シフォン
「井戸の事はわかりました。これなら確かに汲み上げるのにそこまで労力はかからないでしょう」
ほんの少しの上下運動だけでかなりの量の水が排水口から噴出する様子は、必要な水量の確保は容易だとテッツも納得をした。
「さらに、ある一定量を確保できれば、以降は水の追加はなくても大丈夫なようになってます」
シエナは地面に簡単な図面を描く。
「窯一杯に水を入れ、湯を沸かして浴槽へ流します。お風呂場から流れ出た湯は、排水溝を通ってろ過装置へと流れます。
ろ過装置をくぐった水は、再度湯を沸かす窯へと入り、再び湯となって浴槽へ。これにより、一定量の水さえ営業前に確保していれば、後は何度も水を汲まなくても自動的に循環されるようになっています」
「営業終了後は、弁を切り替える場所があるので、そこを切り替えればなるべく綺麗な状態で街の排水溝へと流れ出るようになってます」
ちなみに、ろ過装置と言っても遠心分離機などと言った科学的な装置ではなく、石や砂や布を使用した原始的なろ過装置である。
この、ろ過装置の中身の石や砂なども数日から一週間程で交換するようにしている。
でなければ、中に汚れが溜まっていく一方だからである。
最初に一定量の水さえ確保できれば後は循環して自動的というところに、テッツはただただ感心している。
「これなら確かに水代は発生しませんね。燃料費の問題については?」
湯沸かし器の現物を見ていない為、テッツはそれの維持や燃料がどういった物なのかが気になっていた。
「湯沸かし器は、魔晶石に魔力を貯めておけば自動的に湯を沸かしてくれるだけの窯なので、別にそう複雑な物でもないですよ。魔力を込められる人さえいれば、燃料費はかかりません」
湯沸かし器と言っても、作りは本当にシンプルな物である。
大きな窯に、どういう効果をどの範囲までもたらしたいかを詳しく刻んだ鉄板を取りつけているだけである。
そして、その鉄板に魔晶石という特殊な物質をはめ込んでいるだけの物だ。
あとはその魔晶石に魔力を込めるだけで使用できる簡単な仕組みであり、技術者達も日本語の方ばかりに気を取られていなければすぐに再現できる物である。
シエナはテッツに湯沸かし器の現物も見せ、ついでに水がどういう流れで循環しているかも見せる。
テッツは仕切りに興奮しっぱなしであり、魔道具以外は誰でも思いつきそうな構造なはずなのに、逆に誰も思いつかなかった発想を目の前に、メモを取るペンの勢いは止まらない。
「いやはや、これは良い勉強をさせていただきました」
「お役に立てて光栄です」
「それで、物は相談なのですが。明日、私は再びカイエン様のところへ今日の事を報告、そして今後の事についての話し合いをしに行きます。話し合いは二番街区に大浴場の建設という内容なのですが、シエナさんもその話し合いに参加を。そして助言をお願いできないしょうか?」
すでに大浴場を営業している者からの助言が貰えるならばこれほど心強い事はないだろう。
更に、テッツはシエナに柔軟な発想力がある事をこの短時間で見抜いている。いや、流石に見抜けないと商人として失格ではあるが…。
その柔軟な発想で、宿屋シエナにはない新たなサービスを生み出してくれるのではないかと、テッツは期待を寄せているのである。
「かまいませんよ。明日の何時頃にどちらに伺えばよろしいでしょうか?」
特に悩む事なく、シエナは即答する。
「昼前に馬車でお迎えにあがりますので、こちらでお待ちいただければと」
「馬車って、新型ですか?旧型ですか?」
馬車と聞いて、シエナは嫌そうな表情をする。
テッツはその表情をしたシエナに首を傾げ、更にシエナの言った「新型・旧型」といった馬車とは一体何なのかと疑問を抱く。
「その発言から察するに、今までとは違った馬車があるのですね」
「はい!旧型馬車なのが確定しました~。絶対に乗りたくないので、私の方から訪問させていただきます」
