ディータ、初めてのブラ
シエナがテミンへと、自分の宿屋へと帰って数日が過ぎた。
客室は予備客室を含めない状態での満室か、予備客室を含めての満室を繰り返している毎日で、宿屋シエナは連日盛り上がっている。
また、料理教室も再開され、待ってましたと言わんばかりに大勢の主婦が集まった。
主な宿泊客である女性冒険者達も物珍しさから参加をし、その中にチャーチル達も含まれていたりと、宿屋シエナは賑わいを見せている。
ただ、料理教室は今まではこの世界での一週間、つまり10日に1回行われていて月に4回であったが、あまりにも盛り上がり過ぎている為に二週間に一度と少しペースを落とす事にした。
食堂の定休日に開かれる料理教室。
本来であれば、主に料理担当であるガストン、コーザ、エトナの休日となる日であるが、3人は料理教室で一緒に料理を学ぼうと毎回参加をしている。
そうなると、3人がしっかりと体を休める事のできる日が減ってしまう。
宿泊客が増えた事により、宿屋シエナの従業員達の負担はグンと増えたが、特に負担が増えているのが食堂の料理を担当しているこの3人なのであった。
そう言った経緯も含め、シエナは料理教室を月に2回とペースダウンしたのである。
主婦層は少し残念そうにはしていたが、それでも無料で美味しい料理を教えてもらってる立場という事もあり、特に不満の声は挙がらなかった。
こうして、シエナは浮かび上がる問題点を少しずつではあるが改善していこうと務めるのであった。
それから数日が経過し、シエナとディータの遊びに行く約束の日になった。
経営者としての仕事もほとんど片付いたので、シエナは今日は目一杯羽目を外そうと考えていた。
「良かったね!シエナのとこは料理も美味しいし、お風呂もあるからいつかは人気が出ると思ってたんだよ!」
昼食を食べながらシエナから話を聞いたディータは、まるで自分の事のように喜ぶ。
「ようやく軌道に乗れそうだよ。いやぁ…ここまで長かったなぁ…」
果実のジュースを飲みながら、シエナは宿を建ててから今までの事をしみじみと思い出す。
そこでシエナは、ディータのところの宿である黄昏の女神亭は、エルシオン一家3人だけで回している事を不思議に思う。
「ディータ達はよく3人だけで営業できてるよね。いつもほぼ満室なのに」
「シエナの宿と違って料理のメニューは少ないからね。サービスも他の安宿に比べたら多少は良いかもしれないけど、それでもシエナのところの宿に比べるとウチもやっぱり安宿なんだなって思うくらいのサービスだし」
ディータの説明にシエナは「なるほど」と頷く。
「と、言うかシエナのところは食事のメニュー多すぎるんじゃない?あまり多すぎてもお客さんは選ぶの迷ってしまって回転率も悪くなるよ」
「あ~…まあ、回転率は別に良いんだけど、確かにメニューは多すぎるかな?月1くらいしか注文されない料理もあるし…注文の少ない料理はメニューから外した方が良いのかな?」
なるべくならシエナはメニューを減らすという行動は取りたくなかった。
美味しい料理は是非とも広めていきたいからである。
しかし、滅多に注文されないのにその分の在庫を確保しておかなければならない点や、ガストン達の負担を考えたら、減らした方が無難かもしれないともシエナは考える。
「うん。これは帰ってからの要相談ですね」
シエナはハンドバッグからメモを取り出して書き記す。
「それと、私はシエナとは年季が違うんだよ。シエナの方が年上かもしれないけど、宿屋歴は私の方が長い先輩なんだからね!」
ディータが胸を張って答える。
シエナと違い、ディータは年相応に胸も育ってきていて、胸を張るとその膨らみがよくわかる成長具合であった。
そのディータの胸を見たシエナは、以前に下着の作り方を教わりにきた服屋の女性の事を思い出す。
(確か、下着専門店を開店させたって言ってたよね。よし!)
