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刀の名前は?

「では、行ってきます。私が戻るまでの間は料理教室はお休みです。張り紙も昨日からしてますので、それでももし来られた方がいらっしゃったら、説明をお願いします」

 シエナの言葉に、エルク達は「わかりました」と頷くと、シエナはリアカーを引いて宿屋シエナを出発した。

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 アンリエットが手を振って見送ると、皆も同じようにしてシエナを送り出す。


 と、言ってもそのままヴィッツを目指すわけではなく、シエナが向かった先はテミンの領主館である。

 一番街区の、見晴らしの良い場所に建てられた立派な大きい建物。まさに領主が住むにふさわしい館で、ルクス達が待っているからだ。


「あ、領主様。お久しぶりです」

 シエナが領主館へと到着すると、そこではなるべくお忍び用にと質素に抑えてはいるが、それでも少し華やかに装飾された馬車を前に、シエナを待つルクス達の姿があった。

「こらこら!何故先に私に挨拶をする!殿下への挨拶が先だろうが!」

 領主のグラハムは、シエナに対して怒りの声を挙げるが、ルクスは特に気にした様子もなく、嬉しそうにシエナに近づく。

「おはよう、シエナ。やっぱりその髪型可愛いね」

 ルクスは、シエナの冒険姿時の髪型が好きだった。

 特に、今のシエナは背中の中間辺りまで後ろ髪が伸びている為、それを1つにまとめたポニーテールをすると、かなりのギャップが生まれるのである。


「ありがとうございます。ルクスさんも、冒険者服、かっこいいですよ」

 髪型を褒められたシエナは、頬を少し赤く染めながら、ルクスの恰好を褒める。特に、普段はしていないマントが冒険者らしい雰囲気を醸し出していた。

「それにしても、凄い荷物だな。もしかして、それ…全部持っていくつもりなのか?」

 ティレルがシエナの引いてきたリアカーを見て驚きの声を出す。シエナは「もちろんです」と返事をした。


「でも、馬車に乗っていくんだから、それを引いていくなんて…」

 今回のヴィッツへは馬車での移動と打ち合わせをしていた。なので、シエナがリアカーを持ってくると、誰か1人がリアカーを引いて歩かなければならない。と、ティレルは感じていた。

