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ハイオークの討伐依頼

 シエナは、受付にいるギルド職員のダフロスに話しかけた。

 ダフロスは強面で乱暴な喋り方をするが、根はとても優しい人なのだとシエナは知っている。


「あ~、普通のオークの討伐依頼は今はねぇな。討伐というよりも、狩猟依頼ばかりだ」


 ダフロスの言葉にシエナは苦笑する。

 街でのオーク肉不足により、討伐よりも狩猟が優先されてしまっている。おそらくは、今ならば高値で取引できると踏んだ商人達が依頼したのであろう。



「ただ、テミンから西に半日程進んだ村の近くで、ハイオークが3体出現したみたいでな。そのハイオークの討伐依頼なら、今こいつらの持っている依頼書で出ているぞ」

「え!?ハイオークですか!」


 ダフロスが、シエナの隣で悩んでいる3人を親指で指差してそう告げると、シエナは3人の持つ依頼書を覗き込んだ。

「ハイオークの肉って、普通のオークよりも脂が乗っていて美味しいんですよね~。3体もあれば料理教室だけじゃなく、しばらくの間は宿のメニューも復活できるかも」


 突然、見知らぬ女の子に依頼書を覗かれて驚く3人の冒険者だったが、この将来有望そうな見た目の可愛らしい女の子は、どうやらオークの肉を所望しているらしい。ならば、討伐証明部位以外はこの娘にあげて、将来の為のポイント稼ぎをしておくのも悪くないだろう。

 そう考えた3人は顔を合わせ、頷いた。



「ダフロスさん!俺達、この依頼受けます!!」


 なんて現金な奴らなんだ…。ダフロスはそう思って苦笑をした。


「私も!私も受けたいです!合同でやらせてください!」

 シエナが手を挙げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらそう言うと、3人の冒険者達はギョッとした顔をした。


「ち、ちょっと!いくらなんでも、嬢ちゃんじゃハイオークの討伐なんて絶対無理だよ!ってか、ハンターですらないでしょ!」

 1人がそう言って、シエナを止めようとする。


「お前ら、人を見かけで判断するなって教わらなかったのか?」

 すると少し怒ったような口調でダフロスが口を挟んだ。

「こう見えても、このシエナって嬢ちゃんはきちんとハンター登録していて、しかもランクはお前らよりも遥かに上のランク5だぞ?強さだって折り紙つきだ」


 ダフロスのその言葉に、3人の冒険者は再度ギョッとした顔をした。

 見た目がどう見ても10歳前後であるこの少女は、背が低く、腕どころか体中が細くて少しでも強く抱きしめれば折れそうな華奢な体付きをして、とても強そうには見えなかったからである。


 そもそも、シエナはハンターではなく、オーク肉の狩猟依頼に来た、ただの街娘だと思っていたくらいであった。



「私は別に強くはないですよ。魔法がなければただのひ弱な小娘です」

「ただのひ弱な小娘が、ソロでアリゲーターを5匹狩猟してきて『ワニ肉ゲットです♪』なんて言うか!あの時はギルド職員全員引いてたぞ!!」


 シエナの謙遜にダフロスがマジツッコミを入れる。しかも、それはシエナがまだ11歳の時の話であった。


 シエナが強いのは、魔法の使い方が他の人とは違う特殊な使い方をしているからであり、その魔法の効果がなければ、シエナは見た目通り、本当に非力でひ弱な少女なのである。

 しかし、ギルド職員やシエナと一緒に冒険をした事がある冒険者達は、シエナが特殊な魔法の使い方で体を強化しているとは知らない為、見た目は華奢でもシエナは強い冒険者だと勘違いをしているのであった。


 そしてシエナも、自分の魔法の使い方が普通とは違うという事に未だに気づいていないのであった。



「あ、アリゲーター5匹…」

「しかも…そ、ソロでって…」

「こんなに可愛いのに…」


 冒険者の3人もドン引きである。



「しかし、逆にちょうどいいかもしれねぇな。よし、お前ら!合同でやってシエナについてきてもらえ!」

 元々、3人を心配していたダフロスにとってはシエナの合同依頼の申し出は渡りに舟だった。

 実力者が一緒であれば、3人も調子に乗らないだろうし、シエナから教わる技術なども将来の役に立つだろうとの考えである。


 その後、3人の冒険者は少しの相談をした後、シエナと合同で依頼を受ける事にしたのであった。



「報酬や功績ポイントの分け方は、揉める事のないようにしっかりと先に話し合うんだぞ。終わった後で揉めたりするんじゃねぇぞ」

 依頼の受注処理を行いながら、ダフロスは3人の冒険者に釘を刺す。

 この話し合いを先にやってなかったが為に、終わったあとで揉める冒険者達も少なくはない。


 中には、あえて報酬の山分けについては語らずに合同で依頼を受注して、依頼の達成目前の時などにわざと揉めさせて合同パーティーから抜けさせようとする輩もいるのであった。


