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無双は男のロマン vsゴブリン

最小の動作で払い、斬り、突く。ひたすら繰り返す。


周りには大量のゴブリンと大量のゴブリンの死体。

剣を振るたびに腕が飛び、脚が飛び、首が飛ぶ。


ゲームと違って倒しても死体が消えて無くなったりはしない。

ゴブリンの死体はすでに20を超える。

死体を適当に蹴り飛ばしてスペースを確保するが、それもそろそろ限界が近い。


幸い、ゴブリンが想像以上に弱いおかげで体力的にはまだまだ余裕がある。

連携もなくバラバラに襲いかかってくるだけなので無双ゲームと変わらない。

とは言えミスしたり体力が尽きたりすれば待っているのは死だ。

ゲームの様にコンティニューやリセットは効かない。


臍の下、丹田と呼ばれる部位に力を込め身体強化を発動する。

殲滅速度を上げる。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


昨日の訓練である程度剣が手に馴染んだ俺は、森での素材採集を請けた。


ちなみに訓練と言っても大したことはしてない。

ショートソードで素振りを100回、剣術の型を一通り100回ずつ、ショートソードで使えそうな型をさらに100回ずつ、シャドーボクシングならぬシャドー剣道、いやシャドーチャンバラによるイメージトレーニングを1時間ほどやっただけだ。

それでも終わる頃には陽が傾き午後6時課の鐘がなる直前だった。


今日も朝一で依頼を受注し、森に入る。


討伐依頼ではなく採集を選んだのは鑑定と異空間収納(アイテムボックス)のスキルを持つ俺には安全で美味しい仕事だからだ。

強さへの憧れは多分人並以上にあるが、だからと言って脳筋と言うワケじゃない。

どちらかと言えば安全マージンはしっかり取りたい派だ。

そんなワケで剣を買ったからと言っていきなり討伐依頼を請けたりはしない。


もちろん、採集の途中で逸れの魔物や獣と遭遇(エンカウント)すれば状況次第で戦ってみる気ではいるが。


この森は俺が転移した森ではなく街の反対側、西の森だ。

距離も近く徒歩で小1時間程度。

街から近く冒険者もそれなりに入っているので浅い部分には魔物も獣もほとんどいない。


森に入って2時間ほど経つがまだ魔物とは遭遇してない。

野良犬らしき獣には遭遇したが、こちらを見るとすぐに逃げて行ったので戦闘回数はまだゼロだ。


ちなみに、依頼の素材はすでに集まった。

見分けの難しいキノコらしいが鑑定さんの前には余裕である。

常時依頼の薬草や野草もついでに採取を行っており、異空間収納が無ければそろそろ持ちきれなくなる量が集まっている。


そろそろ街に引き上げても良いのだが、まだ昼前。

せっかくなので魔物の1匹も拝んでみたい。

自分で安全マージンを取ると言っておきながら何だが、採取が順調過ぎて欲が湧いてしまった様だ。


少しばかり迷ったが結局、森の奥へと足を向けた。


しばらく進むと何者かの気配があった。

隠密スキルを意識し、気配を消しながら近づいて様子を窺うと魔物がいた。


130~140cmぐらいの子供のような身長に緑の肌、髪はなく額には小さな突起、乱杭歯の醜悪な顔、腰巻きだけの粗末な衣服。手には錆びた鉈のような刃物。

腰巻きを衣装と呼んで良いものか一瞬悩むがそれはさて置き、テンプレ的にはファンタジーで最もメジャーな魔物のゴブリンだろう。

念のため鑑定してみる。


========================================

名前:

種族:ゴブリン

年齢:1歳

スキル:

========================================


ゴブリンに間違いない。

幸い狙った様に1匹だ。力試しにはちょうど良いだろう。


ショートソードを取り出し、隠密スキルを解除する。

隠密を解除してもすぐには気付かなかったが、10歩ほど近づいたところで反応し、鉈を振り上げ叫びながら襲いかかってきた。


「グギャギャッ」


遅い。

ゴブリンの脇を抜ける様に移動しながら鉈を避わし、すれ違い様に脇腹を斬りつける。

木刀で叩くのとは違う肉を斬る感触が手に伝わる。


イメージトレーニングでは何度も斬ったが、真剣で生き物を斬るのは初めてだ。

実際の感触はなんとも言葉にしづらい。

人型の魔物なので余計にかもしれない。


しかし、それ以上に弱いと言う感想が先に立つ。

ゴブリンと言えばスライムとどちらが弱いかと言うぐらい最弱な魔物の代表だが、それでも弱過ぎる気がする。

この世界にスライムがいるのかは知らないが、ゲームやラノベでは物理攻撃が効きにくかったりすることが多いので、相性的にはスライムの方が強いかもしれない。


ゴブリンは子供ぐらいの体格で動きも子供並。

1対1なら子供でも少し運動神経が良い子なら勝てそうな感じだ。

俺的には、生き物を殺す忌避感に慣れるかどうかの方が重要そうだ。


その後も、1匹や2匹で彷徨いているゴブリンを見付けては斬りつける。

この世界で生きていくのだから早めに慣れた方が良いだろうと思ったからだ。


ゴブリンの武器はまちまちで、鉈だったり木の棒だったり手斧だったりする。

剣を持っている個体もいたが、数も少なくいづれも錆びてボロボロだったので森で拾うか冒険者から奪うかした物を装備しているのだろう。


10匹ほどゴブリンを殺したあたりで休憩をとっていると、少し離れた場所から子供の叫び声が聞こえた。

俺がいる場所よりも森の奥方向からだ。

声のした方へ意識を向けると何かから逃げている気配とそれを追いかける多数の気配がする。

気配の感じでは思ったより近く、こっちに近づいている。


厄介事の臭いがぷんぷんするが、本当に人間の子供だったら見捨てるのも寝覚めが悪い。

声のした方へ向おうと立ち上がったところで正面の茂みから少女が飛び出してきた。


「冒険者さん!助けてください!」


少女が言い終わるか終わらないかのうちに数匹のゴブリンが少女の後を追うように茂みから飛び出してきた。

少女を後ろに庇いながら先頭の1匹を一刀で切り捨てる。

後続のゴブリンが急制動をかけるが、止まりきれずに体勢を崩したところを順に撫で斬りにする。


が、茂みの中から次から次にゴブリンが出てくる。

出てくる端から切り捨てるが、斬る捨てる数より茂みから出てくる数の方が多い。


「こりゃイカン」


俺1人なら囲まれても何とかなりそうな気はするが、少女を護りながらだと正直無理がある。

俺はくるっと向きを変えると少女を抱き上げダッシュした。


ゴブリンの足は遅いので少女を抱いたままでも十分逃げれる。

ただし体力が持てばだが。


うん、無理がある。

少女は俺よりは小柄だが幼女と言うほど小さくも無い。

すぐにでも息が上がりそうだ。

せっかくのお姫様抱っこだがスペースオペラの主役にはなれそうにない。


少し開けた場所に出たところで少女を下ろし、近くの木に登らせ避難させる。

あまり高い枝ではないが、弓使いがいなければ俺が生きている間は無事でいられるだろう。


調息の呼吸法でゴブリンが追いついてくるまでの間に息を整える。

先頭のゴブリンが追いつくまでに十分呼吸が整う。意外と距離を稼げていたようだ。


ゴブリンを端から斬り捨てる。


ゴブリンの攻撃は基本、体捌き足捌きで避わす。

避わしきれない時はショートソードの切っ先や腹の部分、日本刀でいう鎬の部分で払い流す。

アニメや時代劇の殺陣と違って剣で打ち合ったり受け止めたりはしない。


避わし様に腕を斬る。

攻撃を受け流して突く。

すれ違い様に首筋を撫で斬る。

足払いで倒して急所に剣を突き込む。

すべてを一刀、もしくは二刀でゴブリンを殺していく。


斬るときは首、腕、足、と細いところを斬る。

数体も斬れば血糊と脂で切れ味が落ちるので止めを刺すときは突きを多用する。


足元がゴブリンの死体で埋め尽くされていく。

死体を異空間収納(アイテムボックス)に収納してしまえば良いのだが、連携もなくばらばらと襲い掛かってくるので逆に死体を収納している余裕が無い。


すでに20匹以上は倒した気がするが、まだ同じぐらいの数のゴブリンがいる。

血糊と脂で剣はすでに鈍らになっている。


丹田に力を込め、そこから気(この世界では魔力らしい)を全身に巡らせ身体強化を発動する。


切れ味が落ちた分は身体強化の力で叩き斬る。


ゴブリンの攻撃を前足を軸に身体を回転させるように避わし様、首筋にショートソードを叩きつける。

角度が悪かったのか、剣が刃が首の半ばまで埋まったところで引っ掛かる。

力任せに振り切る。


そして、剣が折れた。


チャンスと見たゴブリンが一斉に襲い掛かってくる。


折れた剣を正面のゴブリンに投げつける。


右手から迫る木の棒を持ったゴブリンの懐に入り込み体当たりする勢いで肘打ちを食らわせる。

そのまま腕を掴み、同時に膝の下に腕を差し入れ掬い上げる様に他のゴブリンへ向かって投げ付ける。


武器を持った相手と好き好んで素手で戦いたくは無いが、俺の武術歴は徒手格闘の方が長いのだ。

スキルも剣術より格闘術の方が上だったしな。


何よりゴブリンは人型なので対人用の技が使いやすい。

だから、まだ焦る段階ではない。


そう自分にうそぶきながら素手でゴブリンを殴り、蹴り、投げ、倒したゴブリンの武器を奪っては戦う。

戦い続ける。


さすがに息が上がって体力がやばくなってきた頃、全てのゴブリンを殲滅した。


座り込みたい衝動に襲われたが、残心をとりゴブリンの生き残りがいないか周囲を確認する。

生き残りや追加がいないことを確認して、少女のいる木の根元に座り込んだ。


正直、しばらく動きたくないでござる。


主人公は本人は慎重なつもりですが、実際は歳相応だったりします。

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