テッツの質問には答えず、シエナは旧型馬車に乗りたくない意思だけを示す。
街の道が、現代日本の滑らかなアスファルトで舗装された道ならば旧型馬車でもあまり揺れる事はないだろうが、テミンの街の道は、なるべく平坦にはしているがデコボコとした石畳である。
振動が絶え間なく襲い掛かってくる旧型の馬車は、シエナの脂肪分が少ない小さなお尻では大ダメージを与えてくるので、シエナは馬車には乗りたがらない。
結局、シエナとテッツは二番街区区長であるカイエン邸の近くで待ち合わせをする事を決める。
「それで、話しは全く変わるのですが、先ほどの飲み物とお菓子について質問をさせていただいても?」
シエナ達は宿屋受付の休憩所へと戻ってきた。
ソファーに腰を下ろし、テッツは先ほど気になっていた事を質問する。
メローナもこの話題には興味津々であり、さっきと打って変わって真剣な表情であった。
シエナはミルクココアとパウンドケーキの名称を答え、それぞれのレシピを読み上げる。
もちろん、テッツ達には材料の関係でその半分程しか理解ができなかった。
「ちなみに、このココアという飲み物は今の段階ではかなり希少品です。ウチに残っているのだけでも、あと30杯分くらいあれば多い方だというくらいですね」
ココアパウダーを作った時、ちゃっかりとシエナは持ち帰る分のココアパウダーを確保していた。
宿の皆にも飲ませてあげたいと思っていたし、自分でももっと飲みたかったからである。
そんな希少品を出していたという事実に、テッツとメローナは驚きの表情を見せる。
その後のシエナの説明で、ヴィッツの領主が他国からその原料となる実の輸入を始めようとしているという事まで聞き、それまでは今ある分だけというかなりの希少度に、ほんの少しの話し合いの場で提供してくれた事に感謝の念を抱く。
同時に、ヴィッツでその原料の実の貿易が開始される(可能性が非常に高い)という情報に、儲け話の匂いを感じて手元のメモにペンを走らせる。
おそらくはいち早くテミンにも仕入れるつもりなのだろう。
たくましい商人魂にシエナは苦笑をし、その後、思いつきで自分の作り出した冒険に役立ちそうな道具の数々をテッツに紹介、そしてテッツを大いに驚かせるのであった。
次の日になり、シエナは二番街区の中でも立派に整備された坂を登っていた。
二番街区区長であるカイエン邸へと向かっている途中である。
シエナの手にはバスケットが握られていて、その中身はこの世界ではまだ一度も作られた事がないであろうお菓子であるココアを使ったシフォンケーキが入っている。
シフォンケーキ自体もおそらくシエナ以外で作った人はいないだろうし、ココア自体が作り出したのがシエナが初めてだろうという考えからである。
もしかすると、アーネスト大陸ではない他の大陸ではすでに2つとも生み出されている可能性も無きにしも非ずであるが、それはシエナには確認の仕様がない。
そんな珍しいお菓子を用意したのは、今から訪問をする相手が貴族だからである。
シエナは貴族どころか王族にも知り合いがいて、しかもその王族にプロポーズを受けるという仲ではあるが、今回訪問をするカイエンは、シエナが初めて顔を合わせる貴族である。
テミンの領主のグラハムや、三番街区区長とは何度も顔を合わせていて、相手の方からシエナの方を頼りにしてくる部分があるので、シエナもそれなりに砕けた態度を取る事ができるが、流石に初顔合わせの相手に無礼な事はできない。
ヴィッツの領主であるテスタッチョに関しては、それより立場が偉いルクスが一緒にいたからこそ、あまり緊張せずに済んでいた。
しかし今回は、昨日挨拶を交わしたばかりであるテッツが紹介人であるので、流石のシエナも緊張を隠しえなかった。
それらのアウェー感をなくす為にも、希少品であるココアを使ったお菓子を持参するという手段をとったのである。
流石に助言を求められて呼ばれた存在なので、土産がなくとも蔑ろにされる事はないだろうが、今後の付き合いもあるかもしれないので、最初に印象を良くしておくのも悪くはないだろう。
