魔法使いはじめました
宿に戻って早速に魔法の入門書を読む。読み終わったとき昼はとっくに過ぎていた。
久しぶりの読書と言うのもあるが、魔法に対する期待もあって一気に読んでしまった。
昼食を抜いてしまったが、この世界では肉体労働者や上流階級を除けば昼を食べないことも珍しくは無いので問題は無いだろう。
さて、魔法の入門書によると、この世界の魔法は火・水・風・土・光・闇・時空・無の8属性からなっている。
火・水・風・土は定番の4元素だな。前世で読んだ西洋魔術などでも基本とされる元素だ。
ゲームやラノベで定番の雷や氷も上位属性スキルとして存在するが、元になるのは4元素の組み合わせらしい。
この基本の4元素に光と闇、時空、その他の無属性をあわせた8つが魔法の属性とされている。
魔法を使うには魔力が必要である。
魔力は全ての人間が持っているが、魔力を魔法として変換し発動させるにはある種の才能が必要である。
どの属性の魔法に才能があるかが適性と言うことだ。
魔法が使えるなら、適性のない属性の魔法でも一応は使える。適性のある属性の魔法に比べて威力や消費魔力が落ちることになるが。
すべての人が魔力を持つが、実際に魔法を使える人は、簡単な生活魔法が発動できる人は10人に1人程度。
戦闘に使用できるレベルの攻撃魔法を使える人はその中のさらに10人に1人、全体で言うと100人に1人となる。
そんな訳で、簡単な生活魔法程度でも魔法が使える人はかなり重宝されるらしい。
あれ?魔法の全属性適性って微妙だなって思ったけど、普通に生活するだけなら十分なんじゃね?
せっかく異世界転生するんだから無双したいってロマンを捨てれば。
うん、無理だな。ロマンを捨てるには俺はまだ若い。
魔力とは何か?
スキルの解説を見る限り、前世で『気』とか『プラーナ』とか呼ばれていた生命エネルギーがこの世界では魔力と呼ばれている様だ。
正確なところは女神様にでも聞いてみなければ判らないが、大きく違っては無いだろう。
魔法の修行方法は大きく
1.魔力を感じる
2.魔力を操作する
3.魔力を変換して魔法を発動する
の順で行う。
が、前世で気功術を身に着けていた俺には魔力=気を感じることや、それを操作することは簡単なことだった。
指先に魔力を集め、入門書に載っていた呪文を唱える。
「光よ」
指先に直径1cm程の光の玉が浮かぶ。
成功だ!
魔法が使えた感動で集中が切れたとたんに魔法で作った光は消えてしまった。
が、とにかく俺にも魔法が使えることが確かめられた。
これは嬉しい。
その後、俺は夕食まで色んな条件で光を出したりそよ風を吹かせたり水を出したりして遊んだ。
熱中しすぎて危うく夕食まで食べ損ねるところだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日、例によって薬草採取の依頼を受注して森に移動した。
早々に依頼分の薬草を採取すると、魔法の練習を行う。
魔法には詠唱が付き物なのだが、詠唱はイメージを明確化するためのもので必須ではないらしい。
つまり、明確なイメージさえ出来れば呪文は何でも良く、極端なことを言えば無詠唱で魔法を使う事も出来ると言うことだ。
闇よりもなお暗きもの、黄昏よりもなお深きもの、
なんて言うそれっぽい呪文とか厨二病的な男子心を擽るが、実戦を考えたら詠唱なんてのは無駄でしかない。
まあ、呪文を唱えた方がイメージしやすいので、ソロでなければ確実に魔法を発動させるために詠唱するのもアリかもしれない。
あと、時と場合でハッタリを効かせるには良いと思う。
そんなワケで、練習として入門書に載っていた各属性の基本の攻撃魔法を試していく。
入門書なので初級魔法しか載ってないワケだが、基礎を学ぶには十分だろう。
「火球」
拳大の火の玉が的に向かって飛んでいく。火属性の初級攻撃魔法だ。
手でボールを投げるより少し速いぐらいのスピードで飛んでいく。
威力はありそうだが、素早い相手だと当てるのが難しそうだ。
「風刃」
風の刃が目標を切り裂く。釜井たちじゃないカマイタチを起こす風属性の初級攻撃魔法だ。
魔法の使い勝手は良さそうだが効かない相手も多そうだ。
決してスキー場で殺人事件が起きたりする魔法ではない。
「水球」
拳大の水の玉が的に向かって飛んでいく。水属性の初級攻撃魔法だ。
当たるとかなり痛そうだが、殺傷力としては微妙だ。火属性の魔物には効くと思う。
牽制とか、相手を殺さずに制圧したいときには良いかもしれない。
「泥沼」
足元が泥濘になる土属性の初級攻撃魔法。地面が土で無いと使えなかったりと制限も多い。
他の属性に比べて攻撃のイメージが薄く役に立つのか?