 ダフロスは、シエナに関しては何も心配していなかった。

 むしろ、報酬よりもオーク肉が欲しいだけだろうと、呆れている。


「私、報酬も功績ポイントもいらないので、オーク肉だけください!」

 やっぱりか…そう思いながらダフロスが苦笑をする。

 討伐依頼は、狩猟依頼と違って討伐対象を丸ごと持って帰ってくる必要はない。

 討伐証明部位さえあれば良いのだ。


 元々、シエナはオークの狩猟に向かおうとは思っていた。

 それは、誰の依頼も受けずに出ればよかっただけなのであるが、討伐依頼があればついでにそれも片づけておこうと思い、ギルドに立ち寄っただけである。

 報酬であるお金も功績ポイントも貰え、更にオーク肉が手に入る。一石二鳥どころか一石三鳥である。


 今回、普通のオークよりも味が良いハイオークの討伐依頼があると知って、シエナはもちろんそれを受注したいと思った。

 しかし、先客がいた。先客がいるのに、獲物を横取りするわけにはいかない。


 シエナは、報酬も功績ポイントもついでに入るならば程度の考えでギルドに来ただけなので、それならば合同で依頼を受けさせてもらい、討伐証明部位は全部あげて、自分は残りのオーク肉だけもらえばいいや、と思ったのである。



 もちろん、この提案には3人の冒険者達は大歓迎であった。

 3人の冒険者は、報酬ももちろん欲しいが、特に欲しかったのはランクを上げる為に必要な功績ポイントであり、元々討伐証明部位以外は、重いので持ち帰る気など最初からなかったのである。

 ハイオークの肉なら、それなりの金額で売れるであろうが、持ち帰る労力と見合ってないと考えていた。


「一応、言っておくが、これでランクを上げる事ができても、決して調子に乗るんじゃねぇぞ!」

 ダフロスに釘を刺され、少し落ち込む3人の冒険者達。


「話しは纏まりましたので、準備が出来次第出発しましょうか。私はシエナと申します。ランク5のレベル3です。どうぞ、よろしくお願いします」

 シエナは3人に向かってペコリとお辞儀をする。



「こちらこそよろしくお願いします。俺達は全員ランク2のレベル2で、俺はエレンと言います」

「クラウド」

「カルステンです」


 最初に挨拶をしたエレンと名乗った青年は金髪だったが、後の2人は両方共灰色の髪であった。

 エレンはすぐに覚えられるだろうが、クラウドとカルステンは髪の長さも似たようなものだったので、最初のうちは呼び間違えそうだな、と、シエナは思うのであった。



「ハイオークは西の村付近で出現したそうなので、西門から出ますよね?それなら三番街を通ると思うので、ちょっと宿に寄ってもいいでしょうか?武器やその他の道具をいくつか回収したいので」

「いいですよ」


 よく見なくても、シエナは買い物カゴ以外何も持ってなく、エレン達がシエナをただの街娘と思ったのはそれが最大の理由だった。

 冒険者なら、必ず何かしらの武器を持っているはずなのだから。


 その後、冒険者ギルドを出た4人は、西にある三番街の方へ向かって歩きだした。



「今から準備して街を出ると、依頼のあった村付近に到着するのはもう夜になった頃ですね。野営をして、次の日に探索をしますか?」

 宿までの道のりで、シエナが3人に相談を持ち掛ける。

 夜に狩りは危険すぎるので、当然すぎる内容ではあったが、念の為の確認でもある。


「はい、俺達も同じように考えてました。一応2時間くらい歩いた先に村はあるけど、出現したポイントがテミンから直接向かった方が近い場所になってるので、村には寄らずに出現ポイント近くでの野営を予定してました。次の日の探索で見つからなければ、また更に次の日と伸ばしていく予定で、5日経っても見つからない場合は、依頼は未達成という事で帰ろうかと思ってました」


 その言葉を聞いて、シエナはしまった、と、思った。料理教室は3日後なのである。

 今日は移動だけで一日が終わってしまい、そこから次の日にハイオークの探索をする。

 帰りの事を考えたら、その一日しか探索に当てられないのだ。


 これが、自分1人であれば、ハイオークに拘る必要はないので、普通のオークを狩猟して帰れば良いが、今回は合同で依頼を受けてしまっている。

 自分の都合で途中で抜けて帰るわけにはいかないし、何よりダフロスに3人を頼まれてしまっているので、無責任な行動は取れない。

 だからと言って、探索を一日で切り上げるように説得なんてできる訳がない。

 自分と違い、この3人は早くランクを上げたいのだから、マイナス評価を受ける依頼未達成は避けたいはずなのだから。


 シエナは、3人の行動予定を肯定しつつ、頭の中ではそんな事を考えていたのであった。


(ハイオークが1日で見つかりますように…)

 しかし、良い案は思い浮かばず、ただただそう思うだけなのであった。



 その後、4人は使用武器や魔法が使えるかの話しをし、最後に年齢の話しをしたところでシエナが13歳だという事に驚いたのであった。


(まぁ、見た目通り10歳だったとしても驚きだが、13歳でこの外見って…その辺の8歳くらいの子の方が成長してるんじゃないか?)