 しかし、シエナは指を振って「ちっち…」と言うと…。


「元々この馬車は誰が作ったと思ってるんですか?こんな事もあろうかと、きちんと牽引用のフックをかける場所も作っておいたんですよ!」

 人生で一度は言ってみたかった「こんな事もあろうかと」を言う事ができてご満悦なシエナは、馬車の後ろに何気に作っておいたフックを引っ掛ける場所を手で指し示す。

 そこにこれまた予め作っておいた鎖とフックでリアカーと馬車を繋ぎ、「どうだ!」と言わんばかりのドヤ顔でシエナはティレルの方を向いた。


「へぇ、なんの為の物かと思ったら、そうやって使うのか」

 ティレルは特に悔しがる様子もなく、感心したように馬車の固定具を眺める。

「それで、これは何なの?」

 リアカーには、シエナならすっぽりと入りそうな大きな木箱に、その他小さな木箱がいくつか乗せられている。中身が気にならないと言えば、嘘になるだろう。


「一番大きな箱は、クーラーボックスと言う、簡易的な冷蔵庫のような物です。その他の箱は、各種調味料とちょっとした食材、調理道具ですね」

 乗せられてる荷物のほとんどは、食べ物に関する物であり、シエナの食い意地にはルクス達も苦笑いをするしかなかった。


「また何か作ったのか?今度はどんな物を?」

 唯一、まだ冷蔵庫を見た事もない領主のグラハムは、興味津々にシエナに質問する。

 シエナが冷蔵庫の事を説明すると、グラハムは「それは素晴らしい物だ。是非、陛下にも贈りたいのだが?」と、作ってもらう気満々でシエナに詰め寄る。


「わ、わかりました。帰ったら作ります」

 元々、いずれは国王の分も作ろうとは思っていたシエナは、グラハムの気迫に押されて少したじろいでしまう。

「あ、もし良かったら、母上と姉上にあのドライヤーってやつも作って欲しいんだけど」

 ついでと言わんばかりに、ルクスはシエナにドライヤーを頼んでみる。

 シエナはそれにも頷き、メモを取り出して書き記した。


「ふむ、グラハム。昨日渡した父上宛ての手紙はまだ持ってるか?持ってたら少し追記をしたいのだが」

 急に王族らしい口調で、ルクスはグラハムに手紙の在りかを聞く。

 グラハムは畏まって「はは!ここに」と、胸元から1通の手紙を取り出した。


「すぐ済むから待っていてくれ」

 グラハムから手紙を受け取ったルクスは、走って領主館の中へと入っていく。

 手紙の内容は、現在の調査報告を書き記した物となっているが、その内の半分近くがシエナの事で埋まっている。

 予め、シエナの素晴らしさを手紙で伝え、実際にシエナを連れていった時に話しも聞いてもらえずに結婚を却下されるのを防ぐ為である。


 とは言っても、シエナが結婚を受ける気にならない限りは、今の段階では取らぬ狸の皮算用である。

 それでも、一縷(いちる)の望みは掛けていても損はないはずであるとルクスは考えている。


 シエナは誰にも打ち明けていないが、自分が成人した後にルクスにプロポーズをされればそれは受ける気でいる。

 それまではプロポーズをされても断るつもりではあるが、受けた後は宿屋を辞める覚悟もできている。

 ただ、シエナとしては、やはりルクスには別の良い女性を見つけてもらい、その人と幸せに暮らしてほしいと願っているのであった。


「待たせたな。では、グラハム。確実に父上に届ける様頼んだぞ」

 そう言って、ルクスはグラハムに王宛てへの手紙を手渡す。

 今回、ルクスが追記した内容は「こういうのあったら便利だな。って思うのない?」的な内容であり、次にテミンへ戻ってきた際に、返事の手紙にそれが書かれていたら、シエナに頼んでみようと考えての事であった。


「よし、では出発するか」

 ルクスの号令で、シエナ達は馬車へと乗り込んだ。

 今回、シエナ達と共にヴィッツへと向かう別のメンバーは、御者だけであり、たった5人での旅である。

 旅と言っても、1日半から2日で到着する距離ではあるので、あまり旅と呼べるものではない。ただの長距離移動である。



「わ、すごいすごい!内装はこんな感じになってたんですね!」

 シエナは内装には着手せずに馬車を作成したので、馬車内部に入るなり歓喜の声を挙げる。質素な外装と違い、内装はかなり豪華に仕上がっている。

 壁の装飾も見事ではあるが、床には高級そうな絨毯が敷かれていて、更に設置されている椅子はまるでベッドとして使える程ふかふかであった。

 そんなシエナの様子に、グラハムも笑顔でうんうんと頷く。


「どうだ?中々良い仕上がりになってるとは思わんか?」

「はい!凄いです!流石です!センス良いです!」

 男を喜ばせる『さしすせそ』を使って、シエナはグラハムを褒めちぎる。グラハムも満更ではない表情をして、顎に手を当てていた。


「シエナのおかげで、国王陛下からの私の評価もかなり良いらしい。これからも頼んだぞ」

 グラハムはシエナの肩にガシっと両手を置いて、力強く言い放った。


「お任せください!」

 シエナもこの調子で便利な道具や料理を、ルクスやグラハムを通じて国王へ伝えれば、国王がそれを世の広めてくれると信じている。

 まさか国王が広めた物を、国民が使わない訳がない。

 シエナの、未来の転生した自分への投資は、まだまだ始まったばかりであった。




 それからテミンを出発したシエナ達は、一度テミンの北門から街の外へと出て、周りこむように東へと進路を移した。


「あ~…やっぱり揺れを感じない馬車って良いですねぇ…」

 アルファルトで舗装された道路というわけではないので、若干の揺れは感じるが、それでもこの世界にあった普通の馬車に比べると、段違いに揺れを感じなくなっている。

 そして、中に設置されたソファーに近い椅子がクッションとなっていて、シエナの小さなお尻にも全くダメージが来ない。


「これから東へ真っ直ぐ進んで、海岸近くまで行ったら進路を北へと変える。そこからは蜥蜴(とかげ)の岩場近くを通る事になるから、岩場に差し掛かる少し手前で野宿となる」

