どうのつるぎを手に入れた!
太陽が中天に差し掛かる頃、街の方から鐘の鳴る音が聞こえてきた。
草むしりの手を止め、立ち上がって腰を伸ばす。
思わず熱中していたが、先ほどの鐘は12時課の鐘だ。
長時間中腰だとさすがに腰が痛い。
草むしりと言うか薬草取りだけど、コレがどう見てもヨモギにしか見えない。
確かに前世の地球でもヨモギは薬草として傷の止血や消毒に効果があった。
また、ヨモギには血液の循環を促進作用や血管拡張作用があり、食べることで胃腸の強化やアレルギー改善、美肌効果などがあり、お茶やお餅などにも利用されていた。
この世界のヨモギに同じ効果があるのかどうかは判らないが、同じように薬草として扱われているようだ。もしかしたら異世界だけに地球よりも薬効は高いのかもしれない。
ちなみにこの世界でのヨモギの名前は「ヨギモ草」である。紛らわしく面倒なのでヨモギと呼ぶ。
ヨモギは地球では雑草扱いでそれこそどこにでも生えており、むしろ除草の方が大変だったぐらいだが、こちらの世界でも雑草並みにあちこちに生えている。
ただし、よく似た毒草もあるので注意が要る。地球でも猛毒で有名なトリカブトがヨモギに似ていると聞いたことがあるが、そんなに多くは無かったはずだ。
採取場所は街の近くの草原。危険な動物や魔物もほとんどいないし、何かあってもすぐ街に駆け込めるとは言え一応は街の外。
そんな訳で地球ではほぼ雑草扱いだったヨモギの採取も冒険者の仕事と言うことらしい。
ほとんどはGランクの子供や、俺のようなホントに駆け出しのFランクぐらいしか請けないらしいが。
ちなみに俺には鑑定スキルがあるので薬草と毒草を取り間違えることは無い。
鑑定さん様様である。俺TUEEEにこだわらなければ鑑定さんだけでも異世界スローライフなら出来そうだ。
一応、毒草は毒草で採取しておいた。冒険者ギルドの買取対象ではないので採る必要は無いのだが、あれば何かに使えるかもしれない。
幸い俺には異空間収納があるので保管場所には困らない。
薬草採取と言っても、ギルドで買い取り対象となる薬草には当然いくつか種類がある。
その中でもヨモギはかなり不人気らしい。
需要の割りに買い取り価格が安い。よく似た毒草(非買取対象)があるため慣れていないと意外と難しく、中には採ってきたヨモギの半分以上が毒草だったなんてことも珍しくない。
そんなワケで実に不人気らしい。
猫耳受付嬢がヨモギを必死にプッシュしていたのにはそんな理由もあるのだろう。
ちょうど良い頃合だろう。
小腹もすいたし街に戻ることにする。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルドカードをみせ街に入る。
ギルドに戻るとお昼時のせいか、酒場エリアには数組の冒険者が食事をしていたが掲示板エリアや受付カウンターはほとんど人が居なかった。
朝と同じ猫耳受付嬢のところへ行く。
「今朝請けた薬草採取の報告なんですが、薬草はどこに出せば良いですか?」
「もう採ってきたのかにゃ。量が少ないとあまりお金にならないにゃよ?」
「大丈夫です。どこに出せば良いですか?」
「ここで良いにゃよ。どこにあるにゃ?」
ふふふ、良いと言うなら出して見せよう。一度やってみたかったんだよね。
と言うことで採ってきた大量のヨモギを異空間収納から取り出しカウンターの上にぶちまける。
テーブルの上に山と積まれたヨモギ。はい。乗り切らなくて机から溢れてます。
「にゃにゃっ アイテムボックス持ちかにゃ」
「ええ、まだレベルは低いですけど、荷物が少ないので薬草ぐらいなら幾らでも入りますね」
「見た目より強いのは判ってたけどこれは予想以上だったにゃ。量が多過ぎるから向こうの買い取りカウンターへ行くにゃ。一度仕舞って欲しいにゃ」
「わかりました」
カウンターの上に出したヨモギを異空間収納に収納し、ギルド左手奥の買い取りカウンターであらためて採ってきたヨモギをだす。
「量が多いから査定が終わるまでちょっと待つにゃ」
と言うことなので依頼の掲示板を眺めて待つことにする。
鑑定と異空間収納があれば採取系なら楽勝なんじゃね?と思い採取系の依頼をチェックする。
採取系は常時依頼が多く、種類も意外と多かった。単価が良さそうなのはやはり採取場所が森の中や街から離れた場所のものが多い。
森でも浅い位置なら強い魔物や獣はいないそうだが、さすがに木刀だけで森に行くのは浅慮と言うものだろう。
木刀一本で森から出てきた俺の言うことじゃないが。
「ケンイチさん、査定が終わったにゃ」
30分ほど経ったところで声が掛かる。ヨモギは1Kg、品質普通で銅貨7枚。32Kgの持込で銀貨2枚と大銅貨2枚、銅貨4枚だった。
