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プロローグ

学校の帰り道、いつもの物思いに耽る。


俺は休憩時間はもちろん授業中も隠れて読書に耽るぐらいの読書好きだ。

小学生の頃には学校の図書室の本を8割方読み尽くしたぐらいの活字中毒だ。残り2割は時間切れで卒業してしまった。

1回の貸し出し冊数が3冊までって少ないと思うんだ。


ジャンルもラノベから推理小説、小難しい哲学書まで何でも読む。年齢制限な大人の本も親の隠し蔵書やネットなんかでこっそり読んでる。好奇心には勝てない。


そんな読書好きが時間があれば空想や妄想にふけるのは普通のことだと思う。


とは言え、ただの本好きのもやしって訳でもない。

幼稚園の頃から近所にある道場で拳法を習っている。拳法というとマイナーな感じだが、中身は空手と合気道を足したような内容だ。突き蹴りだけじゃなく投げたり極めたり、総合格闘技に近いが簡単な杖術や棒術なんかもあったりする。


今は中3だから修行を始めて約10年。師範が言うにはそこそこ才能もあるらしいが、背が低く体格的な不利が大きいのでプロ格闘家にはなれそうに無い。

なので武術は趣味だ。


趣味だけに、通っている道場以外にも本やネットで調べて空手や合気道、剣術、中国武術など色んな武術を齧っている。

運よくと言うべきか運悪くというべきか、喧嘩の実戦経験はそれなりにある。背が低いとそれだけで絡まれやすいんだよな。


なので空想や妄想の大半はそれらの武術をどう実戦で使うか使えるかのイメージトレーニングだ。


だから空想や妄想に耽ることが多いからといって別に厨二病という訳じゃない、と思う。右目や左手が疼くわけじゃないし、謎の組織と戦ってもいないからな。

まあ、読んだ小説の主人公に感情移入して自分ならこうするのにとかぐらいは妄想するけど、それぐらいは普通だろ。


そんな歩きながらの物思いからふと目線をあげると見覚えのある少女が目に入った。


やや小柄な、幼さの残る可愛いらしい顔立ちをしたその少女は隣のクラスの山本泉美だ。いつも明るくて活発な性格で、控えめな胸部装甲の割りに意外と男子の人気は高い。


2年生のときに同じクラスだったし、俺が密かに思いを寄せている清水愛美さんとも仲が良く、彼女と一緒にいることが多いので印象に残っているが、残念ながら直接話したことはほとんどない。


その山本泉美だが、他所の学校の制服を着た不良っぽい男子に言い寄られているみたいだ。

他所の学区にまで来てナンパか?

困った様な顔をしている。少なくとも嬉しくはなさそうだ。


困っているようだし声をかけてみるか?

うまくすれば山本泉美を通じて清水さんと仲良くなる切っ掛けになるかも。


などと考えていたら、不良がナイフを取り出した。


俺はナイフをみた瞬間に走り出し、そのまま飛び蹴りを食らわせた。

元々助けに入ろうとしていたこともあり自分でも不思議なぐらい自然に体が動いた。


助走を付けた飛び蹴りはそこそこ威力があったらしく不良は派手に吹っ飛んでいった。不意を突けたのも大きいだろう。


「大丈夫か?」

「う、うん。ありが・・・っ!」


山本泉美が身体を強張らせ目を大きく見開く。

その反応に不良の方に振り返るとナイフを振りかざして襲いかかってくるところだった。


派手に飛んだ割にダメージは少なかったか。自分の体重の軽さに舌打ちしたくなるが、ケンカは体格だけが全てじゃない。


ナイフを持つ手の手首に打ち上げる様に手刀を叩きけそのまま手首を掴む。と同時に不良の脇を抜ける様に身体を入れ替えながら反対の手で不良の肘を掴み引き落とすように投げる。

合気道や古流柔術で上受投げと呼ばれる技だ。

柔道の背負投げや一本背負いと違って崩しと重心移動だけで投げるため難度は高いが、相手に身体を密着させないので投げを失敗したときや返された時のリスクが少ない。


上受投げを実戦で使うのは初めてだったがイメージ通りに技が決まり、不良を地面へと叩きつける。

高段者の先輩たちの練習に参加していて良かった。


不良の手からナイフを奪い取り顎に蹴りをお見舞いする。

顎を叩くことで脳震盪にってのを狙ってみたが、マンガや映画みたいに上手くは行かないようだ。が、顔を押さえて呻いているのでとりあえず無力化は出来たとみて良いだろう。


「いきなりナイフで襲いかかってきた危ない奴だ。一応見張っててくれ。それと誰か、携帯持ってる奴がいたら警察に通報を頼む」


騒ぎを見て集まってきた野次馬たちに声をかけ、いまだ立ち尽くしたままの山本泉美の腕を引いて少し離れた場所へと誘導する。


ホントは不良を取り押えておいた方が良いのだろうが、今はこっちが優先だろう。無力化したとは言え、ナイフで襲いかかってきた男の近くには居たくないだろうからな。


近くにいた女子たちに彼女にしばらく付き添ってくれる様に頼み、あらためて不良を取り押さえに向おうとしたところで野次馬から悲鳴の様な叫び声が上がる。



「銃だ!」


慌てて振り返ると倒れた不良が上半身を起こして拳銃の様な黒い塊を手にしていた。

エアーガンやモデルガンにしては見たことがない型だ。本物?!


パンッ!


思ったよりは大きな、それでいて映画やドラマで聞くのとは似ている様でどこか異なる音が響く。

刹那、左胸に衝撃が走る。


熱っ!


何かで痛みは限度を超えると痛いではなく熱いと感じると聞いたことがある。これがそれだろうか?


喉から何かが込み上げる。抑えきれずに吐き出したそれは赤い。血だ。


「マジか…」


これアカン奴や。思考が混乱して何故か関西弁になる。


不意に怒りが込み上げてくる。

が、不良に向かって踏み出そうとしたところで全身から力が抜け意識が遠のきそうになる。ヤバイ。


俺は倒れながら、まだ持ったままだった不良から奪ったナイフを最後の力で奴に投げ付けた。


取り上げたナイフをまだ持ったままだったなんて、意外とテンパってたのか俺は。

そんな他人事の様なことを考えながら俺は意識を手放した。


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