 昨日の時点での打ち合わせでも説明していた事ではあるが、再度の確認として、ティレルが今後の説明をする。

 シエナ達はそれに頷き、真剣な面持ちでもう一度打ち合わせを開始した。


「蜥蜴の岩場には石化蜥蜴(バジリスク)はいないが、様々な種類の蜥蜴のモンスターが住み着いている。中でも厄介なのが火蜥蜴(サラマンダー)だ」

「火の魔法を吐いてくる厄介な魔物だよな」

 ルクスの相槌にティレルはコクリと頷くと、その危険性を語りだす。



 大蜥蜴(おおとかげ)と言う、恐竜のラプトルに似た二足歩行でかなり早いスピードで移動するモンスターがいる。

 このモンスターは、鋭い牙による噛みつきの他に、鋭い爪に重い一撃を繰り出してくる凶悪なモンスターで、厄介な事に集団で襲いかかってくる。


 その大蜥蜴の中に、稀に火を吹いてくる個体が現れる。

 それが火蜥蜴(サラマンダー)という魔物である。


 サラマンダーは、力だけなら大蜥蜴よりも弱く、スピードも劣っている。

 しかし、サラマンダーには火を吹く能力がある。

 実際には、火を吹ける器官などは備わっていない為、口から火を吹いてるように見える魔法であるのだが、大蜥蜴と思って油断をしていると、火の餌食になってしまうのである。


 大蜥蜴もサラマンダーも、縄張りとしている岩場で敵対してしまうと非常に厄介である。

 岩を飛び移り、岩の陰から襲い掛かってくる大蜥蜴に、遠距離から火の攻撃を仕掛けてくるサラマンダー。

 これが大蜥蜴だけならば、岩を背に、襲い掛かってくるのだけを撃破していけば問題ないのであるが、遠距離から火の魔法を使われると対処の仕様がない。


 アンチマジックの使える腕の立つ魔法使いや、魔法を吸収したりかき消したりできる魔晶石が使われた高価な盾などの装備品を持っていれば、問題ないのだが、そうでなかった場合は気合で避けるか、大きな盾で火炎弾を防ぐしか方法がなく、そのどちらもなかった場合には成す術なく燃やされる事となる。


 そして、アンチマジックの使える魔法使いは滅多にいなく、同じように魔法を吸収・消滅させられる装備品は、国宝級の物となっているので、一般の冒険者が持っている事などまずない。

 第一王子であるルクスですら、持っていないのだから…。


 ただ、火炎弾の威力はそこまで強くなく、燃え移りやすい服などを着ていなければ、少しの火傷で済むのが救いではある。



「弟が成人した時に、父上から盾が授けられるそうだけど、それは特殊な効果を持つ魔法の盾らしいんだ」

 盾の話をしたところで、ルクスがシエナにそう説明をする。

 ちなみに、すでに成人済みのルクスの姉は、サークレットのような兜を授けられているそうで、それもまた魔晶石が埋め込まれていて、特殊な力を持っているようだった。


「ルクスさんが『剣』でしたよね?じゃあ、あとは『鎧』もあるのでしょうか?」

 ここまでお膳立てされてるなら、当然一式揃っているはずである。

 そう思ったシエナが質問をすると、ルクスはフルアーマーではない軽鎧がある、と頷いた。


(まるで勇者の装備品みたいですね)

 シエナは心の中でゲーム感覚となって楽しむ。

 ただし、一式揃ったところで、天空に浮かぶ城が現れたりするわけではない。


「だから、サラマンダーと対峙しないように気を付けなくてはならない。雨の日だったら奴らも出てこないんだが…生憎台風は過ぎ去って、空は晴れてるもんな」

 台風が過ぎ去って良い事のはずなのに、サラマンダーの出現率が上がってしまうのは、なんとももどかしい事であった。


「とは言っても、岩場の中に入らなければ奴らは人間がよく通る道には出現しないそうだ。昔の人々が通りやすいように岩をどかした広い道になってるから、奴らも襲い掛かりにくいんだろう」

 実際、ルクス達は過去の4年間、一度も岩場でモンスターには遭遇しなかったと語る。


「そうなんですね。じゃあ、私の時はたまたまサラマンダーに遭遇したのか~」

 しれっとシエナは恐ろしい事を口走った。


「え!?今なんて!?」

「いえ、この刀を作る材料の砂鉄を集める為に東の海岸へは行った事があるんですよ。その時、岩場の近くを通りかかったらサラマンダー1匹に襲われまして。少し焦りましたけど、難なく撃破できました」