坂を登り切ると、白い大きな壁の向こうに立派な建物が見えた。
その建物こそが目的地であるカイエン邸である。
「でも、いきなり私が突撃しても門前払いですからね。待ち合わせの時刻までもう少しですけど…テッツさんは…」
カイエン邸まではもう少しだけ距離が開いているが、待ち合わせ場所は坂を登り切った所にある喫茶店である。
丁度、シエナがいる場所が、その待ち合わせ場所であった。
待ち合わせ場所に到着したという事で、シエナはキョロキョロと辺りを見渡す。
裕福そうな恰好をした人々が歩いている場所で、シエナのように地味な服装の小さな少女がキョロキョロとしていると、田舎からのおのぼりさんにしか見えないだろう。
実際、すれ違う人々はそんなシエナの様子をクスクスと微笑ましく笑っていた。
街の人々の様子に気付く事なく、シエナがテッツを探していると、シエナの真後ろで馬車が停まる音が聞こえた。
「シエナさん。もう来られていたのですね」
シエナが振り返ると、馬車からテッツとメローナが降りてくる。
テッツが振り返る事なく手を挙げると、御者が軽い会釈をした後に手綱を振り、馬車はそのまま走り去っていった。
挙げていた手の指の形が少し不自然な形をとっていたので、決められているサインの1つなのだろう。
「せっかくシエナさんも早くに来てくださってましたし、少し早いですが参りましょうか。カイエン様をあまり待たせるわけにはいかないですし」
上流階級の人間がシエナ達を待たせるのは問題ではないが、平民であるシエナ達が貴族を待たせてしまうのは問題がある。
5分前行動どころか20分前行動ではあるが、シエナ達はカイエン邸へと向かった。
テッツが顔馴染みなのか、門番は軽い会釈だけで門を開き、シエナ達を中へと招き入れる。
すぐに使用人がやってきて、丁寧に挨拶をした後に館の第二応接室と呼ばれる部屋へと案内された。
「只今旦那様は第一応接室にて別のお客様の対応をしておりますので、今しばらくお待ちくださいませ」
貴族ともなると来客はやはり多いのだろう。
特にテミンの二番街区は商業特化区なので、商談をしに来る商人や、役所などで新たな商売の許可を貰った商人が区長であるカイエンへ挨拶に来る事は少なくない。
シエナも、宿を建設する際には三番街区区長の所まで挨拶をしに行ったのだった。
無論、今回のテッツの訪問も、依頼の報告と商談を合わせた訪問である。
それから10分程の時間が経過した頃、第二応接室のドアが開かれ、ナイスミドルという言葉がピッタリのブロンドの髪の男性が入ってきた。
「待たせて済まなかったな」
入ってきた男性がそう一言漏らすと、テッツとメローナが立ち上がってペコペコと頭を下げた。
「とんでもございません。来客中だというのに約束の時間よりも早く訪問してしまい、誠に申し訳ございませんでした」
テッツの態度に、ブロンドの男性こそが区長のカイエンであると悟ったシエナも急いで立ち上がって頭を下げる。
カイエンは「気にするな。顔を上げよ」と命じてシエナ達を回り込む。
「おや?そちらの少女が、昨日の手紙にあった?」
シエナ達の対面の椅子へと腰を下ろしたカイエンは、顔を上げたシエナの姿を見てテッツに質問を投げかける。
「左様でございます。手紙にも記していましたが改めてご紹介させていただきます」
未だ立ったままのテッツは、シエナの方へ手を示して丁寧にお辞儀をする。
「三番街区にて宿屋シエナを営んでおります、経営者のシエナでございます。此度はわたくし共の大浴場の建設計画への助言をお願いし、ご足労いただきました」
「し、シエナです!どうぞよろしくお願いします!」
紹介される直前に「ご紹介にあずかりましたシエナです」と、丁寧な対応を考えたシエナであったが、紹介の仕方が目上を扱うような紹介の仕方だった為に動揺してしまい、まるで初めてアルバイトを始める学生のような挨拶をしてしまう。