 エレン達はそんな事を思うのであった。




「ここです。宿に到着しました」

 冒険者ギルドから、歩いて30分程で宿に到着をする。


「おー、立派な外見の宿だな」

「三番街区ってそんなに来ないから、ここにこんな立派な宿があるなんて知らなかったな」


(…ん?宿屋『シエナ』…?)


 エレンとクラウドが話しをしている時、カルステンは宿の看板を見上げ、そこに書かれている宿名に疑問を持った。

(シエナって、この娘の名前じゃ…?)

 心の中で呟きながら、カルステンは宿の中へ入っていくシエナを見たのであった。


「ただいま戻りました~」

 からら~ん、とドアに着けられたベルの音を鳴らしながら、シエナは宿の中へ入る。

 受付には、真面目そうな20代半ばあたりの銀髪の男性が立っていて、シエナの姿を見るなり敬語(・・)で話しかけた。


「シエナさん、お帰りなさい。オーク肉は売ってましたか?」

 青年の言葉にシエナは首を振る。


「ダメです。どこも売り切れてました。やっぱり、しばらくはオーク肉を使う料理は中止になりますね。ガストンさんは今はどこに?」

「料理長でしたら現在厨房で夕方の営業の仕込みをしているところです」

「邪魔しちゃ悪いですね。エルクさん、あとでガストンさんに伝えておいてください」

 エルクと呼ばれた男性は「わかりました」と返事をしてシエナの後ろに立っているエレン達に目を向けた。


「そちらの方々は、お客様でしょうか?」

 シエナに続いて入ってきたのだから、シエナが連れてきた宿泊客だと思うのは当然である。


「いえ、これからこの方達と一緒にハイオークの討伐依頼に出かけます。少しの間、留守にしますので、その間の宿の事はよろしくお願いします」

「お任せください」


「それと、3日後までに帰ってこれないかもしれないので、もし私の帰りが遅れた場合は、料理教室は…そうですね、オムライスにでも変更して、ガストンさんが教えるようにしててください」

「わかりました」

 シエナはエルクの返事を聞くと、後ろにいる3人に振り向いた。


「それでは、準備をしてきますので、こちらのソファーにでも座って待っててください。エルクさん、3人にお茶とお菓子をお願いします」

 そう言い残し、シエナは階段を上がって行くのであった。


 残された3人は、シエナを待つためにソファーに座る。

 ソファーに座った瞬間に、硬いと思っていたので、その柔らかく座り心地の良いソファーに驚く3人であった。

 エルクはその間に茶と茶菓子を準備する。


「どうぞ、お召し上がりください」

 エルクは、3人の前に緑茶と小豆で作られた羊羹(ようかん)を並べていく。エレン達は、目の前に置かれた羊羹が一体何なのか理解できないような表情をした。


「こちらは、シエナが考案しました『羊羹』と言うお菓子です。甘くて美味しいですので、是非ご賞味くださいませ」

「あ、あの…シエナさんってやっぱり、この宿の…」

 カルステンが先ほどの疑問をエルクに質問しようとする、他の2人も、先ほどからのエルクの対応でなんとなく察しはついているようだった。


「はい、シエナはこの宿屋シエナの経営者(オーナー)でございます」

 やっぱり、と言う表情を3人は浮かべた。


「どんだけ凄いんだよ…。13歳で宿屋のオーナーで、冒険者としても一流の腕を持ってるって…」

 普通、自分の店を持っている者は冒険者になんてならない。わざわざ危険を冒す必要はないからだ。

 シエナにはその危険を冒す(・・・・・)必要があったのだが、それを知らない3人はただ、驚くだけである。


「はい、本当にシエナは凄い娘です。あの娘がいなければ、私と私の家族は死んでいたでしょう…」

 エルクはシエナと出会った頃を思い出し、遠い目をする。



 シエナとエルクの出会いは、シエナの宿が完成する間際の事であった。


 エルクは、元々、他国の貴族であった。ある事情(・・・・)により国を追い出されてしまい、あてもなく彷徨い続け、家族と行き倒れになりかけていたところを、シエナに救われたのである。

 今では、シエナが絶対の信頼を置いて総支配人として雇っている。

 エルクは、そんなシエナへ恩を返す為に…シエナの役に立つ為に日々身を粉にして働いているのであった。



 急に目の前の青年が遠い目をして哀愁漂う雰囲気を出し始めてしまったので、エレン達はどう反応すれば良いかわからず、困ってしまった。

 そして、とりあえず出された羊羹を食べてみたら、その美味しさと甘さに驚くのであった。

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