「さて…ねぇ、シエナ。この後どこに遊びに行く?」
「ブラジャーとパンツを買いに行こ!」
シエナはバンと立ち上がって身を乗り出す。
「ブラジャー?」
ディータはシエナ自作の紐パンの事を知っていても、まだブラジャーの事を知らない。なのでブラジャーを買いに行こうと言われても何の事かよくわかっていなかった。
「ブラジャーは胸の型崩れを防ぐ為の下着だよ。それに私もそろそろ自作の紐パンじゃなくてきちんとしたショーツが欲しかったから行ってみよう」
ディータは首を傾げるが、とりあえずどこに遊びに行くかはいつも行き当たりばったりなのでその店に向かう事にする。
二番街区に下着専門店を開いたとは聞いていたが、場所は知らない。
なので、シエナ達は少しの時間をかけてその店を探し当てる。
見つけた下着専門店は、元々空き店舗となっていた建物を少しだけ改装した少し古い建物ではあったが、店先に花を飾り、女性が入店しやすいような良い雰囲気を纏っていた。
「いらっしゃいませ~。おぉ!シエナちゃんじゃないですか!」
出迎えてくれた女性店員は、シエナにブラの作り方を聞きに来た女性だった。今はこの店の店長である。
「いやぁ~シエナちゃんのおかげでたっぷり儲けさせてもらってるよ。ブラもショーツも飛ぶように売れてて、もっと針子を雇わないと在庫なんてすぐになくなっちゃうよ」
流石にすぐにはなくならないが、毎日それなりの量を生産しないと店に置いておく商品すらなくなってしまうという現状だと女性店員は語る。
そのあまりの勢いに、シエナもディータも少し引き気味であった。
「と、言うか…ま た シ エ ナ か!!」
ディータはシエナの頬を抓む。
「いたた、なんで頬を抓むの!」
「何か、最近色んなとこで新商品とか出たと思ったら、そのほとんどがシエナ考案じゃない!」
「だ、だから、それでなんで頬を抓むの!?」
「なんとなく!」
特に理由のない暴力がシエナを襲う!
ひとしきりシエナで遊んだディータは、シエナの言うブラジャーという物がどんな物なのかを確認しようと店内を物色する。
「これって、この下着ってのを身に付けてからその上に服を着るの?」
「そうだよ。ディータも動いていると胸が擦れてたまに痛くなってる事があるんじゃない?」
シエナの質問に、心当たりのあるディータは「うっ…」と胸を両手で抑える。
「そういう擦れて痛いのも、ブラを着ければかなり軽減されるよ」
「そうなの?それは嬉しいかも」
痛みが減るというならば試しに着けてみたいな。と、ディータはブラを見始め、そして値札を見て驚愕する。
「えぇ!?これってこんなにするの!?」
「あぁ、そこは富裕層向けの棚だからね。材質もデザインも凝ってるからそれなりに値段が張ってしまうんだ」
ディータが見たのは可愛らしいピンク色のブラで、レースの刺繍のデザインも綺麗に施されていた。
「質素ではあるけど、一番安いのはこっちの棚。これは本当にシエナちゃんが言ってた胸を保護する為だけの物だね」
そう言って店長がディータを案内した棚には、色気も何もない白色の無地のブラが飾られている棚だった。
「あと、その中間がこっちの棚。ここの棚はデザインはまあまあだけど、生地が安物のだね」
「うぅ…それでも高い…私のお小遣いじゃ手が届かないよ…」
一番安い物でも、ディータの月の小遣いでは足りないくらいであった。
巾着袋の中を見てため息を吐いたディータを見て、店長は微笑む。
「と、まあ案内はしたけれど、シエナちゃんのおかげで儲けさせてもらってるからね。お礼も兼ねて2人とも今回はプレゼントするよ。好きなのを選んでちょうだい」
その後、店長は「次回からはきちんと買ってもらうけどね」と、付け足す。
「え?よろしいのですか?」
シエナは普通に買えるだけのお金は持ってきている。店長が切り出さなければシエナがディータにプレゼントしようと思っていたくらいであった。
「もちろんだよ。私はシエナちゃんのおかげで儲けてるんだからね。少しくらいは返さないと」
それならば、とシエナは遠慮せずに良いのがないかと店内を見て回る。
わざわざ一番高いのを貰おうとかそういうのは考えていなく、自分に合った良いデザインを探そうと思っているのである。
「ぁ、これ可愛い。ディータに似合うんじゃないかな?」
その中で、シエナは控えめなデザインではあるが、可愛らしい薄水色のブラを手に取る。
そのブラの中心には、小さなリボンも取りつけられていた。
ディータは青い髪をしているので、青系の色が良く似合いそうだとシエナは感じる。
「試着は大丈夫ですよね?ディータ、これ試着してみてよ」