と思ったが、戦闘中に相手の足元に使えば搦め手としてかなり使えそうだ。使いこなせるかどうかは術者次第というところか。
しかし、土球じゃダメだったんだろうか?
「光球」
拳大の光の玉が的に向かって飛んでいく。光属性の初級攻撃魔法だ。
練習用の木の的だと物理ダメージがあるのかどうか良くわからない。顔に当てれば目潰しにはなりそうだが。
アンデッドにはよく効くらしい。
「闇球」
拳大の闇の玉が的に向かって飛んでいく。闇属性の初級攻撃魔法だ。
闇の玉と言うイメージが掴みにくく他の属性の比べて発動までに時間がかかったが、何とか発動できた。
さすが創造神の加護。
光球と同じく物理ダメージがあるのかどうか良くわからない。そのうち実地に試してみる必要があるだろう。
ここまでで6属性。
手元の入門書によると、時空属性と無属性の初級攻撃魔法は存在しないらしい。
無属性は鍵開けや透視など特殊な魔法が多く攻撃には向かず、時空属性はそもそも適性のある者自体が少なく未解明な部分が多いとの事だ。
時空属性は特殊だから判らないでもないが、無属性は何か出来そうな気がする。
ゲームで見かけるソニックブームなんかは理屈はゲームによって異なるが基本は衝撃波だ。
無属性で出来そうな気がする。
うん、出来るはず。きっと出来る。
男の子なら、いや人によっては女の子でもやったことがあるはず。
手から気功波をだす国民的アニメのあの技を!
俺が気功術を学んだもの、あの技に憧れた部分が無かった訳ではない。
もちろん本当に気功波が出せるなんて思って修行した訳じゃないが、こっそり期待してたのも本音だ。
結局、気は体内において作用するものでアニメや漫画のように気を体外に打ち出して攻撃するようなことは出来なかったのだが。
しかし、今は魔法のある世界にいる。
魔法がイメージで発動するなら、魔力を圧縮してそのまま打ち出す事だって出来る筈だ。
俺は腰溜めに両手を構え、気もとい魔力が集まる様をイメージする。野菜の星からきた戦闘民族な主人公のイメージだ。
ホントはアニメのように技の名前を叫びながらやりたかったが、誰も見ていないハズだが何となく気恥ずかしくて自重した。
魔力がエネルギー波となって飛んでいくイメージを固め、気合とともに手を前に突き出す。
「波っ」
パーンッと言う乾いた音と共に的が弾け飛ぶ。
「出来た!」
俺は、異世界でついにカ○ハ○波を身につけた!!!
まあ、実際はただの無属性魔法の衝撃波だけどな。
今のところ転生者は俺しかいない筈だが、色々アレなので技名は単純に「衝撃波」としておこう。念の為だ。
その後、夕暮れまで魔法の練習をして街に戻った。
無双やエネルギー派は男のロマンですよね。