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孤児院

「上見ないでよ」


「わかってるよ。頭を踏むな、肩を使え肩を」


「ごめんなさい。よく見えなくて」


「ああ、もう良いから、落ちるなよ」


ゴブリンの群に追いかけられていた少女。

ゴブリンの殲滅が終わったので、退避させていた木の上から降ろす。

微妙な高さなので梯子がわりに肩を貸しているところだ。


それに俺は下着に興味はない。

女の裸には興味があるが、それも俺と同年代かそれ以上の女性に対してであって、いま俺の肩に足を掛けて木から降りている少女の様な子供は対象外だ。


閑話休題


「ありがとうございました、冒険者さん」


「ああ、まずは無事で良かった。俺は賢一だ。Fランクの冒険者だ」


「私はミア。あんなに強いのにFランクなの?」


「一昨日登録したばかりだからな」


「すごーい」


「それより、何でゴブリンに追いかけられてたんだ?それに、お前1人なのか?」


「はい、私ひとりです。院長先生のお薬を探してたら迷子なって、ゴブリンに捕まって森の奥に連れていかれて、そしたらゴブリンがいっぱいいて。隙をみて逃げ出したの」


「よく逃げだせたな」


「私を見てゴブリン同士でケンカをはじめたから。運が良かったのかも」


「院長先生の薬と言うのは?」


「院長先生が病気なの。お薬買うお金がなくて治らないの。だから森で薬草を探そうと思って」


「なかなかアグレッシブだな。薬草は見付かったのか?」


「探してるうちに迷っちゃって、ゴブリンに捕まっちゃって…」


「そうか」


院長先生が何者かは判らないが、かなり慕われているらしい。

院長か。病院、学院、孤児院、おそらく孤児院なんだろうな。


「とりあえず今日はもう帰れ。街まで俺が送って行ってやる」


ミアと一緒に街に戻る。


予想した通りミアは孤児だった。年齢は10歳。

両親は事故で死んだらしいが、物心ついたころにはすでに孤児院だったので覚えてないそうだ。


ちなみにゴブリンの死体はミアを木から降ろす前にすべて異空間収納(アイテムボックス)に入れた。

さすがにゴブリンとは言え死体の海に子供を立たせるのは情操教育的に良くない気がしたのだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


孤児院は教会に併設されていた。シスターが院長を兼ねている様だ。

この街に教会はいくつかあるが、孤児院をやっているのはこの教会だけとのことだ。

宗派の問題なのか政治の問題なのか院長の個人的な善意なのか。


ミアとは街までのつもりだったが、結局は孤児院まで付き添うことにした。

ミアが不安そうにしていたからだ。

時間が経ったことでゴブリンに襲われた恐怖がフラッシュバックしたのか、勝手に街を出て森に向かったことを叱責されるのを恐れているのか。

どちらにせよ、街の入り口で放り出すにはいささか不安な気がしたのだ。

それに、いささか無鉄砲だとは思うがミアが薬草を採りに行った気持ちは判らなくは無いからな。


孤児院で歳若いシスターにミアを森で保護したことを伝えると応接室へ通された。

これと言った飾り気の無い、簡素な応接セットだけの質素な応接室だ。


出されたお茶を飲みながら待っていると、ノックの後シスターが入ってきた。

穏やかな雰囲気の年配のシスターだ。


「はじめまして。この孤児院の院長をしておりますマリーシアといいます」


「はじめまして。冒険者の賢一です。ご病気とお聞きしましたがお身体は良いのですか?」


「ええ、大丈夫です。少し疲れが重なってしまっただけですので」


あまり顔色は良くないが、今にも死にそうという様には見えない。

女性なので化粧などで誤魔化している可能性はあるが。


シスターに森でミアを保護したこと。

院長のために薬草を探しに行ったらしいこと。

街まで同行してきたことなどを伝え、余りきつく叱らないようにお願いする。


それから、俺がこの街に着たばかりであることを話し、この孤児院や街の事について色々と話を聞かせてもらった。


この街には教会は4つあり、孤児院をやっているこの教会は創造神リムルネイトを主神とした8柱の神を祀る創神教の教会らしい。

創神教はこの世界でいくつかある宗教の中でも最も長い歴史をもち、この教会もこの街では一番古いらしい。

孤児院は教会の支援と領主の寄付で運営されているが、近年はどちらも予算が減らされており十分では無いらしい。


6時課の鐘を機に孤児院を退去した。

孤児院に着いたときは3時課を過ぎていたが、色々と話を聞くうちにうっかり長居をしてしまった。


立ち去り際、俺は金貨1枚を寄付した。

孤児たちに同情したというのもあるが、何よりもシスターの人柄に感心したからだ。

宗教家にありがちな自分の信仰を相手に押し付けてくることもなく、本気で子供たちのことを想っているのが話の節々で伝わってきた。


シスターマリーシアは碌な礼も出来ずに申し訳ないと言っていたが、ミアを助けたうえに寄付まで受けたことで余計に恐縮していた。

その宗教家らしくない感じがより好感だった。もしこれが演技だとしたらハリウッド女優も顔負けだろう。


本当に演技だったとしても、ちゃんと孤児たちのために使われるのであれば問題は無い。

やらない善よりやる偽善だ。


陽は傾き西に近づいているが夕日と言うにはまだ少し早い。

前世で死んだときは晩秋だったが、この世界での季節はどうなっているのだろう?

転生してまだ3日。

知らないことがまだまだ多い。



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