シエナは店長に試着は大丈夫かの確認を取って、すぐにディータに手渡す。
ディータは受け取ったブラを見て「確かに可愛いかも、着け方教えて」と、シエナにブラジャーの装着の仕方を聞いて、一緒に試着室の中へと入った。
上半身だけ裸になったディータを見て、シエナは「可愛いおっぱいだなぁ」と、膨らみかけているディータの胸を見る。
その後、自分の胸を見て「まるで成長していない」と、自分の胸をふにふにと揉む。
「何やってるの?」
「自分のおっぱいを揉んでます」
見りゃ分かる、と言わんばかりにディータは呆れ、ブラを腕に通す。
「このホックを使って後ろで止めると良いよ」
初めてのブラのホックの止め方がわからないディータは四苦八苦する。
シエナが手伝ってホックを止める。
「うん、良い感じだね。可愛いよ」
「そう?何か不思議な感じがする。胸にこういうの着けるの初めてだから、慣れるまで違和感感じちゃいそう」
試着室内の姿見で、色んな角度からブラを装着している自分を見るディータ。
「悪くないね。ううん、むしろ気に入った」
何度も見ている内に、自分の青髪とブラジャーの色が合っている上に、デザインも可愛かったのでディータはそのブラを気に入る。
「じゃあ、それにする?」
シエナの質問にディータは「うん」と答え、その後ブラのホックの外し方を教わり、再度装着の練習をする。
同じ色でデザイン的に同じ刺繍のされたショーツもセットになっていたので、ディータの下着は決定した。
次はシエナの番であるが、シエナはブラは必要ないのでショーツだけを選ぶ事にする。
「う~ん…せっかくだからピンクにしようかな?」
まだまだシエナは13歳の子供なので、ピンク色のパンツを穿いていても問題ない。
むしろ、それが可愛いと言えるレベルであった。
自分の体型を武器に、シエナは子供に似合ってる下着を選ぶ。
小さなリボンの付いたピンク色のパンツをシエナは選択した。
店長にプレゼントしてもらう下着を選び終えた後は、シエナは今度は毎日履き替える為のパンツをいくつか選んで、今度はそれを購入する。
「それだけでも結構な値段するんだねぇ…宿屋歴は私が先輩でも、経済的にはシエナの方が遥かに上だよ…」
シエナの宿は、宿としての売り上げは前までは低かったが、食堂としての売り上げはかなりある方である。
それがこれからは宿としての売り上げも上がっていくので、帳簿を見るのが楽しくなりそうであった。
「まあ、その分支払う税金も増えるんだけどね」
誰に言ってるのかわからないが、シエナは呟き、店長も「あぁ…自分も儲かってるからかなり税金取られちゃうなぁ…」と、項垂れる。
「ぁ、そうだ。普通の下着が軌道に乗ったら、今度はいくつか売りに出してもらいたい下着もあるんですよ。特に勝負下着とか」
「勝負下着?」
店長もディータも、シエナからの聞き慣れない単語に首を傾げる。
シエナは店長にだけ耳打ちで勝負下着の主な用途を説明する。
流石にディータはまだ11歳の子供なので、教えるのを遠慮したのである。が、内緒にされてしまったディータは頬を膨らませて「私だけのけ者なんて酷い!」と憤慨していた。
「ほほぅ…それは男女の夜の運動が捗りそうだね。ノッた!今度改めてデザインを教えてよ」
「えぇ、きわどいのから色気たっぷりのまで各種デザインを描いてきますね」
シエナと店長は「ふっふっふ…」と気味悪く微笑む。
面白くないのはディータだけであった。
「わ、凄い!全然痛くならない」
その後、ディータはブラを装着したまま店を出て、シエナと一緒に二番街区を歩く。
その時、いつも擦れて痛かった胸が全く痛くならない事に感動を覚えた。
「これなら忙しくて大変な時でも気にせず仕事できるかも!シエナ、良いの教えてくれてありがとね」
家族3人だけで宿を回しているディータは、忙しくて走り回ってる時などに胸が擦れて痛いのを今まで我慢していた。
それがこれからはあまり気にしなくても良さそうな事に嬉しくなるのであった。
完全なる余談ではあるが、後日、シエナが店長に勝負下着のデザインを描いた紙を持って行った際、他に売り出してみてほしいと一緒に持っていった商品案があった。
その商品は、スポーツブラと『詰め物』であり、パッドはそれはもう凄い勢いで売れたそうである。
そして、ブラと一緒に装着をするだけで胸を大きく見せられるそのパッドを生み出したシエナは、パッドを愛用している者達から密かにパッド長と呼ばれるようになってしまう。
そしてこれは本当に完全な余談であり、どこぞのメイド長とは全く関係のない話であった。
余談のオチのネタって、もう最近ではあまり聞かないですよね。




