の修復を行うための世界で、普通は色々な世界や生き物に転生を繰り返しながら魂の修行をするものらしい。

毎回記憶をリセットされてて修行になるのかは判らないが、輪廻転生とはそう言うものらしい。


「で、今なら記憶をもったまま転生できると。スカウトってのは?」

「私は女神といっても土地神なんですよ。賢一さんが住んでる地域担当の」

「土地神?それはまた日本的な」

「日本の神様ですから。神格もそこまで高くないので、本来の転生なんかも私の担当じゃないですしね」

「土地神様は転生は担当外と?」

「ええ、本来は。ただ、転生希望者を探している知り合いの神様に頼まれまして、条件に合った死者の方をスカウトしてるんです」

「知り合いの神様ですか」

「ええ、以前コンパで知り合って仲良くなった異世界の創造神さんです。美人の女神様なんですよ?」


美人の女神なのか。と言うかいまコンパって言ったよな。神様もコンパしてるのか。合コンとかやってるのだろうか?

ついでなので気になったことを聞いてみる。


「その条件と言うのは?」

「運命の改変力が一定以上ある方ですね」

「運命の改変力?」


運命と呼ばれるように、世の中の流れや人の人生は大まかには決まっているらしい。

ただ、それが絶対でないのは、世の中に運命を変える力を持った人と言うのが少なからずいて、たいていは小さく、時に大きく、運命を変えることで世の中全体の流れも色々と変化しているらしい。


「運命を変える力自体は誰にでもあるものなのですが、その強さは腕力や体力同様、人によって差があります。賢一さんは人より少し強い運命の改変力をお持ちなんですよ」

「俺に、そんな物語の主人公みたいな力が?」

「本来であれば、襲われた泉美さんだけでなく、不良の彼を取り押さえようとした野次馬や警察官など4名が死亡し、不良の彼自身も警官に撃たれて死ぬ運命だったんです」

「その運命を俺が変えてしまったと」

「そうです。結構すごい事なんですよ」


そう言って女神が微笑む。

我ながら単純だが、凄いと言われて悪い気はしない。


「ちなみに、どれぐらいの凄さなんですか?」

「1000人に1人ぐらいですね」


一瞬「おお!」と思ったが、1000人に1人。俺が住んでいる市は田舎の地方都市で人口は約50万人。割合的に市内に約500人ほど居る計算だ。日本全体だと約12万人も居る。

なんだろう、結構凄いはずなんだが、割合を考えたら急にスケールダウンした気がする。


「余り凄い人をスカウトすると神格が上の偉い神様に怒られてしまうのです」


少し残念そうな顔で女神がそう呟く。

くそっ、一瞬湧き上がった俺の主人公感を返してくれ。


「ちなみに、転生先は賢一さんの年代の方が大好きな剣と魔法のファンタジーな世界ですよ」


俺の年代じゃなくても男ならたいていの奴は好きだと思うが、剣と魔法のファンタジーな世界か。


「行ってみるか、異世界」


俺の呟きに答えるように女神はスマホを取り出した。



実はまだプロローグ。もうちょっと続きます。

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