「ふむ、手紙に書かれていた内容には目を疑ったが、本当に幼い少女なのだな。しかし、やり手なのは理解している。突然の願いにも関わらずよく来てくれた」
テッツは、前日の帰り際にシエナをアドバイザーとして一緒に連れてくるといった内容を記した手紙をカイエンに宛てていた。
手紙は、シエナを一緒に連れてくるといった内容の他は、幼い見た目ながらもそれなりに大きな宿を経営できる手腕に、見た事もない様々な道具を作り出せる発想力に関してが記されていた。
「ワタシはテミン二番街区の区長を務めている、カイエン・リドアベール・アジェラだ。今日は全員が実りある良い話し合いをしようではないか」
カイエンはそう言ってシエナに握手を求め、シエナはおずおずとしながらもその握手に応える。
握手を終えた後、シエナは一度深呼吸をしてから持ってきたバスケットを持ち上げる。
「お口に合えばよろしいのですが、少々珍しいケーキを焼いてきました」
「む?これはわざわざすまないな」
珍しいと聞いて、カイエンはバスケットを受け取って蓋を開ける。
中には真ん中に穴の空いている円柱の焦げ茶色のケーキが入っていた。
ケーキと聞いて、カイエンは柔らかくなった大きなクッキーのような物を想像していたが、全く違う見た目という事と、ほのかに香る甘い香りに驚きの表情を見せる。
カイエンは待機している使用人に食器や紅茶の準備と取り分けを命じる。
使用人はすぐに行動に移し、シエナ達の前には豪華な皿に乗せられ、切り取られたココアのシフォンケーキと紅茶が並ぶ。
シフォンケーキを前に、メローナが前日に食べたパウンドケーキの味を思い出して思わず涎を垂らしそうになる。
「メローナくんは随分と真剣にケーキを見ているね?」
「ぴゃっ!?す、すいません!昨日食べたケーキも物凄く美味しかったので、このケーキも美味しいのだろうと期待してしまってまして」
この場で一番立場が上の人間が動いてないのに、それを差し置いて我先にと動くわけにも行かないメローナは、食い入るようにしてケーキを眺めてしまっていた。
「ふふ、気にする事はない。せっかくシエナくんが持ってきてくれたんだ。わたしを気にせずに先に食べると良い」
カイエンがそう言うと、メローナはパァッと笑顔を輝かせてフォークで小さく切ったシフォンケーキを口に入れる。
その様子をカイエンはジッと眺めていた。
もちろん、毒などは入ってないと信じてはいるが、初対面の人間が持ってきた見た事もない食べ物である。
警戒するに越した事はないし、他の人の反応を先に見ておきたいという打算も含まれていた。
「───っ!! おーぃしぃー!!」
ゆっくりと咀嚼をしケーキを飲み込んだメローナは、一度ギュッと目を瞑った後にワナワナと奮え、タメるにタメた後、頬に手を当てて幸せそうな表情で叫んだ。
テレビ番組であれば、編集でエコーがかけられる程の叫びである。
「昨日のケーキも美味しかったけど、今日のケーキはもっと美味しい!ふわっふわですっごく柔らかくて、しゅわしゅわ~ってとけるような口どけで、飲み込んだ後も鼻腔をくすぐる甘い香りがたまらないですぅ~!」
食レポのような事を言い出し、更に「あまりの美味しさに頬っぺがジンジンします~」と、本当に幸せそうな笑顔をしていた。
それを見たカイエンも、流石にその味が気になったのか少量をフォークで切り取って口に含んだ。
「!? な、なんだこの美味さは!」
舌にほんの少しだけ当たっただけにも関わらず、カイエンはシフォンケーキの味に思わず驚き、そして優雅に食べる事も忘れてガツガツと食べる。
「お気に召していただけたようでなりよりです」
カイエンの食べっぷりにシエナは微笑む。
こうして美味しい物を作ってそれを他人が気に入ってくれる事が、シエナの何よりの幸せである。
「これならば、娘もきっと…っ!おい!」
「はっ!お嬢様を呼んでまいります」
カイエンが全てを語らずとも、使用人は主人の言いたい事を理解して行動に移す。まさに従者の鏡である。