 そう言って、シエナは刀をぽんぽんと叩き、「それにしても、もう少し北へ進めば港町があったなんて…気づきませんでしたよ~」と呟く。


 その言葉を聞いて、ティレルはシエナの噂を思い出す。

(そういえば…他にはリザードマンも討伐してきたって噂とかもあったな…)

 噂は噂だと思い、信じてなかったが、どうやら本当の事であるらしいと、ティレルは真意を確かめる事を怠った事を反省した。


「あ、刀と言えば、名前は決まったのか?」

 ルクスの言葉にシエナはギクリとした表情をした。

「…ま、まだ何も…」

 別に何も悪い事ではないが、せっかく善意で教えてくれた事なのに、無下にしているような気がしてシエナは後ろめたさを感じている。


「じゃあ、この移動中にでも考えたらどうだ?あと、随分と魔力を帯びてるみたいだけど、もしかして、魔剣へと変化してるんじゃないか?」

 ルクスがそう言うと、シエナは頭の上に「?」を浮かべて自分の刀を見た。


「魔力を帯びてるって…私には見えないんですけど…そういえば、初めてお会いした時にも言ってましたね」

 シエナの言葉に、ティレルが説明する。


「普通は視えないさ。ルクスは魔法は使えないけど、魔力を視る事に長けてるんだ。武器とか道具の魔力が視える人なんてそうそういないんだがな」

 無機物に籠る魔力が視える者はこの世界でもほんの一握りである。そして、そう言った特殊な能力を持った者は鑑定士になっている事が多く、なんの変哲もない道具の山から、特殊な能力を有した道具を見つけ出す才能がある。


 ただ、魔力の籠った道具は滅多に見かける事はない。

 基本的には魔力の濃い場所で自然に発生するのを待つしかなく、それこそ何十年と放置されてきた物にしか魔力は宿らないのだから。


「だから、シエナの部屋にあった物を見てびっくりしたよ。どれもこれも魔力を帯びてるんだから」

 そして、シエナは魔力を帯びた特殊な道具を作りだす事のできる才能があった。


 シエナは道具を作る際に、意識して魔力を込める事もあれば、無意識に魔力を込めながら道具を作成をしている。

 金属の板に文字を掘る時などが特に無意識に魔力を注ぎ込んでいて、シエナのイメージ力と合わさって、魔道具として完成されていた。

 一度完成された魔道具は、全く同じ作り方をすれば別の者でも同じ物を作り出す事が可能であり、その理由は、その道具の用途を作り手が理解しているからである。


「はぁ~…ルクスさんにそんな才能があったなんて…凄いですね」

「ま、それでも俺は冒険者を仮の姿として選んだんだがな。弟のように商人を仮の姿として選んでいたら、もっと違う方向で発揮できたかもな。と、言うかシエナの方が凄い才能なんだがな…」