日本とは物価が違うだろうから正確ではないが、宿代や串焼きの値段から推定すると大銅貨1枚が1000円~1200円と言ったところではないだろうか。
仮に1000円とすると2万2400円。半日の稼ぎとしては悪くない。
腰が痛いので毎日はしたくないが。
「初めての薬草採取だったのに毒草が1つも混じってなかったにゃ。凄いにゃ。私の名前はレミにゃ。今後ともよろしくにゃ」
「はい。よろしくお願いします」
そう言えば受付嬢さんの名前を始めて聞いた気がする。
名前を教えてくれたと言うことは少しは認められたのだろうか?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
報酬を受け取ってギルドを後にし、露店を冷やかしながら街の中をぶらつく。
もちろん串焼きの買い食いも忘れない。
街中は領主や貴族、富裕層が住む貴族エリア、商店が多い商業エリア、工房や職人が集まる工房エリア、一般の住居エリアなどに分かれているようだ。
今のところこの街に永住する気は無いが、今日明日に旅立つわけでもない。旅立つにしてもまずは装備を整えなければならない。
何よりもまずは武器だ。ギルドの依頼を受けるにも、やはり武器が必要だ。
街中のチンピラなら木刀で十分でも魔物や獣となると心許ない。
商業エリアと工房エリアの境の辺りで目に付いた武器屋らしき店に入ってみる。
「こんにちは。少し見させてもらって良いですか?」
「ああ、好きにしろ」
やや無愛想な返事だが、職人ならそんなものだろう。
店主らしき声の主を見ると、背は俺と同じぐらいで低いが横幅は倍ぐらいある。
もちろん全て筋肉だ。筋肉達磨と言う言葉が似合いそうな身体に髭。
やはりこれはドワーフなのだろうか?
気にはなったがドワーフなら武器の質は良くても悪いことは無いだろう。
並べられている武器をざっと眺めてみるが、ファンタジーアニメで定番の西洋剣やメイスが多く、さすがに刀は置いてなかった。
イメージの一番近いものでレイピアだろうか?
それでも、レイピアは斬るよりも突くことに重点を置いているので日本刀的な使い方には微妙な感じである。
これなら普通の片手剣や長剣の方がマシかもしれない。
少し悩んだが、欲しい武器が手に入らないなら逆にこだわる必要もないかと思い店主に聞いてみることにした。
「すいません、2つ聞きたいのですが」
「なんだ?」
「オリジナルの武器を打ってもらうことは出来ますか?」
「もちろん出来るぞ。うちは鍛冶屋だからな。どんなのが欲しいんだ?」
「日本刀と言う、片刃で反りのある剣なんですが、形としてはこんな感じです」
と言いつつ異空間収納から木刀を取り出して見せる。
木刀を持っていると舐められて当然だと言われてしまったので普段は異空間収納に仕舞うことにしている。実際、手に持って歩くのも邪魔だしな。
「変わった形の剣だな。出来なくはないと思うが、オーダーメイドでしかも初めての型になるからちっとばかり値が張るぞ」
「ちなみに、お幾らぐらい?」
「ま、金貨10枚ってとこだな」
「やっぱり、意外としますね。予算オーバーでした」
「まあ、お前さんの歳でポンと出されてもこっちが驚くがな。あまり見ない格好じゃが、貴族様ってワケじゃあるまい」
「ええ、まあ」
適当に言葉を濁しながら考える。金貨10枚だと100~120万てとこか。
前世だと現代に打たれた新作の日本刀で200万~300万ぐらいが相場だと聞いたことがある。
日本よりも安いが、日本では美術品的な価値の方が大きいから、実用品としてはそんなものなのかもしれない。
金貨10枚、女神様に貰ったお金があるが、ここで使ってしまうと一気にジリ貧になってしまうのでそれは避けたい。
「2つ目の質問です。この店で一番安い剣はどれですか?」
「オーダーの値段を聞いておいて一番安い奴とはまた極端だな。そこの籠にまとめて放り込んである剣ならどれも1本で銀貨1枚だ。弟子の習作だから品質はそれなりだがな」
「ありがとうございます。それなりに硬くて一応刃がついてれば十分です」
言いながら籠の中の剣を1本1本取り出し確かめる。
弟子の習作とは言っているが、店頭に出してるだけあってぱっと見で判るほどの不備は無い。
軽く振って手に一番しっくりきた1本を選ぶ。シンプルなショートソードで材質は青銅っぽい。ゲームだと銅の剣と言った辺りだろうか?
ひのきの棒からランクアップするにはちょうど良いか。俺の木刀は檜じゃなくて鉄木だけど。
店主に銀貨1枚を払い、銅の剣を異空間収納に仕舞って店を出る。
まだ陽は高い。どこかで銅の剣の完熟訓練をするべきだろう。
俺は散策中に見つけた公園のような場所に向かって歩き始めた。