「すまないね。話し合いを始める前に、娘のシフォンにこのケーキを食べさせてあげたくなった」
「問題ございません」
カイエンの謝罪にテッツが答える。
「奇遇ですね。このケーキはシフォンケーキという名称なのですよ。お嬢様と同じ名前ですね」
カイエンが娘のシフォンの名前を出した時、シエナはその名前に少しだけ驚いていた。
「そうか。良い名前のケーキだな」
娘の名前がこれまで食べた中でもとびっきりに美味しいケーキと同じ名前である事に、カイエンは嬉しそうに笑う。
ほんの少しの時間が経過した頃、応接室のドアから小さなノックの音が響いた。
「お呼びでしょうか。お父様…」
ドアが開けられ、そこに立っていたのは父親譲りのブロンドの髪を腰まで伸ばした美少女であった。
胸もそこそこ大きく、スタイルも抜群であるのでこれだけの美少女ならば引く手数多だろう。
しかし、その表情はまるで誰も寄せ付けないような無表情であった。
「客人がとても美味しいケーキを持ってきてくれた。しかも、シフォンと同じ名前が付けられたケーキなんだ。是非、食べてくれ」
「…ありがとうございます。部屋で食べますので後で持ってきてください」
無表情のまま父親に礼を言い、隣にいた使用人にそう告げるとシフォンはすぐに踵を返して去ってしまう。
「し、シフォン!」
辛そうな表情でカイエンは立ち上がってシフォンの名を呼ぶが、シフォンは振り返る事なく歩を進める。
カイエンも追う事は出来ずに、茫然とその場に立ち尽くしてしまった。
応接室に重い空気が圧し掛かり、シエナ達は少し居た堪れない気持ちとなる。
「すまなかった…。娘のシフォンは、昔は明るく元気な娘だったのだがな」
椅子に座り直し、カイエンが口を開く。
「シフォンが産まれてからずっと一緒にいたメイドが、2年程前に突然辞めてしまってな。それからシフォンは笑顔を見せてくれなくなってしまった…」
「大事な一人娘だったから、厳しくする事もできずに時間の経過で治るのを待ったのだが、ますます心を閉ざしてしまって、最近ではあまり部屋からも出ようとしなくなってしまった」
カイエンは俯きながらぽつりぽつりと漏らす。
「そのメイドは、何故突然?」
「それはわからない。彼女は5歳の頃からこの屋敷に奉公に来ていたメイドでな。とても気が利いていて優秀なメイドだった。シフォンもまるで姉のように慕い、とても懐いていた」
テッツの質問にカイエンが答える。
「引き留めはしたのだが、彼女はそれではシフォンの為にならない、と言って、理由も告げずに辞めてしまった。
確かに、シフォンは彼女に甘えすぎているせいで、他者との交流をあまり持とうとはしなかった。きっと、彼女は今後もそれが続くとシフォンの為にならないと考え、自ら身を引いたのだろう、と私は考えている」
しかし、実際にそのメイドが辞めてから待っていたのは、暗く心を閉ざしてしまう一人娘の姿であった。
「やはりあの時、無理にでも引き留めておけば…っ!」
カイエンは悔しそうに、当時の自分の行動を恨み、拳をギュッと握らせる。
シエナ達は、何と声をかけたらいいものか迷い、カイエンと同じように俯いてしまった。
「こんなにも美味しいケーキなのだから、シフォンも食べればきっと笑顔になってくれると思った。それが見たくて呼んだのだが…見苦しいところを見せてしまったな」
「いえ…心中お察しします」
テッツがそう返事を返すと、カイエンは気持ちを切り替えるようにして顔を上げる。
「よし、では気を取り直して本来の目的である大浴場建設計画の話し合いを始めようか」
先ほどまでの暗い表情とは打って変わって、カイエンは貴族らしい真剣な表情で会議の開始を告げる。
シエナ達もそれ以上は何も言う事はできず、カイエンの言う通りに会議を始めるのであった。
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