 ルクスはせっかくシエナに褒められたのだが、シエナの方が凄い才能を持っていたので、素直に喜ぶ事ができなかった。

 魔道具を生み出す事のできる人間は、今まで見た事もなかったのだから。


「それにしても…刀の名前かぁ…」

 シエナは刀を見てう~ん…と唸りだす。

「もし魔剣に変化してるなら、魔力を込めてみたら何か発動するかもよ?その能力を見てから名前を決めても良いんじゃない?」

 ケイトの言葉に、シエナはそれもそうですね。と、言って刀に魔力を込める。

 その瞬間、刀は淡い光を放ちだした。


「バッ!!馬車内で使う奴があるか!もし危険な能力を持ってたらどうするんだ!」

 ティレルが怒鳴り声を挙げて、その大声に馬が驚いて歩を止めた。

「ちょっとティレルさん、いきなり大声出さないでくださいよ。馬が驚いちゃったじゃないですか」

 御者からクレームが入り、ティレルは委縮してしまう。


「ご、ごめんなさい…何も考えてませんでした」

 シエナも考え無しに魔力を込めた事を謝罪する。そして、危険な能力が発動しなくて良かったと安堵のため息を漏らした。


「まあ、何事もなかったんだから良いじゃないか。…何かは発動してるけど…何が発動してるんだ?」

 ルクスは苦笑しながらも危険がなかった事を安堵して、シエナの刀が何かしらの能力を発動させている事を見抜いた。


 シエナの刀は、ほんのり青白く光りを淡く放っていて、見ただけではどんな能力が発動しているかは何もわからなかった。

 シエナ自身も、一体何が起きているのかわからない状態である。


「この状態で斬ってみたら何かわかるのかな?」

 丁度馬車も停まっている事だから、シエナは馬車を降りてすぐ近くにある岩へと進んだ。

 そして刀を構え、岩に向かって魔力を込めて斬りかかってみる。


 ガツッ!と言う音がして、刀はほんの数センチ程、岩にめり込んだ…だけであった。

 他に変わった事は何も起きていない。


「…何も起きませんね」

 シエナは刀を鞘に戻すと、馬車の中へと戻って落胆の色を見せる。

「と、言うか岩を斬ろうとする方が驚きだよ。刃は欠けてない?」

 ルクスの言葉に、シエナは「魔力でコーティングしてるので、大丈夫です」と言って、念の為刀身を確認する。


「一体どんな能力なんだろうな?基本的には切った部分が燃えたり凍ったりするようなのが多いらしいんだけど、今回のを見ても特に何もなかったし」

 ティレルは文献で確認した魔剣や魔法剣の記述を思い出して語る。


「う~ん…これじゃあ名前決めるの難しいですぅ~…」

 能力を参考に名前を決めようとしていたのに、肝心の能力がわからなければ意味がない。シエナは頭を抱えて悩むのであった。


「じゃあさ、シエナに関する事で名前を付けたらどうだ?」

 良い事を思いついたといった感じで、ルクスが提案する。その提案にシエナは「私に関する事?」と首を傾げた。


「例えば…『転生』とか」

「転生…かぁ…」


 転生という単語に、ティレルとケイトは「何それ?」と反応するが、シエナもルクスも少しだけ意地悪そうな顔をして「内緒」と答えた。


「ん~…転生(てんせい)って別の読みで転生(てんしょう)とも読むんですよね。じゃあ…転生百裂(てんしょうひゃくれつ)(けん)とか…?」

 言ってからすぐにそれはないな、とシエナは頭を振った。

 その名称は何だか病に侵された拳法家が使いそうな名前であり、そんなジョインジョインして選択するような名称は付けたくない。


「じゃあ…月牙転生(げつがてんしょう)…いや、これもないな…」

 この名前を付けたら、今後驚くような事があった時に「なん…だと…」と言わなければいけないような気がしてくるし、もしも自分の身に何かあった時に、ルクス辺りに「シエナの魔力が…消えた…」とか呟かれない。


「転生…う~ん、英語にするとリインカーネーション…『りいん』とかが良いかな?でもなぁ…」

 シエナは悩みに悩む。

「転生を繰り返してる…繰り返す…フランス語でリフレイン…別の読みで…『ルフラン』…あ!」

 そこでシエナは顔をパッと明るくさせ、刀の名前を決めた。


「うん!この子はルフランにします」

 元々、歌が好きなシエナは、リフレインという響きが好きであった。まるで何度も転生を繰り返している自分の事のような気もしてならないからである。

 しかし、リフレインは刀の名称としてはあまり良いとは思えない。それならば、つい先ほど考えた『りいん』の方がマシなレベルであったが、リフレインの別の読み方である『ルフラン』なら、刀の名称としておかしくないと感じた。

 ある歌のタイトルにもなっている通り、自分の魂は、何度も転生をルフラン(繰り返し)しているのだから、かなりぴったりである。


「魔剣ルフラン。中々良い響きだとは思いませんか?」

 刀なので、どちらかと言えば妖刀と付けた方が正しそうな気がするが、元々刀自体がこの世界にはまだシエナの持つ1本しか存在しない為、そのまま魔剣を名付けた。


「ルフランの意味は俺達にはわからないけど、うん、良いと思うよ」

 もともと、シエナの持つ刀なのだから、シエナの自由に決めて良い。

 ルクス達は誰一人として、反対する事はなかった。



 こうして、魔剣ルフランは誕生した。

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