その少女、シエナ
初投稿の作品です。
大まかな説明や細かな説明を入れるタイミングがおかしいところがあったり、文脈がおかしいところや誤字も多々あるとは思いますが、頑張って書いていきます。
最初の1話目は、台詞が全くない主人公の説明の話となってしまってますが、どうかお付き合いくださいませ。
アーネスト大陸にはいくつかの国があり、その中のヴィシュクス王国の中に、テミンという名の街が存在した。
恵まれた立地に存在するその街は、周囲を豊かな自然に囲まれ、付近にいくつかのダンジョンも存在していた。
王都エインリウスから馬車で三日程の位置に存在し、多くの冒険者達が集まり年々大きくなっていくその街は、ヴィシュクス国の中で王都に次ぐ市民や冒険者からの憧れの街であった。
そんな冒険者の憧れの街の一角の宿屋に、その少女はいたのであった。
大勢の冒険者が、宿のチェックアウトや食堂部分での朝食を済ませる慌ただしい時間を問題なく捌き終えた少女は、宿の出入り口付近を掃除しながら、宿の看板を見上げた。
宿の看板には『宿屋シエナ』と書かれていた。
その少女の名は『シエナ』、まだ13歳になったばかりだというのに、驚くべきことにその宿の持ち主であった。
2年と少し前である10歳の時に、1人でこの宿を立ち上げ、周囲の人間に助けられたり、ちょっとしたトラブルにも苛まれながらも今日まで頑張ってきたのである。そして、これからも…。
シエナは13歳にしては低めの身長で、やや痩せ細った小柄な体型であり、見た目はこの世界の10歳前後の少女に見える程である。
髪はサラサラのストレートヘアであり、栗色の髪の毛を肩の辺りまで伸ばしたセミロングとなっていて、ほんの少しのアクセントとして、左のもみあげ部分だけを三つ編みにしているシンプルな髪型をしている。
大きく優しそうなその瞳の色は、髪と同じような茶色い色をしていた。
自分の経営する宿を毎日、幾度となく見上げ、その度に嬉しさがこみ上げて笑顔になる。
それは、シエナの昔からの夢を叶え、実際に形にしたものであったからだった。
シエナには、ある変わった特殊な能力が備わっていた。
それは、『前世の記憶と知識を引き継いで生まれ変わる能力』であった。
近い前世ほど、はっきりとした記憶を持って生まれ変わることができるが、古い前世となるとその記憶はかなり曖昧となる。知識に関しては、記憶よりは覚えている事は多いが、やはり記憶と共に忘れてしまう。
しかし、記憶と違い一度覚えた知識は、仮に忘れてしまっていても、きっかけがあればすぐに思い出される事が多い。
シエナとして生まれる1つ前の前世は、この世界とは別の世界である『地球』という星の、『日本』という国での人間としての暮らしであった。
前世で暮らしていた地球では、今と同じく女性として過ごし、その天寿を全うするまで沢山の子供や孫に囲まれ、幸せに過ごしていた。
地球で過ごしていた頃の記憶は、それまでの前世の記憶の中でも一番幸せに過ごせていたと感じられる程であり、地球での趣味は旅行と食べ歩きであった。
寿命で死ぬ直前には、来世で人間に生まれ変わることができたら、趣味であった旅行で立ち寄った、様々な宿やホテルを見てきた経験を活かし、今度は自分が宿を経営して人をもてなし、美味しい食事で人々を幸せにしていきたいと夢みていたのだった。
そう、シエナの昔からの夢と言うのは、シエナがシエナとして生まれる前の前世からの夢であったのだ。
運良く今回も人間に生まれ変わる事ができた為、日本人として過ごしていた記憶と知識はかなり鮮明に残っている。
いつ、事故や病気で死んでしまうかわからなかった為、前世の日本ではそれまでの前世と違い、様々な事に取り組んでいた。
過去には動物や虫に転生する事もあったし、せっかく人間として生まれる事ができたのにも関わらず、環境が悪いばかりにすぐに死んでしまう人生などもあった。
また、本能だけで活動するような知能が限りなく低い動物や虫などに転生するのを繰り返してしまうと、それまでの前世の記憶はほとんど無くなってしまう。
そういった過去の記憶が少し残っていた為、知能が高く、長く生きる事ができる可能性の高い人間に生まれ変わる事ができた時には、精一杯幸せになる努力をし、その人生では覚えても無駄だと思える知識であろうとも、必死で勉強をして覚えていった。
全ては、来世でも幸せに過ごす事ができるようにする為の準備である。
何故、自分が前世の記憶を持って生まれ変わるのかは、すでに疑問に思う事はやめていた。
疑問に思ったところで、それが終わるとは限らないのだから…。
何度疑問に思っても、その事実は決して変わらないのだから、それよりも、来世ではもっと幸せになろうと思えるようになっていったのであった。
前世の地球は、それまで生まれた世界の中でも、一番文明が進んだ世界であった。
生活が便利になる様々な道具に、今まで食べた事がないような美味しい食べ物は、来世でも広めていきたいと思えるものばかりであった。
地球への転生は前世の一度だけではない、かなり昔に二度程転生しているのだが、その事はシエナの記憶からはすでに失われていた。仮に覚えていたとしても、その頃の文明はまだあまり発展していなく、むしろ、別の世界よりも少し劣っていたくらいであったのだが…。
そして現世に至ったのだが、やはりというべきか、生まれ変わった今度の世界の文明はあまり進んではいなかった。
これならば、地球で学べた料理や知識を生かして、これまで過ごしてきた過去の前世よりも楽しく過ごす事ができるであろう。
むしろ、地球よりも文明の進んだ世界へと転生してくれても良かったのだが、そこは贅沢は言えない。せっかくなので、逆に知識を披露する形で頑張っていこうと思っている。
自分の与えた知識により文明が発展すれば、将来また同じ世界に転生する事があれば、例えその記憶が失われていたとしてもその後の人生が楽になる可能性だってある。
また、この現世で仮に失敗してしまったとしても、来世への成功の足がかりとなる。できる限り覚えた知識を披露して、来世でもその知識を覚えたまま引き継げるように頑張っていこうとシエナは考えていた。
今回転生をしたこの世界は、今まで転生した世界でもあまり見られる事のなかった『魔法』の存在する珍しい世界であった。
魔法を実際に見た時に、過去に転生した事のある世界で、現世よりも遥かに魔法技術の発達した世界があったのを思い出した為、現世の魔法はかなりしょぼく見えてしまったが、文明の低いこの世界では、魔法が使えるのと使えないのでは雲泥の差が出てくる。
それに、思い出された魔法の知識は現世で応用のできる魔法であった為、この世界の魔法はシエナにとって大いに役立つものになりそうだった。
そして、この世界で使う事のできる魔法で、できる限り地球の技術を再現し、暮らしを豊かにする事ができれば、きっと現世でも幸せになる事ができるだろうし、同じく魔法の使える世界に転生する事があれば、その知識がかなり役立つであろう。
そうしてシエナは、前世での知識を生かして宿屋を立ち上げ、現世で使える魔法の力によって、地球の技術を再現できる物は少しずつではあるが、再現をしていった。
結果、冒険者が集まり、沢山の宿が存在するこのテミンの街の中で、成功を収める事ができたのであった。
「よし!今日も一日頑張りますか!」
店先の掃除が終わったシエナは、笑顔でそう言って、宿の中へと入っていった。